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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

[告知] シューベルトツィクルス第4回「4手のための幻想曲I」

2015年10月29日・第4回
2015年10月29日(木)19時開演 東京文化会館小ホール
♪2つのメヌエット D91 ♪メヌエット ホ長調 D335 ♪12のエコセーズ D299
♪アダージョ ト長調 D178(第2稿、未完・補筆版) ♪メヌエット イ長調 D334 ♪幻想曲 ハ長調 D605(未完・補筆版)
♪幻想曲 ト長調 D1* ♪幻想曲 ト短調 D9* ♪2つの性格的な行進曲D968b(886)*
* 共演:佐藤彦大(ピアノ)
一般4,000円/学生2,000円 →チケット購入
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  1. 2015/10/29(木) 19:00:00|
  2. シューベルトツィクルス
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幻想曲 ト長調 D1 概説

幻想曲 ト長調 Fantasie G-dur D1
作曲:1810年4月8日~5月1日 出版:1888年
楽譜・・・IMSLP

知られている限り、現存するフランツ・シューベルトの最初の作品である。自筆譜によれば、1810年4月8日に作曲を開始し、5月1日に完成している。時にシューベルトは13歳、コンヴィクトに入学して1年半ほど経った頃のことである。この頃はまだサリエリの個人指導は受けておらず、作曲に関してはほぼ独学だったようだが、そのような環境と年齢を考え合わせると、楽譜にして1000小節以上、演奏時間約20分もの4手のピアノ曲を書き上げたその意欲には驚くべきものがある。完成後、すぐに改訂稿(D1B)の作成に取りかかったのだが、これは途中で筆が止まっており、早くもシューベルトの「未完の王様」ぶりが発揮されてしまっている。

曲は、区切り方によって異なるが20前後の細かいセクションに分かれており、テンポも調性も頻繁に変化する。調性はト長調で始まるが、主要な部分だけでもヘ長調、ハ短調、変ロ長調、ロ長調、変ロ短調、変ホ長調などを経過し、最終的にはハ長調で終止するというとめどなさを呈する。
一方でテンポは、序奏的な冒頭部分と終結部(「フィナーレ」)の直前の部分を除くと、遅いテンポが持続する箇所は少なく、全体的に快速から急速といった速めのテンポが指向されている。また、冒頭の「ソ・ラ・シ」という3音の上行形、音程を更に広げた「ド・ミ・ソ」の上行アルペジオの音型が、全曲を貫く主要なモティーフとなっており、これらのことが若者らしいエネルギッシュな漸進性を本作に与えている。

細部についての解説は割愛するが、もうひとつ注目すべきなのは、セコンドのパートでバスのトレモロ上に現れるファンファーレ風のモティーフに「トランペット」と書き込まれていることだ。これは作曲者の脳内に、オーケストラの響きが鳴り響いていたことを示しており、そう考えればバスのトレモロはいかにもティンパニ風である。もしかしたらやがてシンフォニーとして編み直すためのスケッチという意味合いもあったのかもしれない。
  1. 2015/10/28(水) 13:37:43|
  2. 楽曲について
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幻想曲 ハ短調 D2e 概説

幻想曲 ハ短調 Fantasie c-moll D2e
作曲:1811年 出版:1979年
知られている限り、シューベルトの最初のピアノ独奏曲である。
自筆譜には作曲年は記されていないが、前後にD2dの管楽アンサンブルのための6つのメヌエットの一部が書かれているため、同じ1811年前半の作曲と考えられる。またコンヴィクト時代からの友人ヨーゼフ・フォン・シュパウンの回想によると、1811年3月に1年ぶりにシューベルトに会った際、「彼はこの1年の間にソナタ1曲、幻想曲1曲、小さなオペラを書き上げ、今はミサ曲を作曲していると言った」とのことで、この「幻想曲」が連弾用のD1やD9ではなくこのD2eを指しているならば、1811年3月以前に完成していたのかもしれない。兄フェルディナントの作品目録には含まれていないが、フェルディナント自身の作品であるこどものための歌芝居「小さな落ち穂拾いの少女」の序曲に、このD2eの最後の19小節が引用されており、おそらく家庭内で演奏され、フェルディナントも耳にしていたのだろうと推測される。
・・・といったことが新全集の解説や付属のドイチュ番号カタログ(1978)に記されている。

