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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
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序奏、創作主題による4つの変奏曲とフィナーレ 変ロ長調 D968A 概説

序奏、創作主題による4つの変奏曲とフィナーレ 変ロ長調 Introduktion, vier Variationen über ein Originalthema und Finale B-dur D968A(旧603)
作曲:不明 出版:1860年(作品82-2)
楽譜・・・IMSLP

1860年、ハンブルクのユリウス・シューベルト社(フランツ・シューベルトとは違う綴りで無関係)から出版されたが、来歴は全くわかっていない。このとき同じ「作品82」にまとめられたのは「エロルドの歌劇『マリー』の主題に基づく8つの変奏曲」D908で、D908が作品82-1、D968Aが作品82-2とされている。
そもそもD908は、作曲者生前の1827年にトビアス・ハスリンガー社から作品82として既に出版されていて、シューベルト社はハスリンガーからその権利を買い取ったようだ。クライスレは、D968Aの自筆譜も元々ハスリンガーが所有していて、シューベルト社にD908と抱き合わせで売りつけたのではと推測している。その原資料も出版後に散逸してしまったので、この作品に関する一次資料は何も残っていない。
モーリス・ブラウンは本作について、エステルハージ家のマリーとカロリーネの姉妹にピアノを教え、数多くの連弾曲が生み出された1818年のツェリス滞在時、あるいはそれに続く冬にウィーンで作曲された可能性を示唆しているが、推測の域を出ず、ノッテボームの目録では「偽作または疑わしい作品」にリストアップされてしまっている。

とはいえ、華麗な演奏技巧を駆使した才気走る作品であり、シューベルトの真作というにふさわしい名作といえる。
タイトルの通り、「序奏」、「主題」と4つの「変奏」、「フィナーレ」から構成されている。

序奏 モデラート([1]-[34])
フォルティシモの強奏で和音が打ち鳴らされ、華やかに幕を開ける。序奏では付点のリズムが支配的で、そのぶん[26]-[29]で付点のないメロディーが歌われる部分が新鮮に聞こえる。ドミナントの和音上でプリモが短いカデンツァを披露し主題へ移る。
創作主題 モデラート([35]-[50])
それぞれに繰り返し記号のついたA+Bの二部形式。半小節のアウフタクトを持つ、モーツァルト風のチャーミングな主題である。
第1変奏 ([51]-[66])
3連の16分音符を用いて旋律を装飾する。
第2変奏 ([67]-[82])
32分音符による装飾。B部分での分散和音のやりとりがダイナミックである。
第3変奏 ブリランテ([83]-[98])
更に細かい6連の32分音符のパッセージで半音階的に装飾していく。プリモ・セコンドとも高度な技巧を要する、本作で一番の見せ場。
第4変奏 ピウ・レント([99]-[134])
テンポがぐっと落ち、シューベルトらしい自由なハーモニーの飛翔がみられる。[124]からは主音の保続を伴うコーダとなり、突然の強奏でフィナーレを導く。
フィナーレ ヴィヴァーチェ([135]-[334])
小節数的には全曲の半分以上を占めるフィナーレ。急速なワルツのリズムに乗って、主題の自由な変奏が繰り広げられる。最後はだんだん遠ざかっていき、テンポも落ちたところで突如プレストに。7小節で華麗に曲を閉じる。
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  1. 2017/06/14(水) 14:16:26|
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