2016年10月15日(土)14時開演 東京文化会館小ホール
♪ピアノ・ソナタ 第5番 変イ長調 D557 ♪ピアノ・ソナタ 第7番 変ニ長調 D568(第1稿、旧D567/補筆完成版)
♪2つのスケルツォ D593 ♪ピアノ・ソナタ 第8番 変ホ長調 D568(第2稿)
一般4,000円/学生2,000円
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- 2016/10/15(土) 14:00:00|
- シューベルトツィクルス
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ピアノ・ソナタ 第5番 変イ長調(/変ホ長調) Sonate Nr.5 As-dur(/Es-dur) D557
作曲:1817年5月 出版:1888年
このソナタは調性の配列が奇妙である。第1楽章は変イ長調で始まるが、第2楽章は変ホ長調、第3楽章も
変ホ長調のままで曲を終える。第3楽章は明らかにフィナーレの特徴を備えており、後続楽章があるようには思われないため、ソナタとしては完結するのだが、
属調で終わるソナタというのは例がない。
シューベルトの死後、兄フェルディナントはこのソナタをディアベリ社に送ったが、おそらく調性に疑念があるせいで完成作とは見なされず、出版はされずじまいだった。その後自筆譜はオークションにかけられ、現在ニューヨークのメトロポリタン・オペラ・ギルドの所蔵となっている。この自筆譜は第3楽章の[28]以降が欠落しているが、「
ヴィッテチェク=シュパウン・コレクション」の筆写譜で第3楽章の完成形を知ることができる。
この筆写譜も楽友協会資料室で実際に閲覧したが、自筆譜に基づく新全集とは細部にいくつかの相違がある。とりわけ第1楽章の[29]では、新全集では右手がオクターヴのトレモロになっているが、筆写譜では上声部のみの単音である。この作品も
「2つのスケルツォ」D593同様、ニューヨークにある自筆譜とは別の自筆譜がかつて存在し、筆写譜の元となったその自筆譜は消失したものと考えられる。
ところで、「ヴィッテチェク=シュパウン・コレクション」の中には、「断片」などと明記されている作品もあるのだが、D557は特に注記もなく、
3楽章構成のソナタとして記されている。
本当にこの状態で完成しているのか、あとで第1楽章または第3楽章を移調するつもりだったのかはわからない。ハンス・ケルチュ Hans Költzschは「シューベルトの書き間違い」と断じているが、アンドレア・リントマイヤー=ブロンドルAndrea Lindmayr-Brondlは意図的な調性配置とみて「形式や楽章構成は古典的だが、調性だけが異常という実験作なのではないか」と論じている。
リントマイヤー=ブロンドルの指摘の通り、モーツァルトに通じる古典派の趣があり、全体的にソナチネ風のこぢんまりしたソナタである。
第1楽章の、勢いある付点を伴ったオクターヴユニゾンの開始は、
メヌエットD380-3との関連性が指摘されている。第1主題はポロネーズ風の威勢の良さを感じさせるもので、しなやかなメロディーが両手で平行して歌われる第2主題と対照をなしている。短い展開部に用いられているモティーフはひとつだけで、第1主題と第2主題の間の経過句から採られている。
第2楽章は三部形式の緩徐楽章。8分音符の訥々とした伴奏型の上で、アウフタクトから始まるメロディーが歌われる。このメロディーは時に対旋律を伴いながらさまざまな音域に登場し、オーケストラの楽器間の対話、交響曲の一場面を想起させる。中間部では変ホ短調に転調し、32分音符の無窮動のパッセージが嵐のように鍵盤を駆けめぐる。
第3楽章はソナタ形式。第1主題・第2主題とも、シューベルト十八番の舞曲の要素が採り入れられ、ウィーンの軽やかな風を感じさせる。展開部では左手の速いパッセージに乗って激しい表現も聴かれる。再現部での転調も手際よく、勢いよく終幕へ駆け抜ける。
- 2016/10/09(日) 03:20:10|
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(シューベルトのピアノ・ソナタの一覧は
こちら。)
シューベルト
20歳の
1817年は、「ピアノ・ソナタの年」と言ってもよいだろう。生涯で最も多い、6曲のピアノ・ソナタ(D537、D557、
D566、D567、D571、D575)に着手している。しかもこの6曲は3月から8月までの半年間に集中して書かれているのだ。
このピアノ・ソナタへの集中は、ひとつには彼の創作環境が変化したことと関係しているようだ。前年1816年の秋、シューベルトは実家を出て、親友フランツ・フォン・ショーバーの邸宅に身を寄せることになった。教職を捨てて専業の音楽家になろうとしたシューベルトは父親の逆鱗に触れて家に居づらくなり、そこへショーバーが住まいを提供した、という事情らしい。友人の家を転々と渡り歩く、ボヘミアン暮らしの始まりであった。ショーバー邸には6オクターヴのピアノがあって、それを自由に使えたことが、ピアノ曲の創作意欲を高めたと考えられている。
