川島さんは、シューベルトってどういう人だったと思いますか? | |
川島 | とてもナイーブで、繊細な人だったと思います。強さ、人間としての強さはありましたけど、男らしい強さっていうと、ベートーヴェンほどではなかったかなと思いますね。 |
いつき | シューベルトで一番好きな曲はなんですか? |
川島 | 難しい・・・! |
佐藤 | これね、難しい質問ですよね(笑) |
川島 | うーん・・・いや、交響曲「グレート」も好きですし、だけどやっぱりピアノ曲ですかねえ。でも何って言われると、その時々によって違いますね。 |
佐藤 | 今ヒットしてる曲っていうと。 |
川島 | 今・・・やっぱり1曲に決められないですね。でも常に上位なのは、やはり最晩年の3曲のソナタ、D958・D959・D960ですかね。他の曲が嫌いというわけではないんですが。佐藤君は? |
佐藤 | 僕は、難しいところですけど、1曲っていったらベタだけど「菩提樹」かなあ。 |
川島 | はあー。 |
佐藤 | あのメロディーをよく見つけたなというか、単純なメロディーですけど、シューベルトが書かなかったらもう誰も発見できなかっただろうっていう。あれはやっぱり特別ですね。 |
川島 | シューベルトってね、ある人に言わせればものすごく暗い、陰鬱でじめじめした曲をたくさん書いてるっていうイメージがあるようですけど、最も暗い曲って何だと思う? |
佐藤 | 最も暗い曲ねえ。なんだろうな。 |
川島 | 僕はやっぱり「冬の旅」の最後の「ライアー回し」。 |
佐藤 | ああ、ライアー回し。 |
川島 | あれはもう一番心にくるっていうかなんていうか、寂しくなる曲ナンバーワンですね。 |
佐藤 | あれなんかも暗いですね、「ドッペルゲンガー」(「白鳥の歌」より)。 |
川島 | ああ「ドッペルゲンガー」ね。あれも暗いですよね。 |
佐藤 | あるとき、雑誌の「音楽の友」でピアニスト何十人にアンケートっていう企画があって、そこで生涯の最後に弾きたい曲は何ですかっていう質問があったんです。 |
川島 | ふうん。 |
佐藤 | 面白いことに、お年を召したピアニストほど、それに対して無回答なんですけど(笑)、答えた人の中で圧倒的に多かったのが、ベートーヴェンの作品111(ピアノ・ソナタ第32番)なんですよ。 |
川島 | ・・・はぁ、そうですか。 |
佐藤 | で、僕はD960って書いたんですけど、そう答えた人は割と少なかったですね。 |
川島 | ああ、やっぱりでも最後の作品。Hob.XVI:52(ハイドンの最後のソナタ)じゃダメなんですね。 |
佐藤 | そんな人いたかな(笑) |
川島 | K.576(モーツァルトの最後のソナタ)は? |
佐藤 | K.576はちょっと良いような気もしますけど(笑)でも人によってはね、ラフマニノフの(ピアノ協奏曲)3番なんていう回答もあって。 |
川島 | それはもう、弾きながら死んでしまう。 |
佐藤 | まだ相当元気な感じですよね(笑) |
川島 | 死ぬときに聴きたい曲っていうのはなんとなくありますけど、弾きたい曲っていうのは難しい。 |
佐藤 | 「最後のコンサートで弾きたい曲」っていう。 |
川島 | ああ、最後のコンサートでね。そうなると僕はD958かなあ。 |
佐藤 | ああ、そうですか。 |
川島 | やっぱり一番弾きたいのは、一番思い入れのある曲ですよね。作品111もそうですけど、moll(短調)が弾きたい感じはしますね。 |
今回、4手連弾の曲をやるにあたって、まずはシューベルトのことを本当によく知っているピアニストで、かつ結構難しい曲なので、テクニックも強靱な方ということで、是非川島さんにと思ってお願いしたんですけど、普段は連弾はあんまりなさらないんですか? | |
川島 | 連弾はもう、フォーレのドリーだとか、そういう超メジャーな曲しかやったことがなかったんです。2台ピアノは割とあるんですけど、連弾っていうのは本当に弾く機会がないですよね。 |
佐藤 | まあそうですよね。 |
