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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

D567→D568のリニューアルポイント(両端楽章)

ピアノ・ソナタ 第7番 変ニ長調 Sonate Des-Dur D567
作曲:1817年6月 出版:1897年
楽譜・・・IMSLP

ピアノ・ソナタ 第8番 変ホ長調 Sonate Es-dur D568
作曲:不明 出版:1829年5月(作品122)
楽譜・・・IMSLP

前回の記事からだいぶ間が空いてしまったが、引き続きD567からD568への改訂作業について論じたい。

今回は、とりわけ新旧の違いが大きい両端楽章において、具体的にどのような改変が行われたのかを見ていく。

●第1楽章
まず構成面について、ざっと表にしてみた。

D567D568
提示部 [1]-[110](110小節)提示部 [1]-[112](112小節)
第1主題 [1]-[27] Des:(主調)第1主題 [1]-[27] Es:(主調)
経過句 [28]-[40] des:(同主調)→As:(属調) 経過句 [28]-[40] es:(同主調)→B:(属調)
第2主題 [41]-[58] As:(属調)第2主題 [41]-[58] B:(属調)
経過句 [59]-[62] as:→Ces:経過句 [59]-[62] b:→Des:
第3主題 [63]-[87] Ces:→b:→As:第3主題 [63]-[87] Des:→c:→B:
小結尾 [88]-[110] As:(属調)小結尾 [88]-[112] B:(属調)
  
展開部 [111]-[139](29小節)展開部 [113]-[158](46小節)
(1) [111]-[117] b:→As:
(2) [118]-[122] as:→Ces:
(3) [123]-[129] Ges:
(4) [130]-[139] es:→Des:
(1) [113]-[120] c:→B:
(2) [121]-[125] b:→Des:
(3) [126]-[134] As:
(4) [135]-[139] as:→Ces: ((2)の繰り返し、D567の[118]-[122]と同型)
(5) [140]-[146] Ges: ((3)の繰り返し、D567の[123]-[129]と同型)

(6) [147]-[156] es:→Es:
  
再現部 [140]-[238](99小節)再現部 [159]-[258](100小節)
第1主題 [140]-[166] Des:(主調)第1主題 [159]-[185] Es:(主調)
第2主題 [167]-[184] Des:(主調)第2主題 [186]-[203] Es:(主調)
経過句 [185]-[188] des:→Fes:経過句 [204]-[207] es:→Ges:
第3主題 [189]-[213] E:→es:→Des:第3主題 [208]-[232] Ges:→f:→Es:
コーダ [214]-[238] Des:(主調)コーダ [233]-[258] Es:(主調)


一見してわかるとおり、構成においては、提示部と再現部はほとんど同一とみなしてよい。大きく変化しているのは展開部である。
D567の展開部の(2)(3)にあたる部分が、調性を変えて繰り返されており、結果的に、D567では29小節に満たなかった展開部が、D568では46小節にまで拡大されている。110小節の提示部に対して29小節という、明らかにアンバランスな長さの展開部を、少しでも長くしようとしたのだろう。規模は拡大しているものの、同じ内容を平行的に並べただけであり、展開部の主な役割である主題間の葛藤や緊張が形作られているわけではない。
この「展開部の弱さ」はシューベルトのソナタ形式の特徴であり、これを弱点と見るか、個性と見るかによってシューベルトの器楽曲への評価は変わってくる。ただ、少なくともシューベルト自身が、D567の展開部の内容に満足していなかったらしいことがこの改訂から垣間見える。

細部については、無数の改訂の跡がある。提示部から、主な部分をいくつか示してみよう。
D567-I-1tema
D567 第1楽章 第1主題

D568-I-1tema
D568 第1楽章 第1主題

まず[3]の1拍目のリズム。8分音符が、付点のリズムに置き換えられている。音楽が俄然生き生きしてくる。
そして[6]の2拍目の跳躍に追加された装飾音。歌謡的な身ぶりが加わり、全体的に雄弁な語り口になっていることがわかるだろう。

D567-I-2tema
D567 第1楽章 第2主題
 D568-I-2tema
D568 第1楽章 第2主題

第2主題においては、[41][43]などの弾んだアーティキュレーションを、平坦なスラーにしてしまっている。これは再現部に揃えたというべきかもしれない。もっと明らかな違いは、[46][54]の8分音符のリズムが付点となり、[55]の3拍目の音型も滑らかに変えられていることだ。これらは一般的に言って、D568の方が自然に聞こえるだろう。

D567-I-diver
D567 第1楽章 第2主題から第3主題への経過句

D568-I-diver
D568 第1楽章 第2主題から第3主題への経過句

経過句の4小節目、[62]にpと書き加えられているのは、表現上大きな違いである。D567では[61]のクレシェンドがそのまま[63]のmfに続いていくことになるが、[62]に書き込まれたpはsubito pを意味し、転調によって別世界へ入る印象を強めている。

D567-I-3tema
D567 第1楽章 第3主題の一部

D568-I-3tema
D568 第1楽章 第3主題の一部

第3主題の[64]左手は、第2主題の[41]同様、スタッカートが消されてレガートが指示されている。個人的には、ここはD567の方がチャーミングに思える。

D567-I-codetta
D567 第1楽章 提示部の小結尾(コデッタ)の後半
 D568-I-codetta2
D568 第1楽章 提示部の小結尾(コデッタ)の後半

