シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

シューベルトのピアノ・ソナタ 概説

前回の一覧を眺めつつ、気づくことを述べてみたい。

◆シューベルトのピアノ・ソナタは「4楽章構成」が基本型である
完成作11曲のうち、8曲が4楽章構成である。モーツァルトのソナタはほぼすべて3楽章構成だし、ベートーヴェンは初期に4楽章ソナタを多数書いたが、中期~後期には3楽章あるいは2楽章に軸を移した(中期以降の4楽章ソナタはOp.26(「葬送」)、Op.28(「田園」)、Op.31-3、Op.106(「ハンマークラヴィーア)」の4曲のみ)ことと比べると、シューベルトのスタンスは特徴的である。3楽章のD567が、改訂時にメヌエットが追加されて4楽章となっている(D568)ことをみても、シューベルトがピアノ・ソナタの理想型を4楽章と考えていたことが窺える。
中間楽章の並びは必ず「緩徐楽章→舞曲楽章(メヌエットまたはスケルツォ)」という古典的な順序を踏襲しており、ベートーヴェンが試みたこの2つの楽章の倒置は行われていない。
一方で3楽章構成の完成作は3曲ある(D537, D664, D784)。3楽章ソナタの第2楽章は例外なく緩徐楽章である。
3楽章構成にしても4楽章構成にしても、第2楽章は第1楽章と異なる調性をとる。D459のホ長調のスケルツォは、現在第2楽章に置かれているが、上に述べた理由により、本来は第3楽章として構想されたものと考えることができる。

◆創作時期が明確に二分される
ピアノ・ソナタの創作は1815年(18歳)に始まり、ピークとなった1817年には1年間で6曲も手がけている。しかし1819年を最後に、いったんこのジャンルから手を引いてしまう。着手した13曲のうち、完成時期がはっきりしないD568・D664を入れても完成作は4曲という当たりの悪さであった。
このあとの3年間、シューベルトはオペラなどの舞台作品の創作に没頭し、他のジャンルの作品は極端に少なくなっている。しかし結局オペラ作曲家として成功する夢は叶わず、やがて健康を害する。ソナタ復帰の前年1822年に書かれたのが「さすらい人幻想曲」D760である。ここで追求した新たな書法と構造への試みが、それ以降のソナタ制作に反映されていることは疑い得ない。
1823年のD784以降のソナタは規模・内容ともに格段に充実している。D840を除けば、すべて完結しており、初期とは異なる創作姿勢が垣間見える。D845, D850, D894の大ソナタが次々と出版され、器楽作曲家としても認められるようになった。1824年と1827年にはソナタ作品はないが、このうち1827年には重要な2集の「即興曲集」(D899, D935)が書かれている。最晩年1828年のあまりにも有名な3つの最後のソナタは、より超越的な次元に到達しているとして、これを別の時期(後期)とみなし、全体を3つの時期に区分する説もある。

◆未完作が多いのはなぜか?
楽章の途中で断絶している「未完楽章」については、2つの断片を別にすれば、シューベルトの脳内では完成していたものと思われる。かなり書き進められており、再現部以降の繰り返しを端折った程度なので、後世の補筆も比較的容易に行える。初期ソナタに関しては、作曲者自身が友人たちに弾いて聴かせるぐらいしか演奏の機会もなかっただろうから、自分がわかる程度のメモ書きで差し支えなかったのかもしれない。
楽章が揃っていない作品については、シューベルトがはじめから書かなかったか、書いたものの散逸したか、あるいはバラバラの形で伝えられているか、のいずれかと考えられる。「楽章連結」論者は最後の説を有力視して、別々に伝えられている単独作品を合体させてソナタを再構成したのである。
この説に一定の妥当性があるのは、シューベルトのピアノ・ソナタの一部の楽章が、独立したピアノ小品として扱われていたことがわかっているからである。例えばD894のト長調ソナタは、1827年のハスリンガー社の初出版時には「幻想曲、アンダンテ、メヌエットとアレグレット」という4つの小品として出版されているし(「幻想ソナタ」の愛称はこのときのタイトルから来ている)、D625のヘ短調ソナタの第2楽章にあたるアダージョは、短縮・移調された上でD506のロンドと組み合わせられ、「アダージョとロンド」という形で出版されている(そのためアダージョには「D505」という別のドイチュ番号が付与された)。これらを敷衍すると、本来いずれかのソナタに属する後続楽章が、単独作品の束の中にまだ紛れ込んでいるという可能性も否定できない(この考えを推し進めて、D935の「4つの即興曲」が本来はヘ短調のソナタとして構想された可能性を、早くもロベルト・シューマンが指摘している)。ただしこれはあくまで推測の域を出ず、欠落している楽章がはじめから書かれなかったという可能性も残されている。
シューベルト本人が初期ソナタを整理して、せめて楽章のインデックスだけでも作っておいてくれれば良かったのだが、彼にはそんな時間は残されていなかったし、そもそもそのような作業に興味を示す性格でもなかった。逆に長生きして、初期作品を「習作」として破棄してしまう(ブルックナーやシベリウスのように)ことがなかったのは、私たちにとっては幸いだったかもしれない。
カオティックな状態で残されたシューベルトの自筆譜を整理し、保管してくれたのは次兄フェルディナントだった。未完作の多くが散逸せず、こうして今に残っているのはフェルディナントの功績によるところが大きいといっていいだろう。
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  1. 2014/09/18(木) 11:10:45|
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ショパン誌4月号のシューベルト特集に寄稿

月刊ショパン4月号の特集「シューベルトのピアノ作品」内、「ピアニストによるシューベルト主要ピアノ曲解説10」に、解説文を寄稿しています。ソナタ第13番D664、さすらい人幻想曲D760、ソナタ第20番D959の3曲を担当しました。スペースの関係で詳細な解説というわけにはいきませんでしたが、その中で最大限のシューベルトと作品に対する共感を文章に込めましたので、是非お読みいただければと思います。他のピアニストの方々の素晴らしいエッセイやコメント、それに専門家による解説も満載の読み応えのある特集となっています。

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  1. 2014/03/23(日) 03:34:49|
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