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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
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ヴァイオリン・ソナタ(デュオ) D574 概説

ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調 Sonate A-dur für Violine und Klavier D574
作曲:1817年8月 出版:1851年(「デュオ」作品162として)
楽譜・・・IMSLP


独自の世界を築きつつもどこか閉じられた印象の前3作(D384D385D408)と比べて、このソナタの開かれ方、確信に満ちた世界観の提示は一線を画している。この1年あまりの間に、シューベルトは少なくとも6曲のピアノ・ソナタに取り組んだ。その経験を通して、より大柄なソナタの骨格を獲得することに成功したのだろう。ピアノ・ソナタD459+D459Aの各楽章との類似については以前の記事を参照されたい
楽器法も格段の進化を遂げた。前3作では、一方が主旋律ならば他方が伴奏に回るという場面が多かったのに対し、本作ではその役割がより頻繁に交替し、また渾然一体となって音楽を進めていくことで、両楽器が主従関係ではなく分かちがたい有機体として機能している。演奏時間が特に長いわけではないのに「グラン・デュオ」(大二重奏曲)と呼び習わされているのは、その器の大きさを示しているのだろう。

第1楽章はのどかで歌謡的な第1主題で始まり、自由な展開を経て、ホ長調の第2主題では両楽器が華やかに技巧を競い合う。展開部ではそれまでほとんど登場しなかった3連符(3分割)リズムが現れ、第1主題に由来する付点リズムのシンコペーションと食い違いが発生することで緊張感が高まっていく。
第2楽章はホ長調のスケルツォ。4楽章構成のソナタで、第2楽章にスケルツォを置く(ベートーヴェンスタイル)のはシューベルトにしては非常に珍しい。両楽器とも幅広い音域を縦横無尽に飛び跳ねる。ハ長調のトリオは一転して鄙びた雰囲気。
そのトリオの調性を受け継いだハ長調の第3楽章では、11小節目にして早くも遠隔調への転調が始まり、煌めくような高音のトリルに伴われて変ニ長調、変ト長調、嬰ヘ短調という大周遊を繰り広げ、あっさりとハ長調に戻ってくる。中間部は甘美な変イ長調に長く留まり、その楽園での生活は終結近くでも短く回想される。
第4楽章はソナタ形式のフィナーレ。舞曲のリズムを基調とし、エネルギーを発散しながら精力的に前進していく。ホ長調の第2主題は、何とも言えないウィーン風の情緒に満ちている。展開部の終わりに置かれた謎めいた反行カノン風の転調のシークエンスも印象に残る。
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  1. 2023/05/17(水) 05:21:13|
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