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ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
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山本貴志×佐藤卓史 対談 (1)ポロネーズについて

第11回公演ゲストの山本貴志さんにお話を伺いました。対談はすでに3回目ということで(第1回第2回)、いきなり本題から。

山本佐藤対談1

佐藤 今日はまずポロネーズについて、一般的なことをお話ししてもらえれば。
山本 そうだね。ポロネーズは、マズルカと並んでポーランドの2大舞曲と呼ばれているものだけど、ポロネーズは宮廷音楽発祥で、マズルカの方は人々の生活から生まれてきたもの、元々の出所が違っていて
佐藤 ああ、そうなんだ。
山本 たぶんそういった性質もあって、マズルカにはテンポもいろいろあるし、リズムの取り方も本当にいろいろ存在するんだけども、ポロネーズは形式がほぼ一定で、テンポの違いもあまりない。曲によってゆったりしたタイプのポロネーズ、もしくは生き生きしたポロネーズっていうぐらいで、基本的にはポロネーズっていうのはゆっくりの舞曲なんだよね。
佐藤 確かに。
山本 聞くところによると、ショパンも「英雄ポロネーズ」のレッスンのときに、技巧的な作品だからね、お弟子さんが速く弾こうとすると、いけないって。こんなものではありません、もっとゆっくり弾かないといけませんって言っていたって話なんだけど。形式的には保守的なものなんだよね。
佐藤 ほう。
山本 主部があってトリオがあって、主部がもう一回戻ってくるっていう形式はショパンも継承していて、それこそ最後の3つのポロネーズ、5番・6番・7番はかなり拡大解釈をして、7番の幻想ポロネーズに至っては形式も全く違うけれど。でもそれ以前のポロネーズ、遺作(注・遺作のポロネーズはすべて10代の頃ワルシャワで作曲された)もそうだし、あと4番までの出版されたポロネーズも、形式にはほとんど手を加えていない。
佐藤 ふむふむ。
山本 だから、もう創意工夫の塊のような、作曲の実験をしていたようなイメージのマズルカと違って、ポロネーズはそういった伝統的な形式が強くて、それはポーランド人の気質とか、自分たちの存在意義みたいな、ポーランド人を表している「核」のようなものなのかなという気がして。
佐藤 うーん。
山本 今ポーランドで暮らしていてもそんなことを感じて、マズルカとは違う、保守的な舞曲なのかなというのをすごく思うんですよね。
佐藤 今でも民俗舞踏として、生活の中で踊ったり、演奏したりすることはあるの?
山本 うん、結婚式とかのお祝いの場とか、儀式のときに踊られたりするかな。
佐藤 そういうときの編成、オーケストラ編成っていうのはどんな感じなの? 吹奏楽とか?
山本 いや、基本的には弦楽。
佐藤 ああ、弦楽器なんだ。
山本 そう、時々ファンファーレのような感じで、管楽器が使われたりすることもあるけれども。
佐藤 はいはい。
山本 基本的には弦楽のアンサンブルで、若干シンバルとか打楽器が入るような感じかな。絢爛豪華な雰囲気で、優雅にゆったり踊るっていうイメージの曲だから。
佐藤 なるほど。
山本 華やかではあるんだけど賑やかではなくて、ある種の落ち着きを持っているのが特徴かな。リズムの取り方も、ポロネーズの一番特徴的なリズム、いわゆる「タンタタタッタッタッタッ」っていうね。
ポロネーズのリズム
ポロネーズの基本リズム
日本でよく言われるのが、「タンタタ」のタタ、16分音符2つが、書いてあるよりも少し、なんというか・・・
佐藤 詰まるような、タンータカタッタッタッタッと。
ポロネーズ複付点
山本 そう、それで前が複付点のようになるっていうふうに言われているんだけど。実は、現地ではそれはほぼ重要視されていないところで。
佐藤 ほーう。
山本 そのあたりってウィンナ・ワルツとも似てるのかな、誇張した感じになりやすい。
佐藤 うんうん。
山本 ポロネーズで一番大切なのは実は1拍目にある。踊りのときに、3拍目で膝を曲げて1拍目で足を踏み出すっていう動作があって、「英雄ポロネーズ」のあの1拍目の付点音符もそうなんだけど。
ショパン英雄
ショパン:英雄ポロネーズ 作品53

だから「1拍目に重心を置く」ことを重要視しているんだよね、現地では。
佐藤 へえ、なるほど。
山本 で、それによってそのあとの16分音符2つのリズムが少し詰まるっていうことは時々あるんだけれど。
佐藤 なるほど、1拍目の重さの方が重要で、リズムが詰まるのはどっちでもいいというか、結果的にそういうふうになるっていうことなんだね。
山本 そう。結果的になるだけなんだよね。
佐藤 たとえば、あの「女性終止」っていわれる、「タッタカターラン」とかいう、あの2拍目にドミナントが来るやつ。あれもやっぱり踊りに関係してるの?
ポロネーズ女性終止
ポロネーズの女性終止