もうひとつ、シューベルトはプロの作曲家として認められるための第一歩として、ピアノ・ソナタを発表したいと考えていたふしがある。当時ウィーンでフリーランスの作曲家として成功していたロールモデルは、何と言ってもベートーヴェンだった。若きベートーヴェンがウィーン進出後に最初に出版したのは、室内楽曲やピアノ・ソナタであり、それらの成功は彼に新進作曲家としての名声と、潤沢な収益をもたらした。シューベルトはもちろんそのことを知っていたのだろう。それまでにシューベルトが作曲していた歌曲や自由な形式の器楽曲では、プロを名乗るには不十分だった。より大規模な古典様式の書法をマスターしなければ、という思いも強かったに違いない。
シューベルトが作曲した「6曲」という数は、ハイドンやモーツァルトがピアノ・ソナタや弦楽四重奏曲を出版する際の基本セット数であり、既に失われつつあったウィーンの伝統に倣おうとしたとも考えられる。
しかし、1817年の作品として知られる6曲のソナタを、シューベルトがそのままセットとして出版しようとしていた、とは考えにくい。その理由は、シューベルト本人が書き記した通し番号にある。
<謎・1>1817年の最初のソナタは、3月に完成した
D537(イ短調)である。この楽譜の冒頭に、シューベルトは自ら「
5te Sonate」(第5ソナタ)と記している。
しかし、シューベルトのピアノ・ソナタとして知られているものは、
これ以前には3曲しかない。よってD537は現在
「第4番」とされている。
もっと遡ると、ソナタの第2作として知られるD279(ハ長調)の自筆譜には「Sonate I」(第1ソナタ)との標題もある。
まとめると、
(第1番)ホ長調 D157
(第2番)ハ長調 D279 →
Sonate I(第3番)ホ長調 D459
(第4番)イ短調 D537 →
5te Sonateということになる。
シューベルト自身の通し番号を信じるなら、D279とD537の間に、知られていないソナタが
少なくともあと2曲存在していたことになる。
<謎・2>1817年の2作目は5月の日付を持つ
D557(変イ長調)である。このソナタの自筆譜には通し番号はない。
6月に作曲した第3作
D566(ホ短調)には「
Sonate I」、第4作の
D567(変ニ長調)には「
Sonate II」とある。D567の草稿には、「Sonata X」と書いて上から「II」に訂正したような跡もある(清書稿には明瞭に「II」と記されている)。
D566を起点として、シューベルトは新たにソナタの通し番号を付け始めた。ここから新たなソナタセットを書き始める予定だったのかもしれない。
ところがここからが問題である。第5作、7月の日付を持つ
D571(嬰ヘ短調)の自筆譜に記されているのは「
Sonate V」。更に第6作(この年の最後のソナタ)、8月完成の
D575(ロ長調)の草稿には通し番号はないものの、筆写譜の方に「
Sonate VI」と記されているのだ。
つまり、
Sonate I →
D566Sonate II →
D567Sonate III →
?Sonate IV →
?Sonate V →
D571Sonate VI →
D575となって、
IIIとIVに比定しうるソナタがない、ということになる。D567とD571の間に、もう2作ソナタを書いたのだろうか? いくら速筆のシューベルトとはいえ、6月にD566とD567を仕上げ、7月にはD571に取り組んでおり、その間にあと2作というのはちょっと無理ではないだろうか。
この2つの謎を解くために、多くの研究者がさまざまな説を唱えている。後々ご紹介する機会もあるかもしれない。
<謎・2>に関して言えば、私はこれらの番号は必ずしも作曲した順に付けられたのではないと思う。シューベルトは初めから6曲のソナタセットを構想していて、D571とD575をその「第5曲」と「第6曲」に据えるつもりで書いたのだろう。IIIとIVは結局計画倒れで書かれなかったか、または、シューベルトの脳内ではなんとなく新ソナタの構想ぐらいはあったのかもしれず、その構想が翌年以降のソナタに結実した可能性もある。以前に書いたD537やD557を充てるつもりだったという可能性もなくはない(個人的には、D557を手直しして入れた可能性は十分にあると思う)。
いずれにしても、この「ソナタセット」は完結せず、1曲たりとも生前に日の目を見ることはなかった。
着手した6曲のうち、完結した形で残されたのは
2曲のみ(D537とD575)で、これらはそれぞれ作品164と作品147として、シューベルトの死後にようやく出版された。
さらに、「Sonate II」と題された変ニ長調のD567は、後に手直しされて
変ホ長調のD568として完成し、シューベルトの死の翌年、1829年に作品122として出版されている。次回以降は、このソナタの話題から始めていきたい。
- 2016/07/02(土) 00:07:12|
- 楽曲について
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「シューベルトツィクルス」でピアノ・ソナタを取り上げ始めるにあたって、独奏ソナタについて大まかなところを述べておきたい。