コデッタは繰り返しが多いのだが、D568ではたびたび音域をオクターヴ上下させることで変化を作ろうとしている(そのぶん演奏には少し苦労を要する)。そして提示部の繰り返しの直前に、D568では属七の和音を2小節挿入しており、冒頭の変ホ長調へ戻る流れをより自然に作っている。ちなみにD568の提示部の繰り返しの記譜については疑問点が残るのだが、これについては後日改めて論じたい。

D568-I-recap
D568 第1楽章 再現部冒頭

展開部を飛ばして再現部に目を移すと、D568では第1主題にかなり多くのヴァリアント(変奏)が施されているのがわかる。これはD567には全く見られなかったものだ。古典派の時代には即興で行われたであろう、こうしたヴァリアントに対するシューベルトの趣味が現れていて興味深い。演奏者の立場からいうと、提示部と全く同じ再現部の場合、第2主題に至る分岐点で暗譜を間違えやすく、変奏によってそうしたリスクが軽減されているといえる。

●終楽章(D567第3楽章、D568第4楽章)
こちらもまずは構成を表にまとめてみた。ソナタ形式で書かれている。

D567D568
提示部 [1]-[68]([72]) 68(72)小節提示部 [1]-[73]([77]) 73(77)小節
第1主題 [1]-[18] Des:(主調)第1主題 [1]-[18] Es:(主調)
経過句 [19]-[24] Des:→As:(属調)経過句 [19]-[24] Es:→B:(属調)
第2主題 [25]-[41] as:→Ces:第2主題 [25]-[41] b:→Des:
第3主題 [42]-[54] Ces:→As:(属調)第3主題 [42]-[54] Des:→B:(属調)
小結尾 [55]-[68] As:(属調)小結尾 [55]-[73] B:(属調)
(経過部) [69]-[72] As:→des:→A:(経過部) [74]-[77] B:→es:→Ces:
  
展開部 [73]-[96](24小節)展開部 [78]-[130](53小節)
(1) [73]-[76] A:
(2) [77]-[83] a:→C:→a:
(3) [84]-[89] a:→g:→f:→es:
(4) [90]-[96] Es:→As:→Des:
(A1) [78]-[86] Ces:
(A2) [87]-[94] Ces:→h:→g:→Es:
(A3) [95]-[103] Es: (A1の繰り返し)
(A4) [104]-[111] Es:→es:→h:→G: (A2の繰り返し)
(B1) [112]-[117] G:→a:→h:

(B2) [118]-[123] h:→a:→g:→f: (D567の(3)に対応)
(B3) [124]-[130] f:→B:→Es: (D567の(4)に対応)
  
再現部 [97]-[167](71小節)再現部 [131]-[223](93小節)
第1主題 [97]-[114] Des:(主調)第1主題 [131]-[148] Es:
経過句 [115]-[128] Des:→Ges:→・・・→es:→des: 経過句 [149]-[162] Es:→As:→・・・→f:→es::
第2主題 [129]-[145] cis:→E:第2主題 [163]-[179] es:→Ges:
第3主題 [146]-[158] E:→gis:→Fis:→Des:第3主題 [180]-[192] Ges:→b:→As:→Es:
コーダ [159]-[167] Des:(途中中断)コーダ [193]-[223]([207]以降はD567の欠落部分。
  [211]までは提示部コデッタと同型、[217]より第1主題を回想して終止)


こちらは、まず提示部・再現部のコーダ部分に、D568では5小節の挿入がある([63]-[67]、[201]-[205])。
D567-III-codetta
D567 第3楽章 コデッタの一部
 D568-III-挿入
D568 第3楽章 コデッタの一部。赤枠で囲ったのが挿入された5小節。

これは第3主題の[42]-[46]に基づくもので、コーダ部分全体に統一感を与えている。
そして展開部だが、D568では特異な構成をとる。すなわち前半(A)と後半(B)に二分されているのだ。前半[78]-[111]はD568で新たに書き下ろされた部分である。ここでは提示部のどの部分にもなかった、新しい楽想が展開されている。どことなく舞曲的で、ウィーン風の情緒を含んだ旋律が、右手と左手で交互に演奏される。[112]からが後半で、怒濤の展開となるが、[118]からはD567と同型、いわば「リサイクル」した部分である。ここでも第1楽章のコデッタ同様、音域を頻繁に上下させている。
確かに展開部の規模は拡大されているが、提示部の終わり(コデッタ部分)のモティーフを徹底的に使用したD567の展開部と比べると、前半の印象もあってずいぶんのどかなもので、展開部としては緊張感に欠ける感も否めない。

細部に目を向けると・・・
D567-III-1tema
D567 第3楽章 第1主題

D568-III-1tema
D568 第3楽章 第1主題

まず[1]のメロディーのアーティキュレーションが変化している他、細かいことだが[5]からの左手の上声部の連打がD568では途中で止まっているのがわかる。D567のこの部分は弾くのが難しく、演奏技術上の理由で改変されたものと思われる。

D567-III-codettabegin
D567 第3楽章 提示部コデッタ冒頭

D568-III-codettabegin
D568 第3楽章 提示部コデッタ冒頭

またコデッタ開始部のデュナーミク、D567ではmfだったのが、D568ではpp ma ben marcatoという珍しい指示に変わっているのも目を引く。これも、実際の演奏(聴取)経験に基づいて改訂が行われたことを示唆している。


緩徐楽章と、D568で新たに加えられたメヌエットについては次の記事で詳述したい。
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  1. 2016/10/03(月) 20:24:12|
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