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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

[告知] シューベルトツィクルス第17回「変奏曲 ―シューベルティアーデの仲間たち―」

シューベルトツィクルス第17回
2022年10月6日(木) 19時開演 東京文化会館小ホール  * ゲスト:斎藤和志(フルート)
♪トリオ D610 ♪ドイツ舞曲とエコセーズ D643 ♪アルバムの綴り D844
♪ヒュッテンブレンナーの主題による13の変奏曲 D576 ♪ディアベリのワルツによる変奏 D718
♪アレグロ・モデラート D347(未完・佐藤卓史による補筆完成版) ♪アンダンティーノ D348(未完・佐藤卓史による補筆完成版)
♪「しぼめる花」の主題による序奏と変奏曲 D802 *
一般4,500円/学生2,500円 →チケット購入
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  1. 2022/10/06(木) 19:00:00|
  2. シューベルトツィクルス
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アンダンティーノ D348 概説

アンダンティーノ ハ長調 Andantino C-dur D348
作曲:1816年? 出版:1897年(旧全集)
楽譜・・・IMSLP


「30のメヌエット」D41の第23曲の裏面に本作の1ページ目が、同じく第22曲の裏面に2ページ目が書かれ、その続きは見つかっていない。第21曲の裏面にはD459A-3「アレグロ・パテティコ」の終結部とD348「アダージョ」の開始部が書かれていて、これらと関連する1816年頃のソナタの一部ではないかという説が有力である。

D348自筆譜1

自筆譜の1ページ目をよく見ると、発想標語ははじめAdagioと書かれたものを消してAndantinoに訂正されており、また調号も♯3つ(ホ長調/嬰ハ短調)書いてから消してある。ホ長調はD459A-3の調性であり、また音符を書き始めたあとに調号を消したとすれば、嬰ハ短調で数音を書き始めてから思い直してハ長調に変えたということになり、これもまた興味深い。
ソナタ楽章であるとすれば、曲調からみて緩徐楽章であることは疑いないだろう。

【セクションA】
[1]-[12] ハ長調
[13]-[22] ト長調
[23]-[35] ハ長調→変ホ長調
【セクションB】
[36]-[51] ハ短調
[52]-[59] 変イ長調
[60]-[66] ハ短調→ハ長調(推移部)
【セクションA'?】
[67]-[71] ハ長調、中断

セクションAはシューベルトの偏愛したダクティルスのリズムが支配する穏やかな音楽で、セクションそのものが小さな三部形式になっている。
セクションBは同主調のハ短調で険しげに始まり、変イ長調の美しいアルペジオと主調のドミナントを経過してセクションAが戻ってくる。しかしその5小節目までで用紙が尽き、続きは書かれたが散逸したとも考えられる。ただしこのあとしばらくセクションAの再現が続くことはほぼ間違いない。
セクションBの左手は[2]のメロディーの、装飾音のついた16分音符の音型を敷衍したものであり、調性からいってもソナタ形式の第2主題とは見做しがたい。そこでABAの三部形式と見立て、セクションAの復元ののちハ長調の小さなコーダを補った。
D347に比べるとだいぶ簡潔な補筆作業となった。
  1. 2022/10/05(水) 19:58:10|
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アレグロ・モデラート D347 概説

アレグロ・モデラート ハ長調 Allegro moderato C-dur D347
作曲:1813年? 出版:1897年(旧全集)
楽譜・・・IMSLP


D347自筆譜1ページ目
アレグロ・モデラート D347 自筆譜 1ページ目

表題もなく、発想標語(Allegro moderato)と楽器名(Clav.)だけが記されて始まった自筆譜は、3ページ目の半ば、[73]で中断されている。最後の3小節は最上声しか記されていない。
その裏面からは変ロ長調のフーガのスケッチ(D37A・未完)が始まっている。ということは、ここで作曲者は作曲をやめたということだ。キリの良い箇所でもなく、作品の全体像はわからない。途中まで書いて放棄したパターンであろう。
弦楽四重奏風の書法は、シューベルト初期の多くのピアノ曲と共通している。フーガは学習用とみられることから、サリエリのもとで実習をしていた1813年頃の作品と推定される。
何のつもりで書かれたのかもわからないが、途中で経過的に出てくる装飾的な音型や64分音符の上行音階、「運命」動機などがその後の展開のメインモティーフになっているのは興味深く、脈絡のない幻想曲風の構成とは異なる、有機的な展開を試みようとしていることが窺える。

D347自筆譜3ページ目
アレグロ・モデラート D347 自筆譜3ページ目。大譜表の4段目から下声が欠落し、3小節で中断される。

中断箇所の手前、[58]あたりから属調ト長調へ向かう傾向がみられることから、ここまでを第1主題と捉え、「展開部を欠くソナタ形式」の楽曲として補完することにした。
第2主題は、さすがに完全創作は諦め[3][4]の動機を利用してみた。主題提示の直後から小さな展開が始まる構造や、「運命」動機を低声部で保続する『未完成』第1楽章の模倣など、後期シューベルトの語法を半分遊びでオマージュしている。再現部はかなり切り詰めたが、それでもシューベルトの自筆の2倍を超える大規模な(骨の折れる)補筆となった。
10代のシューベルトが完成させていたらこんな曲にはなっていないだろうが、そもそも完成させる気はなかったのだろうから、あとは自由な創作として楽しんでいただければ幸いである。
  1. 2022/10/04(火) 21:10:27|
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