シューベルトが着手し、現存しているピアノ独奏ソナタ作品は
23曲ある。1815年から最晩年の1828年までに書かれたもので、出版年は生前の1826年(D845)から1958年(D769A)までの長期にわたっている。
このうち2曲は第1楽章のはじめの部分だけで止まっている「断片」であり、これらを除く
21曲にいわゆる「通し番号」が振られている。以前は通し番号に混乱がみられたが、現在は最後のD960を「第21番」とすることでほぼ決着している(ただし途中の番号に統一されていない部分がある。変ニ長調D567と、その改訂稿である変ホ長調D568を同一のソナタとして「第7番」を当て、第8番から第11番までが1つずつ繰り下がる。第12番に断章のD655を入れて、有名なイ長調のD664は「第13番」ということで統一される)。
確実に楽章が揃っており、完成した形で伝わっているソナタは
11曲あり、それ以外は作曲中断(未完)や楽章不備などの明らかな欠落があったり、完成作と捉えるには疑問が残る作品となる。
断片を含む全23曲のうち22曲までは、1888年ならびに1897年に出版された、ブライトコプフ版のシューベルト全集(いわゆる「
旧全集」)に収められており、これをシューベルトのピアノ・ソナタ出版の第1段階と考えることができる。
旧全集刊行後、単独小品として出版されていたいくつかのピアノ曲について、楽章の揃っていない未完ソナタに付随する後続(中間)楽章と見なしうるのではないかという説が、さまざまな学者によって唱えられ始めた。なるべくたくさんの楽章をくっつけて、ソナタとしての体裁を整えようという方針である。その最終的な到達点といえるのが1976年に刊行された
ヘンレ原典版(第3巻)だろう。校訂を担当したパウル・バドゥラ=スコダは、すべての未完ソナタに補筆を施して「演奏できる」仕様に仕立て上げ、更に自らピアニストとして録音を行い、このフォーマットによるソナタ像を世界に広めた。現在、演奏の現場で最もよく使用され、信頼されている楽譜であり、後続の多くの出版譜が、多少の解釈の差はあるにせよ、このフォーマットを採用している。これをシューベルトソナタ出版の第2段階とする。
ところが、1996年から出版が始まったベーレンライター版の新シューベルト全集(いわゆる「
新全集」)では、この「楽章連結」の試みに批判的であり、明らかな関連性が認められる場合を除いて「別作品」として扱うという厳格な方針が採られている。ソナタ出版の第3段階である。
これらの3つの段階を踏まえて、以下にシューベルトの全ピアノ独奏ソナタについて、楽章標記と調性も含めて一覧にしてみた。基本的にはヘンレ版(第2段階)のフォーマットを用いており、このうち
太字は旧全集(第1段階)から変わっていないもの、
グレーの文字は新全集(第3段階)で別作品(そのソナタに属するのか疑わしい作品)として扱われているものである。★のついた作品が、いわゆる「完成作」11曲である。
第1番 ホ長調 D157 (作曲:1815年2月 出版:1888年)
I. Allegro ma non troppo ホ長調
II. Andante ホ短調
III. Menuetto. Allegro vivace ホ長調第2番 ハ長調 D279 (作曲:1815年9月 出版:1888年)
I. Allegro moderato ハ長調
II. Andante ヘ長調
III. Menuetto. Allegro vivace イ短調 IV. Allegretto ハ長調 D346第3番 ホ長調 D459 (作曲:1816年8月 出版:1843年(「5つのピアノ曲」として))
I. Allegro moderato ホ長調
II. Allegro ホ長調 [自筆譜未完] III. Adagio ハ長調 D459A-1
IV. Scherzo. Allegro イ長調 D459A-2
V. Allegro patetico ホ長調 D459A-3★ 第4番 イ短調 D537 (作曲:1817年3月 出版:1852年(作品164))
I. Allegro ma non troppo イ短調
II. Allegretto quasi Andantino ホ長調
III. Allegro vivace イ短調第5番 変イ長調 D557 (作曲:1817年5月 出版:1888年)
I. Allegro moderato 変イ長調
II. Andante 変ホ長調
III. Allegro 変ホ長調第6番 ホ短調 D566 (作曲:1817年6月)
I. Moderato ホ短調 (出版:1888年) II. Allegretto ホ長調 (出版:1907年)
III. Scherzo. Allegro vivace 変イ長調 (出版:1928年)
IV. Rondo. Allegretto ホ長調 D506 (出版:1848年(「アダージョとロンド 作品145」として))第7番 変ニ長調 D567 (作曲:1817年6月 出版:1897年) ※第8番 D568の第1稿
I. Allegro moderato 変ニ長調
II. Andante molto 嬰ハ短調
III. Allegretto 変ニ長調 [未完]★ 第8番 変ホ長調 D568 (作曲:不明 出版:1829年(「作品122」))
I. Allegro moderato 変ホ長調
II. Andante molto ト短調
III. Menuetto. Allegretto 変ホ長調
IV. Allegro moderato 変ホ長調第9番 嬰ヘ短調 D571 (作曲:1817年7月 出版:1897年)
I. Allegro moderato 嬰ヘ短調 [未完] II. (Andantino) イ長調 D604 III. Scherzo. Allegro vivace ニ長調 D570-2
IV. Allegro D570-1 嬰ヘ短調 [未完]
★ 第10番 ロ長調 D575 (作曲:1817年8月 出版:1846年(「作品147」))
I. Allegro ma non troppo ロ長調
II. Andante ホ長調
III. Scherzo. Allegretto ト長調
IV. Allegro giusto ロ長調第11番 ハ長調 D613 (作曲:1818年4月 出版:1897年)
I. Moderato ハ長調 [未完] II. Adagio ホ長調 D612 (出版:1869年) III. - ハ長調 [未完]第12番 ヘ短調 D625 (作曲:1818年9月 出版:1897年)
I. Allegro ヘ短調 [未完] II. Adagio 変ニ長調 D505 (出版:1848年(ホ長調に移調し「アダージョとロンド 作品145」として))
III. Scherzo. Allegretto ホ長調
IV. Allegro ヘ短調 [未完]断章 嬰ハ短調 D655 (作曲:1819年4月 出版:1897年)
I. - 嬰ハ短調 [未完]★ 第13番 イ長調 D664 (作曲:1819年? 出版:1829年(「作品120」))
I. Allegro moderato イ長調
II. Andante ニ長調
III. Allegro イ長調断章 ホ短調 D769A (作曲:1823年春 出版:1958年)
I. Allegro ホ短調 [未完]
★ 第14番 イ短調 D784 (作曲:1823年2月 出版:1839年(「作品143」))
I. Allegro giusto イ短調
II. Andante ヘ長調
III. Allegro vivace イ短調第15番 ハ長調 D840(「レリーク」) (作曲:1825年4月 出版:1861年)
I. Moderato ハ長調
II. Andante ハ短調
III. Menuetto. Allegro 変イ長調 [未完]
IV. Rondo. Allegro ハ長調 [未完]★ 第16番 イ短調 D845 (作曲:1825年5月 出版:1826年(「作品42」))
I. Moderato イ短調
II. Andante, poco mosso ハ長調
III. Scherzo. Allegro vivace イ短調
IV. Rondo. Allegro vivace イ短調★ 第17番 ニ長調 D850 (作曲:1825年8月 出版:1826年(「作品53」))
I. Allegro vivace ニ長調
II. Con moto イ長調
III. Scherzo. Allegro vivace ニ長調
IV. Rondo. Allegro moderato ニ長調★ 第18番 ト長調 D894(「幻想」) (作曲:1826年10月 出版:1827年(「幻想曲、アンダンテ、メヌエットとアレグレット 作品78」として))
I. Molto moderato e cantabile ト長調
II. Andante ニ長調
III. Menuetto. Allegro moderato ロ短調
IV. Allegretto ト長調★ 第19番 ハ短調 D958 (作曲:1828年9月 出版:1838年)
I. Allegro ハ短調
II. Adagio 変イ長調
III. Menuetto. Allegro ハ短調
IV. Allegro ハ短調★ 第20番 イ短調 D959 (作曲:1828年9月 出版:1838年)
I. Allegro イ長調
II. Andantino 嬰ヘ短調
III. Scherzo. Allegro vivace イ長調
IV. Allegretto イ長調★ 第21番 変ロ長調 D960 (作曲:1828年9月 出版:1838年)
I. Molto moderato 変ロ長調
II. Andante sostenuto 嬰ハ短調
III. Scherzo. Allegro vivace 変ロ長調
IV. Allegro ma non troppo 変ロ長調このリストから読み取れる事柄については、次回以降改めて述べてみたい。
- 2014/09/16(火) 21:13:30|
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