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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
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メヌエット 嬰ハ短調 D600 概説

メヌエット 嬰ハ短調 Menuetto cis-moll D600
作曲:1814年? 出版:1897年(旧全集)
楽譜・・・IMSLP

ヘ長調のミサ曲D105の「ベネディクトゥス」の合唱パートだけの自筆譜の裏に書きつけられていたメヌエット(自筆譜:schubert-online)。「ベネディクトゥス」の方には1814年5月29日という日付が書き込まれており、メヌエットの大譜表の冒頭にある「Clav.」(Clavier=鍵盤楽器の略)という楽器指定も、シューベルトが1813年からせいぜい1814年前半までしか使用しなかった表記法なので(それ以降はForte-PianoあるいはPianoforteと書くようになる)、この時期(17歳頃)の作品であるという見方が主流である。
低弦のピツィカートを思わせる荘重なオクターヴのスタッカートの上で、2声のメロディーが対位法的に絡み合っていく。|:A:|:BA':|の三部形式で、B部では下降音型が模倣されカノン風の展開となる。全体的に厳粛な雰囲気が漂い、ミサ曲の裏面ということも関係するのか、どうも宗教音楽の趣がある(主音で始まる2声が上と下に分かれていく様子はバッハの「マタイ受難曲」の冒頭を彷彿とさせる)。
いったいシューベルトは何のつもりでこんなシリアスな「メヌエット」を書いたのだろうか。踊りの伴奏とは考えにくい。
モーリス・ブラウンはこの作品の成立時期をもっとずっと遅く「1817年の暮れ」と推定している。1813-14年当時のシューベルトの他のメヌエット(D41D91D335など)とあまりにも作風が違うという理由だが、1817年仮説の背後にあるのは、関連作品とされるホ長調の「トリオ」D610の日付が1818年2月となっている事実である。



わずか16小節のこのトリオには「あるメヌエットの失われた息子と見做される」という風変わりな但し書きがある。文字通り受け取るならば、あるメヌエットのトリオとして作曲されたのだが、何らかの事情で取り除かれた、あるいは消失してしまったトリオ部分だけを後からもう一度記したもの、ということで、実際に作曲後しばらく経ってからフェルディナントのためにわざわざ書き直した自筆譜が残ったということらしい(つまり1818年2月に作曲されたわけでもないのだ)。本体たる「あるメヌエット」というのがどれを指すのかはもちろん、それが現存しているのかさえも不明なのだが、ブラウンはこれをD600と同定したのである。
確かに嬰ハ短調のD600とホ長調(平行調)のD610、調性関係はぴたりと合致する。ドイチュも同様の可能性を考えていたらしい。実際にこの2作品を「メヌエットとトリオ」として、ダ・カーポ形式(D600+D610+D600)で演奏している例も多い。

この問題に関して私自身の見解を述べれば、D610がD600のトリオだということはまずありえないと思う。D610は1拍ぶんの弱起(アウフタクト)で始まるのだが、D600の最終小節には3拍目まで音があり、単純にうまく合致しない。実際にD600とD610を組み合わせて演奏する際には、間に2拍程度の休みを入れて辻褄を合わせなければならない。オリジナルのトリオとして作られたのならば、こういうことは起きないだろう。
もう一つ理由を挙げるとすれば、曲想があまりにも違いすぎる。D610は親しげな表情の、カジュアルで可愛らしいトリオであり、いかめしいD600とちぐはぐな印象がある。
以上のことからD600とD610の関連性は低いと判断し、今回も組み合わせて演奏することはしない。

考えてみれば、シューベルトのメヌエットはほぼ必ず1拍のアウフタクトで始まるのが通例で、D600はそういう意味でも慣例から外れている。
メヌエットと題されてはいるが、舞踏目的ではなく、おそらくソナタや他の大規模楽曲の中間楽章として書かれたのではないだろうか。新全集もその立場を取っているのか、「舞曲」ではなく「小品」の巻に収録されている。
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  1. 2021/05/17(月) 22:16:48|
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