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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
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12のドイツ舞曲 D420 概説

12のドイツ舞曲 Zwölf Deutsche D420
作曲:1816年 出版:1871年
楽譜・・・IMSLP

(シューベルトの舞曲について 概略)
(舞曲の種類)

1871年、ウィーンのJ.P.ゴットハルト社から「12のドイツ舞曲と5つのエコセーズ(1817年)」として出版された(「5つのエコセーズ」は8つのエコセーズD529からの抜粋で、これについては別記事で詳述する)。底本となった自筆譜はシューベルトの友人、アルベルト・シュタットラーAlbert Stadlerが所有していたもので、前年の暮れに他の自筆譜とともにゴットハルトに売却された。自筆譜はこの出版の後に処分されてしまったものと思われる。別にシュパウンが作成した筆写譜があり、そこには「1816年」という作曲年が記録されていたが、この資料も現在は行方不明になってしまった。現在のところ唯一の原資料はゴットハルト社の初版譜ということになる。ただし初版では一部の繰り返し記号が省略されていて、現行のヘンレ版や新全集ではシューベルトの他の舞曲に倣って繰り返し記号を補った形で出版されている。

この舞曲集の最大の特徴は、最終曲のあとに大規模な「コーダ」が置かれていることである。またニ長調の舞曲とイ長調の舞曲が交互に現れ、中央にあたる第7曲のみがホ長調というシンメトリカルな調性配置もあまり類を見ない。これらのことは、この作品が単なる実用のスケッチ集ではなく、通奏を前提として作曲された連作であることを示している。

以下、舞曲の分類方法については以前に書いたこちらの記事を参照されたい。
コーダを別として、全12曲はいずれもB(二部形式)をとっているため、構造の分類は割愛する。

1. ニ長調 ワルツ型
 平行6度で重ねられたメロディーは管楽器の音色を思わせる。B部分のファンファーレのような力強いオクターヴユニゾンが印象的。
2. イ長調 ワルツ型
 ドミナントの和音から始まり、ややコケティッシュな表情。
3. ニ長調 ワルツ型
 オクターヴで重ねられた高音域のメロディーが繊細な印象を与える。バスラインの進行も美しい。
4. イ長調 ワルツ型
 2小節ごとのフレーズの開始音にターン型の前打音が付いていて、どことなくレントラー的な鄙びた雰囲気を醸し出す。
5. ニ長調 ワルツ型
 跳躍の多い旋律線はヨーデルを思わせ、こちらもやはり田舎舞曲の趣。
6. イ長調 その他+ワルツ型
 3度の平行で滑らかに始まるが、B部分ではバスが勢いよく跳躍する。
7. ホ長調 ワルツ型ドイツ舞曲型
 唯一のホ長調の舞曲。3連符のアウフタクトがスケルツァンドな性格を表す。B部分の前半は伴奏型がドイツ舞曲型の和音連打に。
8. イ長調 メヌエット型ワルツ型
 各部の前半はオクターヴのバスが連続する豪快なメヌエット型、後半は柔らかなワルツ型に変化する。1拍半分のアウフタクトが精力的なリズムを導く。
9. ニ長調 メヌエット型
 付点を伴うアウフタクトで始まるスタティックなリズムはいかにもメヌエット風。
10. イ長調 ドイツ舞曲型(変形)
 A部分の左手は厳密には同音連打ではないが、ドイツ舞曲型に分類してよいだろう。そのいくぶん原始的なリズムに乗って、右手は3度の重音を奏でる。
11. ニ長調 ワルツ型+その他
 一転してII度の和音から始まるメランコリックな舞曲。B部分では前曲に引き続き3度の平行がモティーフとなる。
12. イ長調 ワルツ型
 ひらひらと舞い降りる分散和音型のメロディーに、借用和音を多用した複雑な和声がつく。B部分の3度重音の下降音階は、シューベルト舞曲としては珍しい高度な演奏技術を要する。
コーダ ニ長調
 64小節に及ぶ長大なコーダは、3つの部分に分かれている。A(16小節)はニ長調からイ長調を経て嬰ヘ短調で終止。B(24小節)は嬰ヘ短調からイ長調、そしてニ長調に戻る。これら2つのセクションはそれぞれリピートを伴う。ファンファーレ風の和音連打と、その主題の叙情的な変奏が交互に奏され、最後のC部分ではファンファーレが連続、そして分厚い和音の強奏で力強く曲集を閉じる。舞踏会の締めくくりを演出するかのようなコーダは、シューマンの「謝肉祭」にも通じる華やかさがあり、曲集全体が一晩の舞踏会を描写しているようでもある。
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  1. 2017/06/12(月) 22:04:32|
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