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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

[告知] シューベルトツィクルス第1回「幻想曲-Fantasien-」

2014-04-02_flier
2014年4月2日(水)19時開演 東京文化会館小ホール
♪幻想曲 ハ短調 D2e ♪アンダンテ ハ長調 D29 ♪10の変奏曲 ヘ長調 D156  ♪幻想曲 ハ長調 D605a「グラーツ幻想曲」
♪12のウィーン風ドイツ舞曲 D128 ♪アダージョ ト長調 D178 ♪幻想曲 ハ長調 D760「さすらい人幻想曲」
一般4,000円/学生2,000円 →チケット購入
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  1. 2014/04/02(水) 19:00:00|
  2. シューベルトツィクルス
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アンダンテ ハ長調 D29 概説

アンダンテ ハ長調 Andante C-dur D29
作曲:1812年9月9日 出版:1888年

シューベルト初期の作品にしては珍しく、詳細な作曲の年月日がわかっている。曲の冒頭と末尾に、2度も「1812年9月9日」と記されているのだ。「1日で書き上げました!」とわざわざ強調しているようなものである。
これはD3の弦楽四重奏断章の、作曲者自身によるピアノ用リダクションである。D3はしかし、第29小節までの未完成な形でしか残されていない。D3を元に、2段譜の形で全貌をスケッチしたのがD29なのかもしれないし、あるいはD3には失われた完成稿があって、そのピアノ版がD29なのかもしれない。
D3は弦楽四重奏曲 ハ長調 D32の緩徐楽章として作曲が試みられたといわれているが、最終的にはイ短調のシチリアーノ風の緩徐楽章に取って代わられた。また弦楽四重奏曲 変ロ長調 D36(1812年11月)の第2楽章のスケッチにも本作のモティーフが現れているが、結局抹消されて最終稿には姿を見せていない。そういうわけで、この作品のテーマが完全な形で聴けるのはピアノ版のD29のみ、ということになっている。

成立事情から考えて当然だが、いかにも弦楽四重奏風の簡素な響きの作品である。
下行する3音の旋律線が特徴的なテーマは、アンセムのようでもあり、シンプルゆえに心に残る。冒頭の15小節間、長く紡がれていくメロディーはシューベルトならではといったところ。この15小節はリピートされる。
このテーマはこの後、あと4回登場するのだが、どんどんフレーズの展開が短く貧弱になってしまうのが惜しい。とりわけ2回目、ト長調で登場したあとはたたみかけるような転調で「良い線いっている」のだが、結局すぐにハ長調の終止に飛びついてしまい、ドラマティックな展開に至らない。
あくまで私見であるが、私自身作曲を試みた経験から言って、着想というのはある程度天賦の才で何とかなるものだが(そして着想が貧弱な者はもうどうしようもないのだが)、それを展開していく力は「作曲技術」によるところが大きい。これは後天的な訓練によって身につけていくしかない。
この作品も、着想は素晴らしいのだが、展開に難があるという点で、シューベルトの天才的な発想力に、作曲技術が追いついていなかった時期の作品、といっていいだろうと思う。
  1. 2014/03/09(日) 04:01:07|
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