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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
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川島基さんインタビュー(2) 奥様は声楽家

インタビュー第1回はこちら

佐藤 ドイツに14年いらしたんですか?
川島 正確には13年と10ヶ月。
佐藤 その間、向こうでも演奏活動をされていて、それで日本に帰ってこられて、何か違いのようなものってありますか?
川島 それはよく聞かれるんですけどね。弾いてる本人にしてみれば、どこでも本気で挑むわけですから、その点では変わりはないんですけど、やはり演奏が終わったあとの聴衆の反応がね。
佐藤 ああ。
川島 ヨーロッパの人たちって、温度を感じるんですよね。聴衆の熱気だったりとか、そういうのはヨーロッパの方がよりダイレクトに味わえますよね。日本人って割とおとなしく聴いてる人が多くて、自分の思っていることを外に出すのを憚るっていう文化があると思うんですけど。でももうちょっと日本もね、こうオープンになってもいいんじゃないかって思うことは多々ありますけどね。
佐藤 (笑)ええ、ええ。
川島 あとは、やっぱりホールの響きだったり、よく感じるのは調律の違い。ヨーロッパの調律の仕方と、日本の調律師さんのやり方って、たぶんおそらく聴いてるポイントが違うんだと思うんですけど。単音で弾いたときに、日本の方はぴたっとこう合ってる。
佐藤 うんうん。
川島 向こうの調律師さんが調律したピアノは、1音だけ鳴らすと、そんなに整ってる感じは受けないんです。でもハーモニーとか、ポリフォニーを弾いたときに初めて立体的に浮き上がってくる。日本の音の立ち上がり方と、向こうの立ち上がり方と、違う感じが僕はしました。
佐藤 ははあ、なるほど。言われてみればそうかもしれないですね。
川島 向こうに住んでいたとき、日本に一時帰国して演奏会すると、耳が最初なじまない。響きにね。
佐藤 ああ。
川島 反対に日本から向こうに行ったときには、ああこれかって思うんです。
佐藤 なるほど。たとえば、マネージャーや主催者とのやりとりって日本とヨーロッパで結構違ったりするものですかね。
川島 それはどうですかね?
佐藤 どちらも同じようなものですか?
川島 日本はわからないですけど、向こうの主催者の人たちっていうのは、なんていうんですかね、まあよく話しますよね。演奏家と。
佐藤 (笑)なるほどね。
川島 雑談っていうか、人となりをちゃんと知らないと弾かせてもらえないみたいなところがある気が、僕はしました。主催者の人と長電話したり、メールのやりとりで結構込み入ったことも・・・事務的な話だけじゃなくて、音楽観まで探られるっていうかね。
佐藤 それは面白いですね。

佐藤 奥様は声楽家でいらっしゃるんですよね(ソプラノの川島幸子さん)。
川島 そうですね、はい。もともと妻はピアノ出身で、ドイツに行ってから歌を始めたんですよ。
佐藤 すごいですね。
川島 だからいまだに声楽曲よりもピアノ曲の方が好きなんです、実は。
佐藤 へえ、そうなんですか。
川島 歌は仕事というか、自分にはそういう声があるっていうことで歌を本業にしてますけど、ピアノのことは誰よりもよくわかってて、誰よりも厳しい耳で聞かれてますから、一番怖いです。いつもダメ出しばっかりされてます(笑)
佐藤 奥様ともいろんな曲を共演されてると思うんですけど、シューベルトも演奏されます?
川島 この間「ミニョンの歌」をやったんですよ。
佐藤 はい、はい。
川島 ミニョンはヴォルフもシューマンも書いてますけど、やっぱり僕はシューベルトのミニョンが一番心に響くんです。でも声楽家の妻にしてみれば、非常に難しい音域で書かれていて、歌いづらい。特にソプラノの高音域の人には、ものすごく難しいそうです。もちろんシューベルトは歌曲王っていわれてるんですけど、むしろリヒャルト・シュトラウスとかの方が、とっても自然に声になるみたいで。
佐藤 ああ、それはでもよく聞きますね。シュトラウスみたいに「人間の声の扱いをよく知っている」っていうよりは、シューベルトは「こういう音楽が欲しい」っていうので書いてるので、声に乗せにくいという。
川島 あと僕が感じるのは、なんていうか・・・ピアノのレッスンをしてて、シューベルトの曲で「歌うように」っていっても、今言ったような、声楽で歌うっていうよりかは、弦楽四重奏がいっぱい流れてきてるのが聞こえるんですよね。弦楽器の音の鳴り方、奏法だったりアーティキュレーションだったり、どうもそうにしか聞こえない自分がいて。カンタービレでも、ヴァイオリンとかチェロの音だなって思うんですよね。
佐藤 それはしかし、すごく新しい意見ですね。言われてみれば、確かにそういう曲も思い当たります・・・。

(つづく)
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  1. 2017/06/03(土) 22:07:00|
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