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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
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山本貴志×佐藤卓史 対談 (2)シューベルトとポロネーズ

シューベルトとポーランドの民俗舞曲「ポロネーズ」は、なかなかイメージが結びつかないのですが、そのあたりのお話を。

対談その1
山本 興味深いのは、なんでシューベルトはこんなにたくさんポロネーズを書いたんだろうね。ポロネーズのリズムをとても大切に作曲されていて、それでいて1曲1曲、少しずつ表情の違いがあってすごく素敵なんだけれど、シューベルトってポロネーズに興味があったのかな?
佐藤 まあそうだねえ、完成したのはこの10曲だけなんだけど、あと面白いのは、ソロのポロネーズって1曲も書いてないのね。
山本 ああ! なるほどね。
佐藤 連弾のためにしかポロネーズは書いてない。あと1曲ヴァイオリンの曲でポロネーズっていうのがあるんだけど(D580)。それはもう、踊るための曲ではないのね。舞踏会で踊るんだったらソロの曲が絶対あるはずだし。
山本 うん。
佐藤 連弾っていうことは、家庭で楽しむための小品、そのひとつの分野としてポロネーズを作ったんだと思うんだけど。
山本 うーん。
佐藤 最初にできたのがD599の「4つのポロネーズ」で、これはハンガリーのツェリスっていう町に夏の間、エステルハーツィのお嬢さん姉妹を教えに行ったときに書いた曲で。
山本 ふーん。
佐藤 そのときは他にもたくさん連弾の曲を書いてて、実は前回中桐さんとやったときにはその年にツェリスで書いた曲をまとめて弾いたんだけどね。
山本 へえ。
佐藤 まずレッスンのときにシューベルトと姉妹のどちらかが連弾すると。そういう曲に関しては片方のパートがすごく難しかったりするわけ。それはそっちをシューベルトが弾いて、簡単な方を生徒が弾くみたいなね。でも、このD599のポロネーズに関してはどちらかというと2つのパートにそれほど差が無いから、姉妹2人での連弾の教材として書いたっていう見方が強いんだよね。
山本 うーん、なるほど。
佐藤 で、仕上がったら夕食会で伯爵、お父さんに聴かせるとか、そのくらいの華やかさはあって、聴いても弾いても楽しいという。ところがD824の「6つのポロネーズ」の方はまた違って、もっとずっと後の時代に書かれてる。そして書いたらあっという間に、数ヶ月後にはもう出版されているという。
山本 すごいね。
佐藤 だからたぶん、「ポロネーズを書いて下さい」って出版社から依頼を受けて、求めに応じて書いてそのまま出したんじゃないかと。とすると、ポロネーズにもそういう需要があったのかな。たとえば行進曲なんかはそうなんだよね、マーチはウィーンでとても人気があったから、シューベルトはマーチを書いては出し、書いては出しという感じで。同じようにポロネーズっていうのもひとつの連弾の曲のジャンルとしてあったのかな。
山本 今回シューベルトのポロネーズをご一緒させていただいて、ショパンにない面白いところだなと思ったのが、さっき8小節単位っていうお話をされたけど、8小節+4小節で12小節っていうのが。
佐藤 そうそう、12小節多いよね。
山本 まずは8小節、でそのあとに4小節。
佐藤 コーダみたいなね。
山本 そう、その部分に工夫っていうか魅力的な部分があって、いわゆる「少し字余り」っていうのかな。そこが飽きさせないポイントなのかなって。
佐藤 なるほど、そうだね。
山本 今回のプログラムもポロネーズが10曲続くけれども、全部同じ形式で、テンポもそんなに変わらないけど、その字余り的なところが出ることによって、通しで弾いても飽きが来ないというか。
佐藤 確かに面白いよね。そう、ちょっと思い出した。グラーツ幻想曲って知ってる?
山本 グラーツ? 知らない。
佐藤 D605Aっていう枝番号が付いた曲なんだけど、ちょっと怪しい曲で、本当にシューベルトの曲なのか確証がないんだけど。
山本 うん。
佐藤 というのはヒュッテンブレンナーっていう友達の作曲家がいて、その人が筆写譜を持っていたわけ。表紙にこれはシューベルトの幻想曲ですって書いてあって、それが1969年かな、最近になって発見されて。C-durで始まる結構長い曲なんだけど、その途中にね、Fis-durで、alla polaccaっていう部分があって。
山本 へえー。
佐藤 それが唯一シューベルトがピアノソロのために書いたポロネーズかな。曲全体ではなくてある一部分だけなんだけど。
山本 それが唯一。
佐藤 そうだね、僕が知ってる限りでは。
(その3に続く)
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  1. 2019/09/29(日) 04:13:07|
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