fc2ブログ


シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

[告知] シューベルトツィクルス第17回「変奏曲 ―シューベルティアーデの仲間たち―」

シューベルトツィクルス第17回
2022年10月6日(木) 19時開演 東京文化会館小ホール  * ゲスト:斎藤和志(フルート)
♪トリオ D610 ♪ドイツ舞曲とエコセーズ D643 ♪アルバムの綴り D844
♪ヒュッテンブレンナーの主題による13の変奏曲 D576 ♪ディアベリのワルツによる変奏 D718
♪アレグロ・モデラート D347(未完・佐藤卓史による補筆完成版) ♪アンダンティーノ D348(未完・佐藤卓史による補筆完成版)
♪「しぼめる花」の主題による序奏と変奏曲 D802 *
一般4,500円/学生2,500円 →チケット購入
スポンサーサイト



  1. 2022/10/06(木) 19:00:00|
  2. シューベルトツィクルス
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

アルバムの綴り D844 概説

アルバムの綴り(ワルツ) ト長調 Albumblatt (Walzer) G-dur D844
作曲:1825年4月16日 出版:1897年(旧全集)
楽譜・・・IMSLP

シュヴィントとアンナ・ヘーニヒ
アンナ・ヘーニヒ(1803-1888)の記念帳に書き残された小品。
同じアルバムの中にはモーリツ・フォン・シュヴィントが1827年8月7日に作曲したという変ロ長調の「アンダンテ」の自筆譜も収められている。シュヴィントは本業は画家だったが、ピアニストとしてもなかなかの腕前で、シューベルティアーデで「歌い手シューベルト」の伴奏者も務めたというから、作曲の心得もあったのだろう。
アンナは弁護士フランツ・ヘーニヒの娘で、シューベルティアーデのメンバーのひとりだった。仲間内では「かわいいアン・ペイジ」(シェイクスピア『ウィンザーの陽気な女房たち』の登場人物)と呼ばれ、特に美人というわけではなかったが気立てが良く聡明な女性だったという。シューベルトは1824年の末に初めてヘーニヒ邸を訪れ、アンナのことを気に入ってたびたび出入りするようになった。そんな折に頼まれて彼女のアルバムにこの無題の小品を書いて渡したのだろう。日付は1825年4月16日とある。
ところがもっとアンナに夢中になったのがシュヴィントであった。猛烈なアタックが実って1828年春に婚約に漕ぎ着けたが、自由人シュヴィントと堅実なアンナがうまくいくはずはなかった。いざこざの末1829年10月に婚約は破棄されたが、1828年11月に死んだシューベルトはそのことを知らない。アンナはその後、やはりシューベルトの仲間だった軍官のフェルディナント・マイアホーファー・フォン・グリュンビューエルと1832年に結婚した。シュヴィントはその後も夫妻と友情を保ったという。
シュヴィントが1868年に描いた有名な「シュパウン邸でのシューベルティアーデ」の図の中に、シュヴィント自身とアンナも描かれている。シュヴィントは画家仲間のクーペルヴィーザーやリーダーと一緒に壁際に立ち、そのすぐ前で微笑みを浮かべている女性がアンナ・ヘーニヒだといわれている。

8+8の16小節、3拍子ということで確かに舞曲の要件は満たしているが、新全集をはじめとして「ワルツ」というタイトルが正式に認められているのは甚だ疑問である。シューベルト自身が自作を「ワルツ」と題したことはほぼないので、シューベルトの考えるワルツのスタイルはよくわからないが、一般的なワルツの様式とは大きく異なっている。むしろレントラーやドイツ舞曲といった方がしっくりくるだろう。「アルバムの綴り」の通称の方がふさわしいと筆者は考える。
和音が連続するコラール風の書法は同じト長調のソナタD894を連想させる。静かに揺れるような、優しさに満ちた佳品である。
  1. 2022/09/29(木) 08:00:48|
  2. 楽曲について
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0