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ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
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斎藤和志インタビュー(3) 4スタンス理論で炙り出されたゴーストライター

第2回はこちら

斎藤 ちょっと話は脇道にそれますけど、ショパンって、言われるじゃないですか。
佐藤 はい、オーケストレーションが下手だって。コンチェルトの。
斎藤 あれ、本人が書いていないと思うんですよ。
佐藤 え?
斎藤 そんな説ってないんですかね? あれは、僕からすると、絶対にショパンのオーケストラではないです。それはさっきの4スタンス理論にも関係してるんです。
佐藤 ええ、そうなんですか?
斎藤 つまりショパン自身はA2っていう、シューベルトと同じリズム感の人なんですけど、オーケストラを書いてる人はあれはたぶんB1タイプの人です。
佐藤 ええええ。
斎藤 チャイコフスキーとかワーグナーとかと同じオケの厚みで書いてる。だから本人はあれ書いてないと思いますよ。証拠も何もない、演奏してのただの直観ですけど。


ショパン:ピアノ協奏曲第1番+第2番(アルトゥール・ルービンシュタインpf)

佐藤 ほんとですか? それすごい話だな。
斎藤 僕は個人的には間違いないと思ってる。アシスタントか誰か。
佐藤 でもショパンがあの曲を書いたときはすごく若くて、19歳とかですから、誰かが手伝ったという可能性はありますよね、先生とか。
斎藤 僕はそうだと思っている。
※掲載にあたってリサーチしたところ、ショパンのピアノ協奏曲の出版譜のオーケストラパートは「ショパン以外の人物がオーケストレーションした可能性が高い」というのが公式見解のようです。詳しくはWikipediaの記事へ。

斎藤 ちなみにシューマンの曲もいくつかは、クララか誰かが
佐藤 あ、それはわりと確実な話ですよね。
斎藤 それも感じますね。
佐藤 やっぱり違うんですか。
斎藤 シューマンは我々と同じA1という人たち。ピアノコンチェルトの冒頭とか。


シューマン:ピアノ協奏曲(クリスティアン・ツィメルマンpf)

佐藤 跳ねがありますよね、あの人は。
斎藤 でもトロイメライ【YouTube】とかちょっと違う。
佐藤 トロイメライ、うーん、そうかな(笑)
斎藤 だから何曲か、シンフォニーとかのオーケストラちょっと手伝ってるところあるんじゃないかなと。
佐藤 オーケストレーション手伝ったぐらいは全然あるでしょうね、たぶん。
斎藤 明らかにブラームスと同じB2っぽいところがあるんですよ。
佐藤 ほう。
斎藤 それはシューマンが個人で書いてるところには出てこないから、あ、これ本人かな?と思うところは結構ある。そういう点でこの理屈は結構面白いですよ。
佐藤 すごく面白いです。
斎藤 まあ大概の人は、そんなくだらねえ、占いみたいな話信用できないよって思うでしょうけど(笑)まあでも、たとえ違ったとしてもどうせみんな死んでるからいいやっていうのもある。違ってても直接誰かがひどい目にあっちゃうような話じゃないから。で、はっきりしてることはひとつだけある。まあプロとしては内緒にしておいたほうがいいんでしょうけど、オケマンで、ショパンのピアノコンチェルトやるのに、オケの伴奏に無上の喜びを感じながらやってる人はまず滅多にいないですよ。
佐藤 (爆笑)
斎藤 だから、内緒なんですけど正直、ショパンコンクール、なるべく日本人の人に合格しないでほしいと思ってる。みんなもう何十回も弾きに来てくれるんですよ。ここぞとばかりに。
佐藤 (笑)
斎藤 まあ冗談ですが。もちろん、それを客席で聴いてたらすっごく幸せなんですよ。
佐藤 はい。
斎藤 格好いいなと思うんですけど、伴奏弾いてる方は正直あんまり・・・オーケストラ自体の音は。基本ピアノの和音をなぞって、白玉書いてるみたいな。
佐藤 でもどうだろうな、なんかそういうスタイルってあの頃あったのかなってちょっと思うんですけどね。ただショパン以外のそういう曲を、あんまりやらない、というかもう全くやらないから知らないだけで。カルクブレンナーとか、フンメルのコンチェルトとかいうのはたぶんああいうスタイルで、それを真似たんじゃないのかなあ。
斎藤 おそらくスタイルというよりは、あの音を置かないはずなんですよ。美意識的に。
佐藤 そうなのかな。
斎藤 だって隙間が空いてないとイヤなはずなんですよ、基本的にAタイプは。たとえばシチリアーノのリズムが特徴的で。
佐藤 はい。
斎藤 A1の人がシチリアーノ書くと、伴奏はぼーん、ぼーんとしか書かない。そうすると「ら~~んららん、ら~~んららん」って自由に演奏できる。


