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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

[告知] シューベルトツィクルス第15回「4手のための行進曲」

第15回チラシ
2021年12月7日(火) 19時開演 東京文化会館小ホール * ゲスト:崎谷明弘
♪行進曲 ホ長調 D606
♪行進曲 ロ短調 D757A
♪6つの大行進曲 D819 *
♪こどもの行進曲 ト長調 D928 *
一般4,500円/学生2,500円 →チケット購入
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  1. 2021/12/07(火) 19:00:00|
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行進曲 D606 概説

行進曲 ホ長調 Marsch E-dur D606
作曲時期不明 出版:1840年7月
楽譜・・・IMSLP

死の12年後の1840年にアルタリア社から出版されて以来、100年以上にわたってシューベルトの唯一の独奏用の行進曲と考えられていた作品である。しかし自筆譜は存在せず、作曲時期も不明である。ドイチュ目録は最初のツェリス滞在の年である「1818(?)」と推測しているが、確証はない。初版譜の表紙には「遺稿から」との但し書きがあり、死後にフェルディナントが所有していた自筆譜の中から売却された作品なのかもしれない。

4手の行進曲と同様に複合三部形式で書かれている。主部は付点リズムのモティーフと、ほとんどの小節でオクターヴで重ねられたバスが目を引くが、特異なのはその急激な転調である。最初の8小節間でホ長調→嬰ヘ短調→イ長調と転調を重ねた後、[9]でハ長調の主和音が強奏され聴く人を驚かす(結果的にこの和音は属調ロ長調のナポリの和音として処理される)。後半では激烈な減七の和音から始まる楽節が嬰ニ短調([15]-[22])、嬰ハ短調([23]-[30])と並列され、予備もなしに再現部へ至る。こうした脈絡のないブロック的な調性移動は、いつものシューベルトの魔法のような精妙な転調とは全く異なる荒々しさ、一種の暴力性さえ感じさせる。
トリオは長3度上(異名同音)の変イ長調で、左手の単純な重音にはスタッカート、右手の8分音符のパッセージにはレガートと指示されている。右手の内声にメロディーらしき動きが現れるが、全体としては練習曲風の器楽的な書法をとる。後半では「短短長」のエコセーズ風のリズムが支配的となり、クレシェンドを伴ったゼクエンツでffにまで達する。

過激な実験作であるとともに、シューベルトが好んだ長3度関係調(ホ長調-ハ長調-変イ長調)が重要な役割を果たしている点も興味深い。
  1. 2021/12/02(木) 11:44:52|
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