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ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
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16のドイツ舞曲と2つのエコセーズ D783 概説

16のドイツ舞曲と2つのエコセーズ Sechzehn Deutsche und zwei Ecossaisen D783
作曲:1823年前後? 出版:1825年1月(作品33)
楽譜・・・IMSLP

イタリア・コモ出身のピエトロ(ペーター)・カッピ Pietro (Peter) Cappi (1779-1826?)は1792年にウィーンに移り、叔父とともにアルタリア社で働いていた。叔父の死後、1816年に自らの出版社を興すが、1818年にアントン・ディアベリとタッグを組み、「カッピ&ディアベリ社(ディアベリ&カッピ社)」として数多くの楽譜出版を手がけた。その後は資料によって記述がまちまちなのだが、1823-24年頃に共同経営を解除したようだ。
1825年1月に出版されたこの舞曲集は「カッピ社」からの刊行である。つまりカッピはディアベリと袂を分かったあと、再び単独名義で出版事業を行っていたことが見てとれる。シューベルトの舞曲集はディアベリ&カッピの独壇場だったが、分離の際にこの曲集の権利をカッピが獲得したのだろうか。
しかしカッピは翌1826年頃にグラーツで死去したとみられている。以降はディアベリが事業を継承し拡大させていくことになった。

「作品33」として出版されたこの曲集の収録曲は、複数の自筆譜にまたがっており、また自筆譜の見つかっていないものもあって、ソースの詳細はここには書き切れない。全体的な傾向としては、D146(後半)やD366の収録曲とともに並べられていることが多く、1823年前後に作曲された舞曲のセレクションとみることができる。

ドイツ舞曲
1. イ長調 [B] メヌエット型

ブラームスが1864年に出版した「12のドイツ舞曲」D790(作品171)の第2曲と同一曲。全24小節で通常であれば三部形式[T]なのだが、後半でA部が回帰しないため、B部が2倍に拡大された二部形式という特異な構成をとる。
冒頭4小節がオクターヴユニゾンという意表を突いた開始。[5]で和音が加わり、オーケストラ的に響きが広がる。B部では嬰ハ短調から始まってさまざまに転調していき、やや収拾がつかなくなったあたりで終止する。

2. ニ長調 [B] ドイツ舞曲型
「感傷的なワルツ」D779の序盤を思わせる、1拍と1/4のアウフタクトを持つ。コラール風の穏やかな舞曲。

3. 変ロ長調 [B] ワルツ型
1拍目と2拍目の間の細かい休符がレントラー風のニュアンスを出している。III度の和音への指向が強い。

4. ト長調 [B] その他
アウフタクトで駆け上がる音階のパッセージが華やかなヴィルトゥオーゾ風の楽曲。

5. ロ短調→ニ長調 [B] ワルツ型
悲しげなロ短調で始まるがすぐにニ長調に落ちつく。8分音符が続く器楽的なメロディー。前半では2拍目に置かれていたアクセントが後半では1拍目に移動する。

6. 変ロ長調 [B] その他
両手でファンファーレ風に和音を連打するエネルギッシュな舞曲。前半はト短調で終止し、後半では減七の和音が頻出する。

7. 変ロ長調 [B] ワルツ型
"mit erhobener Dämpfung"(ダンパーを上げて=ペダルを踏んで)という異色の指示。付点リズムがブラームス風の大人の雰囲気を出す。

8. 変ホ長調 [B] ワルツ型
2拍目の2分音符への強勢が全体のリズム感を偏らせていく。

9. ハ長調 [B] その他
第6曲に似た和音連打の舞曲だが、後半の転調の重なりが緊張感を高める。

10. イ短調 [B] ワルツ型
こちらもD790-8(変イ短調)に酷似しており、第1曲同様に後半が拡大されている。愁いに満ちた旋律が続く。

11. ホ短調→ト長調 [B] ワルツ型
8分音符の旋律線には跳躍が多く、レントラーを思わせる。

12. ハ長調 [B] ドイツ舞曲型
重音の右手を単純な左手が支える。

13. ハ長調 [B] その他
アウフタクトに付けられたfpがしゃっくりのような独特の拍感を表出する。

14. ヘ短調→ヘ長調 [B] ワルツ型
前半はヘ短調から変イ長調へ。後半では調号も変わりヘ長調となる。プラルトリラーが多用されている。

15. ヘ短調→変イ長調 [B] ワルツ型
3拍目から1拍目にかけてのタイでシンコペーションが起こり、メロディーの重心が3拍目に移動する。

16. ヘ長調 [B] メヌエット型
力強いコラール風の終曲。後半では一時的に変イ長調に転調する。

エコセーズ
1. ロ短調→ニ長調

左手のマーチ風の伴奏型に乗ってエコセーズが始まる。この曲の自筆譜は見つかっていない。

2. ロ短調→ニ長調
D781-1と同一だが、一部左手のオクターヴに変更があり、より弾きやすくなっている。
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  1. 2022/04/11(月) 10:04:53|
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