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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

[告知] シューベルトツィクルス第4回「4手のための幻想曲I」

2015年10月29日・第4回
2015年10月29日(木)19時開演 東京文化会館小ホール
♪2つのメヌエット D91 ♪メヌエット ホ長調 D335 ♪12のエコセーズ D299
♪アダージョ ト長調 D178(第2稿、未完・補筆版) ♪メヌエット イ長調 D334 ♪幻想曲 ハ長調 D605(未完・補筆版)
♪幻想曲 ト長調 D1* ♪幻想曲 ト短調 D9* ♪2つの性格的な行進曲D968b(886)*
* 共演:佐藤彦大(ピアノ)
一般4,000円/学生2,000円 →チケット購入
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  1. 2015/10/29(木) 19:00:00|
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幻想曲 ハ長調 D605 概説・補筆について

幻想曲 ハ長調 Fantasie C-dur D605
作曲:1821-23年頃? 出版:1897年
楽譜・・・IMSLP

この作品の来歴についてわかっていることは非常に少ない。自筆譜にはタイトルもテンポ指示も、楽器の指定もなく、楽譜が作品の冒頭から始まっているのかどうかすら定かではない。そして第146小節でぷつりと中断し、未完となっている。

曲はいくつかの異なる楽想が連なっていく、「幻想曲」の特徴を備えている。特筆すべきなのは、すべてのセクションが必ず冒頭主題のモティーフ(ソ・シ・ド・ミという上行音型とその変奏)を用いて始まっていることと、セクション間のブリッジに冒頭の減七の和音のアルペジオが繰り返し使用され、転調を導いているということである。
一つのモティーフから多部分形式の幻想曲を編むという手法は、「グラーツ幻想曲」D605Aや「さすらい人幻想曲」D760と同じ発想に基づくもので、おそらく「グラーツ幻想曲」に先立って、もしくは同時期に作曲されたと考えられる。後にこの作品に興味を持ったヨハネス・ブラームスは、シュナイダー博士という人物が所有していた自筆譜をもとに詳細な筆写譜を作成しており、このとき初めて「幻想曲」というタイトルが提案された。この筆写譜はウィーン楽友協会資料室に収められている。

この作品のセクション構造は次のようになっている。
第1-19小節  冒頭主題提示部(速度指示なし、ハ長調)
第20-51小節  経過部(ハ長調→・・・→変イ長調)
第52-114小節  Allegro moderato(ハ長調→ハ短調→変イ長調→変ト長調)
第115-142小節  Andantino(ロ短調、3/4拍子)
第143-146小節  (ロ長調、中断)

作品の性格上、中断後の展開が的確に予想できないため、補作は極めて困難な作業となったが、次のように考えつつ補筆を試みた。
まず、開始後4小節で中断となるロ長調のセクションを全体のおよそ半分の地点と仮定する。第115小節でロ短調に転調するまでは、調号上はずっとハ長調のままだが、実際にはさまざまな調へ転調している。その中でも支配的なのは変イ長調で、これはハ長調からみて「長3度下の長調」である。シューベルトが愛したこの音程関係の転調を最後にも適用することにして、ハ長調で終結する前のセクションはホ長調とする。前述の「グラーツ幻想曲」に倣って、最後は冒頭主題を回想して静かに終わることとし、その直前のホ長調のセクションは舞曲風の軽快な曲想にしてコントラストを持たせる。そして新しいセクションの主題には冒頭のモティーフを使用し、セクション間の繋ぎ目には減七のアルペジオを用いる。

今回私が書き足した部分は以下の通りである。
第147-183小節  (ロ長調、中断されたセクションの続きでロ短調のセクションの再現を含む)
第184-213小節  Moderato(ト長調・ト短調、4/4拍子、Allegro moderato・経過部分の回想)
第214-239小節  Allegro(ホ長調、記譜上12/8拍子の舞曲風)
第240-260小節  Tempo I(ハ長調、冒頭部分の再現)
それまでのセクションの要素を回想しつつ、比較的自由に私なりの曲想を展開させている。

あわせて述べておくべきこととして、第29小節以降、自筆譜でオクターヴ・和音の急速な「連打」として記されている音型は、「トレモロ」で演奏する。こうした、ほとんど演奏不可能な書法は「さすらい人幻想曲」の初稿などにも現れており、同作の改訂の結果なども考え合わせて、このようなアレンジを施しても差し支えないと判断した。
また自筆譜は記譜がかなり簡略化されており、連打が斜線で記されているほか、オッターヴァ・アルタ(オクターブ高く)やオッターヴァ・バッサ(オクターヴ低く)の終了箇所がきちんと明示されていないところが多い。音楽的に判断して終了箇所を決めたが、第31小節の左手で、シューベルトの時代のピアノはおろか、現代の通常の88鍵のピアノでも演奏できない音が出現している。今回の演奏会ではベーゼンドルファー・インペリアルのエキストラ鍵盤を用いて演奏する。

これらのことを総合すると、もともとピアノ曲ではなく、管弦楽曲のスケッチとして書かれたという可能性も十分に考え得る楽曲である。
  1. 2015/10/27(火) 23:26:00|
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