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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

[告知] シューベルトツィクルス第15回「4手のための行進曲」

第15回チラシ
2021年12月7日(火) 19時開演 東京文化会館小ホール * ゲスト:崎谷明弘
♪行進曲 ホ長調 D606
♪行進曲 ロ短調 D757A
♪6つの大行進曲 D819 *
♪こどもの行進曲 ト長調 D928 *
一般4,500円/学生2,500円 →チケット購入
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  1. 2021/12/07(火) 19:00:00|
  2. シューベルトツィクルス
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6つの大行進曲 D819 概説

6つの大行進曲 Six Grandes Marches D819
作曲時期不明 出版:1825年5月(作品40)
楽譜・・・IMSLP

1825年、ザウアー&ライデスドルフ社から「作品40」として出版、医師のI.ベルンハルト氏に献呈された。6曲セット(初版時は2分冊)という規模は超級で、合計の演奏時間は60分に達する
注目すべきは、この曲集に冠された形容詞がGrandes(大きい)というだけで、「軍隊行進曲」や「英雄行進曲」のように性格を表したものではないということである。1曲1曲の規模は、他の行進曲より確かに大きく、場合によっては主部がソナタ形式ともいえる充実した内容になっている。そのこと以上に、ひとつの形容詞で括ることができない、多様なキャラクターの行進曲の集まりであるということもこの曲集の大きな特徴といえるだろう。また、4小節や8小節といった基本楽節で割り切れない変則的なフレーズのつくりも行進曲としては異例で、身体性に縛られない自由な音楽の飛翔が感じられる。

第1曲(変ホ長調)は泰然たる祝典行進曲の趣があり、勢いのある付点のモティーフや素速い3連符の同音連打は金管のファンファーレを連想させるが、ところどころに現れる短調のエピソードにシューベルトらしい柔らかな感受性が宿っている。トリオは変イ長調で、トレモロ+ピツィカートの伴奏型の上で息の長い旋律が歌われる。
第2曲(ト短調)は異色のデモーニッシュな行進曲で、容赦のない刻みに乗ってプリモとセコンドが激しく掛け合いをする。ト長調のトリオでは付点リズムを伴うスタッカートのメロディーに繊細なハーモニーがやさしく寄り添う。曲集中最も短い曲である。
第3曲(ロ短調)は2/4拍子、行進曲というよりも「エコセーズ」に近いリズミカルな舞曲風小品である。セコンドの4小節の前奏は確かにロ短調で、主部の終わりもロ短調だが、プリモのメロディーの始まりはニ長調、その後嬰ヘ短調・嬰ヘ長調・ト長調・変ロ長調など、さまざまな調性へどんどん転調してゆき落ち着きがない。ファンファーレ風の間奏が導くトリオはロ長調、ギター風の伴奏に乗って旋律が歌われ、時折借用ドミナントの和音がそれを彩る。
第4曲(ニ長調)は再びファンファーレで始まり、祝祭的な気分を放出しながら明るく進行していく。トリオはト長調で、コラール風の旋律とスタッカートのバスがどこかモーツァルトにも似た古典派的な印象を残す。
第5曲(変ホ短調)はアンダンテという遅いテンポ、そして陰鬱な曲調から、記されていないが「葬送行進曲」であることが明白である。全声部のユニゾンや音のぶつかりが不気味な雰囲気を演出する。トリオは変ホ長調で、張り詰めた緊張感がふっと和らぐが、異世界へのワープのような突飛な転調も待っていて油断できない。全曲の中で最も長い演奏時間を要する。
第6曲(ホ長調)は華麗な終曲。軽やかな付点リズムが支配的で、躁的なほどの明るさと勢いで突き進んでいく。繰り返し記号の外にコーダが設けられており、派手に主部を閉じる。セコンドのオクターヴのファンファーレに続いて始まるトリオはハ長調で、ロッシーニのオペラの二重唱を彷彿とさせる屈託のない旋律が続いていく。
  1. 2021/11/30(火) 23:01:18|
  2. 楽曲について
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4手のための行進曲 概説