レスピーギ:シチリアーノ(古風なアリアと舞曲より)(コンスタンティン・シチェルバコフpf)

斎藤 でもB1のフォーレは。
佐藤 「たかたかたん、たかたかたん


フォーレ:シシリエンヌ(エマニュエル・パユfl エリック・ル・サージュpf)

斎藤 そう! そうすると、その刻みに合わせて比較的カッチリスクエアになる。で、それはオーケストラで大人数でやると非常にはっきりしてくる。チャイコフスキーの伴奏とかは、「ぱぱぱぱぱ」ってずーっと詰まってる。あれと完全に同じ匂いなんです。
佐藤 ほう。
斎藤 一切抜けない。Aタイプならところどころ隙間というか余白が空くはずなんですね。
佐藤 ショパンに関しては、コンチェルトのオーケストラ部分は、たぶん初めはピアノで書いたんですよね。本人による2台ピアノ版っていうのが残ってるので、まずそれを書いて、その伴奏部分を、あとからオーケストレーションしたんだと思うんですよ。
斎藤 だから、誰かが。
佐藤 なるほど、まあその可能性はあるのかな。
斎藤 たとえばピアノ協奏曲に出てくるフルートのメロディーをフワッと抜いて演奏するのは基本的に無理なんです。なんでかっていうと、本来あのメロディー自体は抜いて演奏できるし、むしろ場合によってはするべきなのに、オーケストレーションが下で弦がばーっと持続的に鳴ってるから。
佐藤 ああそこが問題なんだ。
斎藤 抜くとメロディーがへこんで客席に聴こえなくなっちゃう。キープしてなきゃいけないんです。これ面白いことに、プレイヤーにも言えることなんですけど、メロディーの語尾のなんてことない全音符。ピアノはみんな同じように減衰するけど、管楽器だと、「らーん」って減衰する人と、「らああああ」ってキープする人と、はっきり分かれる。この人たちは、「ディミヌエンドだよ」って言わないと、らーんって演奏してくれない。で逆に、減衰していく人には、「キープだよ」って言わないと、らあああって演奏してくれない。こういう無意識のとこにけっこうタイプ差による好みが出たりします。
佐藤 はあ。
斎藤 B1の人って、譜面書いてても、比較的全部音符を埋めていく感じで書くんです。隙間をあまり作らない。クラシックに限らずチック・コリアとかもそうですね。だからあのメロディーって、抜いて演奏すると曲にならない。ディズニーのアラン・メンケン先生とかも。キープしてないと、成立しない音型してるでしょ。チャイコフスキーもそうです。途中で抜くと、オーケストレーションがずっと中詰まってるから、メロディー聞こえなくなっちゃう。
佐藤 なるほどね。
斎藤 だから我々はかなり意識して、抜かないようにキープだキープだって演奏しないと、難しい作曲家。でもシューベルトにはその必要は全然ない
佐藤 なるほど。
斎藤 シューベルトはおそらくA2で、持続するリズムっていうのはさほど出てこないんですよ。
佐藤 はあはあ、確かに。
斎藤 「しぼめる花」の序奏の刻みも(ダクティルス)、「たん、たんたん」であって「たあああたあたあ」ではない。
D802冒頭譜例
シューベルト:「しぼめる花」変奏曲~序奏冒頭部

斎藤 途中で抜いて成立する。フルートのメロディーも白玉だけど、微妙ではありますが、やっぱりそうなんです。あんまりコンサート前に種明かししちゃうとあれですけどね。
佐藤 いや、これは初めて聞く話ですね。
斎藤 まあこの話自体は、ほとんどスポーツの人たちの間で流行ってた理論だったんですけど、それを音楽にも、むしろ音楽にこそ大いに有効な話だってなったのは最近で。まあいきなりだとかなり怪しく聴こえるんですけど。
佐藤 うーん、まあ確かに筋は通ってますね。
斎藤 だから今はいろんな人に聞いてもらって、「あ意外にそうだよな」「これは違うかも」ってなって鍛えていってもらいたいとこですね。