山本 そうそう。「女性終止」っていわれるぐらいで、しとやかに終わるっていう。お辞儀をするイメージで。
佐藤 よく言うよね。
山本 やはり発想は宮廷から出ているから、とにかく優雅に、荒々しくなくという意図で作られていて。その終止というのは、それこそショパンの中期以降の、形式が拡大していってからの曲にもちゃんと受け継がれている。
佐藤 あれが独特だよね。
山本 なので、(1)タンタタタッタッタッタッっていうリズムがひとつあるのと、(2)女性終止の形でターランって終わるのと、この2つが大きな特徴だね。
佐藤 舞曲ってだいたい初めは短かったのが、どんどん長くなっていくもので、たとえばワルツとかも、シューベルトの時代は8小節が1単位で、それの×2か×3か、ぐらいだったのが、ヨハン・シュトラウスとかになってくるとそれをつなげたり、関係ない間奏みたいなのを入れたりしてどんどん長くなっていくっていう歴史があって。
山本 ふーん。
佐藤 その形式の拡大の、ポロネーズで言えばショパンの「幻想ポロネーズ」がその究極型だと思うんだけど。それでも元々のエッセンスがところどころに残ってるっていうのが面白いよね。踊りの曲ってプリミティヴな、原始的なもの、それを芸術作品に仕上げていくと、最後はどこが残るのかっていうのが。
山本 ねえ。今回のシューベルトの連弾のポロネーズにはテンポ記号がないけど・・・
佐藤 そうだね、全く書いてないね。
山本 そう、ショパンのポロネーズにはテンポ表示の種類がいくつかあるんだけど、テンポというよりは発想の、Maestosoとか。
佐藤 ああ、表情記号というのかな?
山本 そう。初めに話したように、生き生きしたタイプのポロネーズと、ゆったりしたタイプのポロネーズがあるんだけど、僕のなんとなくのイメージとしては、その生き生きしたタイプの曲には「Allegro maestoso」って書いてあって、ゆったりしたタイプには「Allegro moderato」とか「Moderato」って書いてあるだけの曲もあったかな。「英雄ポロネーズ」は「Maestoso」だけだったりとか。
佐藤 うんうん。
山本 なので、若干の違いはあるけれども、基本的にはポロネーズっていうのはテンポ表示がなくても、だいたいこのぐらいっていう染みついているイメージがあって、だからテンポ表示が必要ない。
佐藤 なるほど。ショパン以外に、ポーランドの作曲家はポロネーズ書いたりしてる?
山本 ええと・・・僕が知る限りなんだけど、マズルカならシマノフスキも書いてるし、パデレフスキもマズルカ的なものを書いてるけど、ポロネーズっていうのはあまり聞かない・・・
佐藤 あ、そうなんだ。ほら、ヴィエニアフスキって人かポロネーズ書いてるじゃない。ヴァイオリンの。
山本 あ、そうだったそうだった。あれは有名だけど、逆にポロネーズは、ショパンの影響が強すぎるのか・・・
佐藤 そうなんだ(笑)
山本 ショパンも遺作のポロネーズをすごくたくさん書いていて、遺作だけでも何曲あるのかな。出版されたものが7曲あるけど、たぶんそれよりも・・・
佐藤 9曲ぐらいあるんじゃない? 全部で16曲だもんね。
山本 そうだ。あの遺作のポロネーズ、僕はすごく好きなんだけれども、なぜ出版しなかったのかがずっと不思議だったんだけど。それも、初めにちょっとお話しさせていただいたけど、ポロネーズは形式がそもそも決まってるから、自分なりの美しいメロディーを書こうと思っても、形式的な制約があって、なかなか個性を盛り込めないっていうのかな・・・
佐藤 ああ、なるほど。
山本 ショパンも出版するにあたって、ヨーロッパの片田舎の作曲家の「お国自慢」みたいに思われたくないっていう、プライドみたいなものがたぶんあったんだろうね。
佐藤 はっはっはっ・・・
山本 きっと頭の中にずっとこびりついているものだから、こんな言い方をしてしまうと怒られるかもしれないけど、どこか日本の演歌みたいなね。
佐藤 ああ。
山本 リズムだけではなくて、メロディーもだいたいこう来るだろうっていうのがもう想像できちゃう。
佐藤 あー、なるほどなるほど。
山本 新しいことをしようと思っても、もう短調か長調かの違いだけっていう感じになりがち。
佐藤 うんうん。
山本 だから、ただのお国自慢じゃなくて、他の国の人にも違和感なく芸術として受け取ってもらえるくらい、自分なりのアイディアを盛り込めたのが、出版された最初の作品26のポロネーズ。あの1曲目なんて、攻撃的な、ちょっとポロネーズではない感じの始まり方をするんだけど、ああいうやり方を考えつくまでには時間がかかったのかなって。そういった意味では、個性的なポロネーズを作るのって難しいのかもしれない。
ショパンop.26
ショパン:ポロネーズ 作品26-1

佐藤 なるほどなるほど。あの、チェロのポロネーズはすごく早いよね。作品3とか。
山本 そう、あれはね。
佐藤 あとはアンダンテ・スピアナートが作品22か。で、ソロの純粋なポロネーズは作品26まで待たなきゃいけなかった。
山本 ポーランドでのマズルカとかポロネーズっていうのはちょっと特殊な存在でね。
佐藤 その国のオリジナルのものだからね。
山本 でもたとえばバッハの組曲の中にもポロネーズっていうのがあったりとか。
佐藤 そうそうそう。ベートーヴェンもポロネーズって書いてるし。
山本 ああそうだね。
佐藤 少なくともドイツ語圏の作曲家たちには、そういう、ポロネーズのリズムで曲を書くっていう伝統があったのかなとは思ったりするんだけど。
山本 うん。あと、チャイコフスキーのトリオにも、中にTempo di mazurkaっていう変奏があったりとか、だから外国の人がマズルカとかポロネーズを使うときっていうのはそこまで深刻ではなくて・・・
佐藤 深刻(笑)
山本 ちょっと民族色を出したいっていうときに。
佐藤 確かに。シューベルトのポロネーズもたまにエキゾティックなときがあるよね。
山本 もしかしたら、そういうリズムを楽しむっていう意図もあるのかもなっていう。
佐藤 確かにそうかもしれないね。

その2につづく
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  1. 2019/09/28(土) 19:57:01|
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