シューベルトのピアノ独奏曲のうち、作品リストの大勢を占めるのは「ドイツ舞曲」「レントラー」「ワルツ」といった3拍子系の舞曲であり、その総数は数百にのぼる。だが、連弾曲となると舞曲はぐっと少なくなり、同種の作品は7曲を数えるのみである(「ポロネーズ」(10曲)も舞曲の一種ではあるが、独奏用のポロネーズはない)。それに代わって連弾曲リストの筆頭に挙げられるのが17曲の「行進曲」である。そのうち14曲が生前に出版されている。

D番号曲名初出
D6023つの英雄的な行進曲1824年出版(作品27)
D7333つの軍隊行進曲1826年出版(作品51)
D8196つの大行進曲1825年出版(作品40)
D859葬送大行進曲(ロシア皇帝アレクサンドル1世の崩御に際し)1826年出版(作品55)
D885英雄大行進曲(ロシア皇帝ニコライ1世の戴冠に際し)1826年出版(作品66)
D968B(D886)2つの性格的な行進曲1829年出版(作品121・遺作)
D928こどもの行進曲1827年作曲

「行進曲」は集団の歩調を合わせる目的の実用音楽であり、もとは軍隊で用いられたが、次第に儀礼的な性格を帯びるようになる。性格や目的に応じて、「軍隊行進曲」「トルコ行進曲」「結婚行進曲」「葬送行進曲」「祝典行進曲」などの形容詞が冠されることも多い。行進曲が性格小品のジャンルの一角を占めるに至ったのには、シューベルトの連弾行進曲、とりわけ「軍隊行進曲」の果たした功績が大きい。当然ながら2拍子系で、大規模な複合三部形式(A[||:a:||:ba:||]-B[||:c:||:dc:||]-A[||:a:||:ba:||])をとるという点は全作品に共通しているが、そのテンポやキャラクターは実にヴァラエティに富んでいる。

こうした4手のための行進曲がどのような機会に作曲されたのかは、全くといって良いほどわかっていない。グラーツのパハラー家に贈った「こどもの行進曲」D928を除けば自筆譜も残っておらず、シューベルティアーデで頻繁に演奏されたということもないようだ。ただ、1818年1824年の2度のツェリス滞在のあと、シューベルトは行進曲を含む多くの連弾曲を携えてウィーンに戻ってきたというシュパウンらの証言があり、D602・D733・D819といった主要行進曲セットはエステルハーツィの令嬢姉妹と過ごした夏の所産の一部だろうというのがドイチュをはじめとする研究者の見解である。しかしこれらすべてをツェリスに関連づけてよいのかどうか、ウィーンでの日常の中で書かれたという可能性もまた否定できない。
いずれにせよ、生前に次々と出版されたという点をみても人気のジャンルであったことは間違いなく、出版社からの委嘱に応じて書かれたのかもしれない(とりわけロシア皇帝関連のD859・D885はその可能性が高い)。連弾は、ピアノを手に入れた市民たちが自宅で楽しめるエンターテインメントであり、集団の歩調を合わせるという行進曲の本来の用途から言っても、2人の奏者が拍感を合わせてアンサンブルを楽しむのに適した曲種だったのだろう。決して技巧的ではないが、客人に聴かせるにふさわしい豪華さやスペクタクルにも富んでいる。

その一方で、独奏用の行進曲がほとんど残されていないという事実もまた興味深い。長らくソロの行進曲はD606の1曲しか知られておらず、D757Aは1988年に新全集に収録されるまでは存在すら知られていなかった。ドイチュ目録にはもう1曲、ト長調の行進曲D980Fの存在が記されているが、どういうわけか現在に至るまで発表されていない。
「行進曲」と「舞曲」は両方とも、ステップという身体の運動に根ざした楽曲であるが、2手では「舞曲」が多く「行進曲」はわずか、4手では「行進曲」が多く「舞曲」は少ない。この「ネガ/ポジ」の関係を念頭に置きつつ、第15回・第16回の公演をあわせてお聴きいただきたい。
  1. 2021/11/29(月) 19:15:49|
  2. 楽曲について
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[PV] 佐藤卓史×崎谷明弘 シューベルト連弾によせて

佐藤卓史シューベルトツィクルス第15回公演ゲスト、崎谷明弘君との9年ぶりの再会+初リハーサル+インタビューの模様です。どうぞお楽しみ下さい!

  1. 2021/11/19(金) 21:48:33|
  2. シューベルトツィクルス
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