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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

[告知] シューベルトツィクルス第15回「4手のための行進曲」

第15回チラシ
2021年12月7日(火) 19時開演 東京文化会館小ホール * ゲスト:崎谷明弘
♪行進曲 ホ長調 D606
♪行進曲 ロ短調 D757A
♪6つの大行進曲 D819 *
♪こどもの行進曲 ト長調 D928 *
一般4,500円/学生2,500円 →チケット購入
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  1. 2021/12/07(火) 19:00:00|
  2. シューベルトツィクルス
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こどもの行進曲 D928 概説

行進曲 ト長調(「こどもの行進曲」) Marcia G-dur D928 ("Kindermarsch")
作曲:1827年10月12日 出版:1870年
楽譜・・・IMSLP


D928自筆譜2

1827年9月、シューベルトは音楽愛好家マリー・パハラー夫人の招きを受け、オーストリア第2の都市グラーツを訪問した(詳細はこちら)。帰り際にパハラー夫人は、8歳の息子ファウストのために連弾曲を書いて欲しいとシューベルトに頼んだ。
ウィーン帰京後の10月12日、シューベルトは約束の行進曲を仕上げてグラーツへ送った。自筆譜の下部の余白にはパハラー夫人に宛てたこんな書き込みがある。

ファウスト君のための4手の行進曲を謹んでお送りします。もしかしたら彼の拍手は得られないかもしれません、私はこういう作曲には向いていないように感じるので。

シューベルトに同行した友人イェンガーもファウスト宛に「よく練習して、来月の4日には友達のシュヴァンメルル(シューベルトのあだ名)と僕のことを思い出してくれたまえ」とメッセージを残している。
11月4日は一家の主、カールの命名記念日で、そのお祝いの席でファウストとマリーが連弾でこの曲を披露する、という段取りになっていたようだ。この心温まるパハラー家内での初演が実際どのようなものだったのかは伝えられていない。自筆譜はただ「Marcia」(行進曲)とイタリア語で題されているだけだったが、このような成立事情から「Kindermarsch」(こどもの行進曲)のタイトルで1870年にゴットハルト社から出版され、現在もその名で呼び習わされている。

確かにこどもらしい、可愛らしくシンプルな曲調だが、実際に演奏するのはそれほど簡単ではなく、8歳の少年にうまく弾きこなせたのかどうかは疑わしい。シューベルト自身の言い訳もそのあたりを踏まえたものだったのかもしれない。
シューベルトのトレードマークともいうべきダクティルス(長短短)のリズムが支配する主部と、3連符が主導的なハ長調のトリオからなる。
  1. 2021/12/01(水) 18:53:07|
  2. 楽曲について
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4手のための行進曲 概説

シューベルトのピアノ独奏曲のうち、作品リストの大勢を占めるのは「ドイツ舞曲」「レントラー」「ワルツ」といった3拍子系の舞曲であり、その総数は数百にのぼる。だが、連弾曲となると舞曲はぐっと少なくなり、同種の作品は7曲を数えるのみである(「ポロネーズ」(10曲)も舞曲の一種ではあるが、独奏用のポロネーズはない)。それに代わって連弾曲リストの筆頭に挙げられるのが17曲の「行進曲」である。そのうち14曲が生前に出版されている。

D番号曲名初出
D6023つの英雄的な行進曲1824年出版(作品27)
D7333つの軍隊行進曲1826年出版(作品51)
D8196つの大行進曲1825年出版(作品40)
D859葬送大行進曲(ロシア皇帝アレクサンドル1世の崩御に際し)1826年出版(作品55)
D885英雄大行進曲(ロシア皇帝ニコライ1世の戴冠に際し)1826年出版(作品66)
D968B(D886)2つの性格的な行進曲1829年出版(作品121・遺作)
D928こどもの行進曲1827年作曲

「行進曲」は集団の歩調を合わせる目的の実用音楽であり、もとは軍隊で用いられたが、次第に儀礼的な性格を帯びるようになる。性格や目的に応じて、「軍隊行進曲」「トルコ行進曲」「結婚行進曲」「葬送行進曲」「祝典行進曲」などの形容詞が冠されることも多い。行進曲が性格小品のジャンルの一角を占めるに至ったのには、シューベルトの連弾行進曲、とりわけ「軍隊行進曲」の果たした功績が大きい。当然ながら2拍子系で、大規模な複合三部形式(A[||:a:||:ba:||]-B[||:c:||:dc:||]-A[||:a:||:ba:||])をとるという点は全作品に共通しているが、そのテンポやキャラクターは実にヴァラエティに富んでいる。

こうした4手のための行進曲がどのような機会に作曲されたのかは、全くといって良いほどわかっていない。グラーツのパハラー家に贈った「こどもの行進曲」D928を除けば自筆譜も残っておらず、シューベルティアーデで頻繁に演奏されたということもないようだ。ただ、1818年1824年の2度のツェリス滞在のあと、シューベルトは行進曲を含む多くの連弾曲を携えてウィーンに戻ってきたというシュパウンらの証言があり、D602・D733・D819といった主要行進曲セットはエステルハーツィの令嬢姉妹と過ごした夏の所産の一部だろうというのがドイチュをはじめとする研究者の見解である。しかしこれらすべてをツェリスに関連づけてよいのかどうか、ウィーンでの日常の中で書かれたという可能性もまた否定できない。
いずれにせよ、生前に次々と出版されたという点をみても人気のジャンルであったことは間違いなく、出版社からの委嘱に応じて書かれたのかもしれない(とりわけロシア皇帝関連のD859・D885はその可能性が高い)。連弾は、ピアノを手に入れた市民たちが自宅で楽しめるエンターテインメントであり、集団の歩調を合わせるという行進曲の本来の用途から言っても、2人の奏者が拍感を合わせてアンサンブルを楽しむのに適した曲種だったのだろう。決して技巧的ではないが、客人に聴かせるにふさわしい豪華さやスペクタクルにも富んでいる。

その一方で、独奏用の行進曲がほとんど残されていないという事実もまた興味深い。長らくソロの行進曲はD606の1曲しか知られておらず、D757Aは1988年に新全集に収録されるまでは存在すら知られていなかった。ドイチュ目録にはもう1曲、ト長調の行進曲D980Fの存在が記されているが、どういうわけか現在に至るまで発表されていない。
「行進曲」と「舞曲」は両方とも、ステップという身体の運動に根ざした楽曲であるが、2手では「舞曲」が多く「行進曲」はわずか、4手では「行進曲」が多く「舞曲」は少ない。この「ネガ/ポジ」の関係を念頭に置きつつ、第15回・第16回の公演をあわせてお聴きいただきたい。
  1. 2021/11/29(月) 19:15:49|
  2. 楽曲について
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[PV] 佐藤卓史×崎谷明弘 シューベルト連弾によせて

佐藤卓史シューベルトツィクルス第15回公演ゲスト、崎谷明弘君との9年ぶりの再会+初リハーサル+インタビューの模様です。どうぞお楽しみ下さい!

  1. 2021/11/19(金) 21:48:33|
  2. シューベルトツィクルス
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