リストは肘を使う

佐藤 ショパンに関して言うと、ショパンって指を伸ばして使う人なんですが、でも肘が動かなかったらしいんですよ。で、リストはその対極で、指は丸めて使うんだけども、腕全体が自由に動くようなピアニストだったと言われていて。それ以前の奏法って、チェンバロもそうですけど丸めてかつ肘は使わないっていうのだったので、ショパンとリストそれぞれに別々の革新を奏法に持ち込んだ、みたいなことを言われてるんですけど。
斎藤 それは非常に面白い。実際は丸いか平たいかというのは見た目であって、どちらの関節が主導かという問題なんですが、リストは明らかにB2、つまりリヒャルト・シュトラウスとかブラームスとかと同じで、だから確かに肘を自由に使っていたんでしょう。アルゲリッチとかもそうですよね。まあとはいえアルゲリッチって器用にプロコとかカクカクも弾きますよね。


プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番(マルタ・アルゲリッチpf シャルル・デュトワ指揮NHK交響楽団) ピアノソロ開始から再生されます

斎藤 ピアニストの恐ろしさっていうのはそこです。ピアニストだけですよ、ああやって、他のタイプの動きを本番でも完全に近いぐらいコピーしちゃうっていう。よく身体壊さないなと思いますけどね。
佐藤 まあ器用な人は多いでしょうね、やっぱり教育の過程で矯正される部分も大きいとは思うんですけど。
斎藤 おそらくピアノの人はちっちゃい頃からやってて、合わない感じの人は途中で脱落して、向いてなかったって思ってる人もいるんじゃないですかね。
佐藤 あると思いますね。
斎藤 まあ本当に向いていない人もいるとは思うんですけど(笑)。そこへいくと、チェンバロがなんでAタイプが多くて、オルガンがBタイプが多いのかっていうのは関係しているかもですね。Bタイプは今言ったように、音が持続するのが自然なので、こういう人は、趣味としてたぶん、オルガンの音が好きというか自然なんですよ。
佐藤 あ、そうか、持続音だから。
斎藤 チェンバロは減衰する音しか出さない。
佐藤 ものすごい減衰早いですからね。
斎藤 だからチェンバロが好きな人って、「らん」と、こう音が抜けるAタイプ。古楽器科とか見ててもわりとそんなイメージありますね。だからめちゃくちゃアゴーギクがあって。でたまに、Bタイプでチェンバロ弾く人もいるんですけどね、そういう人たちは装飾音をやたら隙間なくジャラジャラ入れてるなっていうふうに。そういうふうに、身体の本能的なところに近い人の方が、面白い演奏してるってのはあるかなと。

佐藤 でもそれって、これまた追究していくとだいぶ危なくなりますけど、遺伝的なものとかってあったりするんですか?
斎藤 何万人も統計取ってますけど、あんまり遺伝は関係ないっぽいですよ。
佐藤 えー、不思議だな。
斎藤 例えば、藝大でこういう理屈も踏まえて教えてるんですけど、いま面白いことに一卵性双生児の、双子の女の子教えてるんです。ところがひとりがA1、ひとりはB2
佐藤 ・・・ええええ。そんなことあるんですか。
斎藤 だから出してる音も、リズム感も全く違うんです。不思議にも。ふたりとも優秀で、コンクールでよくふたり同時に本選に残って、でも「双子なのに全然違う音と違う演奏だね」って。デュオなんてやると合図を出すときに、いつも喧嘩になっちゃうみたいですよ。A1の子は、さんはい、1って上に行く。B2の子は「なんで、それわかんない」と。
佐藤 ははあ。それはすごく面白いですね。
斎藤 フルートの奏法にしても、下唇に押しつけるなっていう先生と、しっかり押しつけろ、プレスしろっていう先生にはっきり分かれる。これは全く逆なんですが、上顎を動かさないで、下唇をコントロールして吹いてる人と、下唇を固定して、上を動かしてフルート吹いてる人がいるんです。
佐藤 どっちかなんだ。どっちも動かすというわけじゃない。
斎藤 どっちもだとフガフガになっちゃう。どっちを支点にするかという感じですね。
佐藤 なるほど、どちらかを動かすと。全然思ったことなかったですね。
斎藤 指揮者も完全に分かれていて・・・

第4回につづく
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  1. 2022/10/05(水) 00:15:48|
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