幻想曲というのは、基本的には「さまざまな楽想が次々と自由に、脈絡なく続いていく器楽曲」である。秩序だった構成を持たず、ひとつのまとまったストーリーを語るのでもない。古典時代の作例としては、モーツァルトのK397(ニ短調)やK475(ハ短調)、ベートーヴェンの作品77などを挙げることができる。とりとめもない自由な飛翔が「ファンタジー」のタイトルの由来だろう。
シューベルトはこの作品の前に、1つ「幻想曲」と呼ばれる作品を完成させている。連弾用のD1、1810年4月8日から5月1日にかけて作曲された作品である。これは1000小節を優に超える大作で、全体も3つの部分にわけられているが、さまざまな楽想がとりとめもなく出現し繋ぎ合わされていく様子はまさに「幻想曲」である。正直なところ、あまりに長く散漫な印象を受ける。
翻ってD2eは91小節とだいぶコンパクトにまとまっている。おおまかに捉えれば三部形式というか、Largoと書かれたハ短調の序奏・後奏の間にAndantino(ホ長調→イ短調)の主部が挟まっている形、と考えることもできる。

A: [1]-[16] Largo ハ短調→ホ長調
B: [17]-[41] Andantino ホ長調
  [42]-[63] イ短調→ハ短調
  [64]-[72] Allegro ハ短調
A': [73]-[91] Largo ハ短調

Aは低音域のユニゾンでオペラ序曲風に開始される。楽想は断片的・即興的だが、減七の和音が多用され、そこから遠隔調のホ長調へと転調していく。ハ短調→ホ長調。後年に至るまでシューベルトが好んだ「長3度上への転調」である。
Bのホ長調のセクションは、5小節の主題を延々と繰り返しながら変奏を加えていくもの。バス声部がe-fis-gis-a-ais-h-cisと上行していくのが特徴で、下降気味だったA部分と対照的に前向きな気分がある。左手が6連符の伴奏形に変わると(ここから書法が非常に「ピアノ的」になる)、右手の旋律にも細かい音階のパッセージが組み込まれていき、音域も幅広くなっていくが、延々と同じ和声進行がループするだけで発展性はない。この「延々と続く」感じは後年のシューベルトにも引き継がれている。
それを断ち切るように[42]で調号が消え、6小節かけてイ短調のドミナントを確定させる。イ短調ではホ長調部分を回想するが、4小節×2で終わり、[56]からは転調するための「つなぎ」となる。
[64]からの9小節間が、なんだかよくわからない。一見ポリフォニックに書かれているが、テンポは「Allegro」と突如急速になる。デュナーミクはpp。バスは半音階でcからgに降りるだけ。おそらく[64]でいきなり序奏が回帰するのは唐突だと考えたのかもしれないが・・・。
[73]でAが戻ってくる。イ短調とヘ短調を少しかすめながら、ハ短調のまま終結となる。最後のスタッカートつきの付点リズムはまるで葬送行進曲のようだ。兄フェルディナントが自作曲に引用したというのはこのセクションである。

作曲当時シューベルトは14歳。帝室の寄宿制神学校コンヴィクトに在籍し、聖歌隊員として歌いながらサリエリに作曲を習っていた時期である。モーツァルトやメンデルスゾーンほどの早熟の天才ではなかったにせよ、シューベルトの天分の「ファンタジー」が垣間見える習作だと私は感じている。
  1. 2014/03/05(水) 17:29:40|
  2. 楽曲について
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