川島 | なので、今回本当に絶好の機会だと思って。せっかく佐藤君とやらせていただけるので、しっかり勉強させてもらって、今後に生かしていこうかと思ってます。 |
佐藤 | いえいえ、こちらこそよろしくお願いいたします。僕もこのシリーズをやっているおかげで、シューベルトの連弾曲がこんなにたくさんあるんだって初めてちゃんと認識して、これはちょっと大変だなって思ってるんですけど。よく取材とかで「シューベルトのどこが好きなんですか?」とか聞かれていつも答えに苦慮するんですけど、何かシューベルトについて「こういうところが」みたいな。 |
川島 | いやぁなかなか・・・。口に出してっていうのは難しい。 |
佐藤 | ええ、ですからもう、シューベルトについて思うところをフリーに話していただければと思って。 |
川島 | 僕は先日ちょうどベートーヴェンのソナタを弾いてきたばっかりで、最近はベートーヴェンにどっぷり浸かってたんですけど、なんていうんですかね・・・。もちろんシューベルトはベートーヴェンを尊敬していて、その影響を受けながらも、彼は彼の新境地を見つけ出していったわけで・・・。でも、ベートーヴェンみたいに「何が何でも時代を変えてやるんだ」とか、そういう強い気持ちっていうよりかは、そう思ってても何か心が折れてしまう瞬間っていうのがね。 |
佐藤 | ああ、はい。 |
川島 | シューベルトってあると思うんですよ。ソナタ形式の展開部とか見てても、「熱情」の展開部みたいな「絶対やり抜いてやる」っていうんじゃなくて、何かポキッと折れる瞬間がね。あそこがもう本当に僕は好きなんです。そういうところの色とか表情を、いかにピアノの音色に変えて出していくかっていうのが、非常に難しいと思うんですよね。あとは、31歳で亡くなったわけですから、彼が60歳まで生きてたら、どんな作品を書いてたんだろうってね、そういうところにも非常に興味がわきますし。 |
佐藤 | そうですよね。 |
川島 | ピアノコンチェルトをね、1曲でも書いて欲しかった。 |
佐藤 | うーん、まあね、でもどの楽器のコンチェルトも書いてないですから。ヴァイオリンのそれらしいのが1曲ぐらいありますけど、だからコンチェルトってものに全然興味がなかったのかなっていう感じはしますよね。 |
川島 | そうですかね。後にとっておいたのかもしれない。 |
佐藤 | うーん、そうかもしれないですね。・・・ではインタビューはこの辺で。 |
川島 | なんだかとりとめもない話で。 |
佐藤 | いやもう、いかにもシューベルトっぽくて良いですよ。どうもありがとうございました。 |
Author:Takashi Sato
佐藤卓史(さとうたかし)
ピアニスト。1983年秋田市生まれ。2014年よりシューベルトのピアノ曲全曲を網羅的に演奏するプロジェクト「佐藤卓史シューベルトツィクルス」を展開中。
公式サイト www.takashi-sato.jp
シューベルト 佐藤卓史 舞曲 シューベルトツィクルス ピアノ・ソナタ ドイツ舞曲 D365 D568 エコセーズ D567 自筆譜 連弾 レントラー メヌエット 即興曲 ベートーヴェン 崎谷明弘 ソナタ 行進曲 ワルツ ヒュッテンブレンナー D145 幻想曲 変奏曲 中桐望 ヴァイオリン 斎藤和志 林悠介 小倉貴久子 D593 D571 スケルツォ 4手 シューマン D459A D146 ツェリス シュパウン D947 D817 D899 川島基 D459 D156 D178 D566 D602 D557 D783 ブラームス D385 D408 D823 D928 D384 山本貴志 D819 D349 悲しみのワルツ ウィーン D420 D335 D951 D958 フェルディナント D91 D617 D1 アダージョ D157 D537 D935 D574 D570 フォルテピアノ 未完 D347 オーバーエスターライヒ リスト D610 ディアベリ D667 ショーバー D818 ポロネーズ D681 D529 D668 D911 D968 ティリモ ヴィッテチェク=シュパウン・コレクション 序曲 カロリーネ ブラウン シェーンシュタイン D599 D850 ロンド D592 アレグロ・モデラート アレグロ D968A D505 アンダンテ D664 D959 D760 D605a フォーグル D2e D29 D759 D506 D334 D605 補筆 D299 D625 D784 D845 D575 D597 バドゥラ=スコダ D606 D757A D600 D894 フランス風の主題によるディヴェルティメント D655 D604 チェルニー D735 シューベルティアーデ リンツ 4スタンス理論 D576 D844 D139 D782 D643 第九 D135 D608 D624 D249 パハラー グラーツ シュヴィント ハンガリーのメロディー アッツェンブルック D387 D618 D154 D511 ヒンデミット コンクール D41 D348 ショパン D722 D647 アルフォンソとエストレッラ D732 オクセンブルク城 オペラ D796 D666 D812 D118 D813 バウエルンフェルト D925 グラーツのギャロップ グラーツのワルツ 人生の嵐 ソナチネ グムンデン D924 エステルハーツィ シュタイアー ヨゼフィーネ D591 D590 D586 コラー D970 D908 Brown, D980A D972 英雄的行進曲 Ms アスマイヤー D824 軍隊行進曲 最初のワルツ オリジナル舞曲 フランスの歌 D797 アイゼンシュタット ポブウォツカ イェンガー D849 ザルツブルク ショパンコンクール ピリス D644 4手 D366 D48 バート・ガスタイン 高雅なワルツ マルシュナー 第2稿 エクローグ トマーシェク ヴォジーシェク D9 シューベルト性格的な行進曲 D374 D378 D968B D886 クラーマー D279 D3 D32 D2d D128 消失 D36 弦楽四重奏曲 グラーツ幻想曲 D301 D125 月刊ショパン D370 D380 D960 菩提樹 ミニョンの歌 シューベルト国際コンクール ピンテリクス ライアー回し ドッペルゲンガー D798 D773 D675 作品111 ウィーン楽友協会 ヴィッテチェク D816 D790 D779 感傷的なワルツ D820 D969 溢れる涙 チューシッド 君を愛す 1817年 D603 アルゲリッチ 放蕩息子 ヨーゼフ トリオ ルドラムの洞窟 Unsinnsgesellschaft アルバムの綴り アンナ・ヘーニヒ D802 しぼめる花 ゼヒター 祖国芸術家協会 狂騒クラブ コンヴィクト D973 D974 D971 作品33 16のドイツ舞曲と2つのエコセーズ D980B D679 ゾンライトナー D718 ギャロップ D841 美しき水車屋の娘 フルート D438 D580 D345 D944 グレート ピアノ小品 D916C フンメル D957 熱情 D916B 未完成 ヴッパータール カラヤン アバド ピアノ協奏曲 作曲家 ジストニア ベルリン・フィル チック・コリア ハノーファー コンサートマスター レックリングハウゼン アンダンティーノ D975 ライデスドルフ クラヴィコード インペリアル 平行弦 ソナチネアルバム ソナチネ音楽帳 ハンガリー 楽興の時 ベネディクトゥス D105 アンダンティーノ・ヴァリエ ハンガリー風ディヴェルティメント 偽作 散逸 ハンガリー風 フランス風 ディヴェルティメント 5つのピアノ曲 3つのピアノ曲 ストラヴィンスキー 浜松市楽器博物館 モーツァルト さすらい人幻想曲 糸を紡ぐグレートヒェン 川口成彦 アンドレアス・クラウゼ D769A こどもの行進曲 戦い 葬送行進曲 大行進曲 D865 シラー 20のワルツ D781 D158 舞曲自筆譜 最後のワルツ D859 D733 ハスリンガー 作品78 幻想 下属調再現 ルヴィエ 迫昭嘉 D940 ドン・ジョヴァンニの回想 パリ アリエ・ヴァルディ D41A