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ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
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最終稿から遡る:ソナタD567とD568について

この記事では、1817年6月に作曲された変ニ長調のソナタ(D567)と、1829年5月に「作品122」として出版された変ホ長調のソナタ(D568)の関係と、その一次資料について簡単に述べる。

まずはシンプルな事実から。
D568は、D567の「改訂稿」、ヴァージョンアップ版である。

これら2つのソナタには、現行のドイチュ作品目録では同じ「D568」という番号が割り振られている。オットー・エーリヒ・ドイチュは当初、変ニ長調にD567、変ホ長調にD568を充てたのだが、ドイチュ没後の1978年に行われたカタログの改訂時に、変ニ長調を「第1稿」、変ホ長調を「第2稿」として、どちらもD568にまとめることになった。D567は現在「欠番」扱いである。
しかしながら、
・変ニ長調ソナタは末尾に欠落があるとはいえ、極めて完成に近い形を示しており、独立した作品として扱うことができること
・変ニ長調ソナタから変ホ長調ソナタへの改訂時には、メヌエット楽章が追加されているほか、両端楽章にかなり手が加えられており、同一の作品の別稿と見なすには無理があること
・変ニ長調ソナタそのものに「草稿」と「決定稿」が存在し、呼称がややこしくなること
などの理由により、このブログでは今後も旧カタログの通り、変ニ長調をD567、変ホ長調をD568と表記することを断っておく。

では「最終稿」たるD568から、徐々に過去に遡る形で話を進めていこう。

ピアノ・ソナタ 第8番 変ホ長調 Sonate Es-dur D568
作曲:不明 出版:1829年5月(作品122)
 I. Allegro moderato 変ホ長調
 II. Andante molto ト短調
 III. Menuetto. Allegretto 変ホ長調
 IV. Allegro moderato 変ホ長調

D568は、1829年5月、ウィーンのペンナウアー社から「第3グランド・ソナタ 作品122」として出版された。シューベルトの死の半年後のことである。シューベルトの生前に既に3曲のピアノ・ソナタが出版されている(D845、D850、D894)が、このうちD894は「幻想曲、アンダンテ、メヌエットとアレグレット」という小品集の体裁を取ってしまったため、死去のすぐ後に出版されたD568が「第3」の呼称を獲得したわけだ。実質的には4曲目に出版されたピアノ・ソナタということになる。
この初版譜以外に、D568の存在を伝える資料はない。自筆譜も筆写譜も一切残っていないのだ。ゆえにD568の作曲、すなわちD567からD568へのヴァージョンアップの作業がいつ頃どのように行われたのかについては、確たる証拠は何もない

D568は4楽章構成のソナタで、このうち3つの楽章はD567を下敷きにしている。新たに挿入された第3楽章は三部形式の「メヌエット」で、主部は書き下ろしのようだが、トリオ(中間部)は1817年に作曲された「2つのスケルツォ」D593の第2曲のトリオを、ほとんどそっくりそのまま転用したものである。
まとめると、

D568 - I Allegro moderato 変ホ長調(258小節)← D567 - I Allegro moderato 変ニ長調(238小節)
D568 - II Andante molto ト短調(122小節)← D567 - II Andante molto 嬰ハ短調(122小節)
D568 - III Menuetto. Allegretto 主部 変ホ長調(36小節)← 書き下ろし
       Trio 変イ長調(28小節)← D593-2 Trio 変イ長調(28小節)
D568 - IV Allegro moderato 変ホ長調(223小節)← D567 - III Allegretto 変ニ長調(167小節、未完)

ということになる。
第2楽章はD567の緩徐楽章をほとんどそのまま増4度(!)上に移調したものだし、第3楽章のトリオもD593-2とほぼ同一である。
しかし両端楽章に関して言えば、長2度上に移調されたというだけではなく、ソナタ形式の展開部に当たる部分がどちらもほぼ2倍に拡張され、大規模に作り直されている。
つまりD568は、D567を拡大する形でアップグレードされた、ということができる。

では、「原曲」であるD567に話題を移そう。

ピアノ・ソナタ 第7番 変ニ長調 Sonate Des-Dur D567
作曲:1817年6月 出版:1897年
 I. Allegro moderato 変ニ長調
 II. Andante molto 嬰ハ短調
 III. Allegretto 変ニ長調(未完)

D567には自筆の清書譜があり、これが一次資料となっている。12の紙片からなるこの自筆譜は、兄フェルディナントからその甥エドゥアルト・シュナイダー(フランツの妹マリア・テレジアの息子)を経て、シューベルト自筆譜の収集家として知られるニコラウス・ドゥンバのコレクションとなった。現在ウィーン市立図書館に所蔵されており、SCHUBERT onlineで画像が閲覧可能である。前記事で触れた通り、「Sonate II」とタイトルが記され、1817年6月の日付もある。
第3楽章は完結していないが、自筆譜の最終ページは最下段まで書き込まれており、その中断箇所は音楽的にもキリの良いポイントではない(コーダの第1小節までで、あと20小節ほどで音楽は完結する)。おそらくこの楽章は記譜の時点では完成していたが、その後最終ページが散逸してしまったと見るのが妥当だろう。次作のD571(第1楽章)のような明らかな「未完作品」ではない。
コーダは、D568の平行箇所をそのまま移調して接着することで修復可能であり(細部についてはD568への改訂時に手を加えられた可能性もあるものの)、D567は第三者による補筆を必要とせずに「完成品」として演奏することができる。

さて、このうち第1楽章と第2楽章の一部には、草稿(スケッチ)たる自筆譜が残されている。
いずれも、印刷譜としては2000年刊行の新全集で初めて公にされた。

第1楽章の草稿は2つに分かれている。(1)第1~179小節までと、(2)第180~235小節(末尾)までである。この2つの草稿は全く違うフォーマットの紙に書かれていて、興味深い。いずれもSCHUBERT onlineで閲覧可能である。
(1)は縦長の五線紙3枚に書かれていて、例の「Sonate X」の記入跡がある草稿である。これが本当にXなのか、だとすると「第10ソナタ」は何を意味するのかなど疑問は尽きないが、いずれにせよ上から「II」と訂正されている。決定稿でいうところの第34~35小節と第67小節にあたる部分がなく、全体の小節数が3小節短くなっている。ドイチュカタログではこのことには触れられていないが、清書時にシューベルトが加筆したのだろう。
(2)は一転して横長の五線紙で、歌曲「月に寄す」D468(1816年8月7日作曲)の自筆譜の裏にぎっしりと書かれている。途中まで書いたところで五線紙が尽きて、過去作の裏面を利用したのだろう。シューベルトは若い頃、ほとんど常に五線紙不足に陥っていたといわれており、このように表裏で別々の作品が書きつけられた自筆譜は珍しくない。
草稿は、前述の通り清書稿より3小節少ないことと、細部の相違を除けば、音楽の基本的な流れは清書譜とほとんど変わらない。

一方で第2楽章には、「ニ短調」の草稿が存在する。この草稿のことについては次の記事に譲ろう。
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  1. 2016/07/03(日) 21:50:12|
  2. 楽曲について
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