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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

ソナタ 変ロ長調 D617 概説

ソナタ 変ロ長調 (「グランド・ソナタ」) Sonate B-dur ("Grande Sonate") D617
作曲:1818年 出版:1823年(作品30)
楽譜・・・IMSLP

シューベルトの4手のためのソナタとして知られている2曲のうちの、はじめの1曲である。自筆譜は失われているが、アントン・シントラーによる目録に1818年の作品と記録されており、その記述を信じるならば状況的にみてツェリス滞在中の作品だと考えられている。1823年12月にザウアー&ライデスドルフ社から「グランド・ソナタ 作品30」として出版されたが、直後に刊行された第2版には「第1グランド・ソナタ」とあり、シューベルトが既に「第2グランド・ソナタ」を作曲していた可能性を示唆している(ちなみに、現在知られているもう1曲の4手ソナタD812は1824年の作品である)。
献呈先のフェルディナンド・パルフィ・フォン・エルデード伯爵 Graf Ferdinand Pálffy von Erdöd (1774-1840)は、鉱山技術者でありながらアン・デア・ヴィーン劇場の監督としても活躍した人物である。同劇場では1820年に「魔法の竪琴」D644、1823年12月(ソナタの出版とほぼ同時)には劇音楽「ロザムンデ」D797が初演されており、これらの上演とソナタの献呈を関連づける説も多い。

「グランド・ソナタ」というタイトルのわりには簡素な作りではあるが、前年に多くの独奏ソナタを手がけた経験を経て、ソナタ形式の扱いは洗練され、手慣れたものとなっている。

第1楽章 変ロ長調 ソナタ形式
提示部
[1] - [3] 序奏
[4] - [19] 第1主題 変ロ長調
[20] - [32] 経過句 変ロ長調
[33] - [52] 第2主題 変ニ長調→変イ長調→嬰ハ短調→・・・→ヘ長調
[53] - [68] 小結尾 ヘ長調
展開部
[69] - [86] 第1主題経過句のモティーフによる展開 ニ長調→変ホ短調→・・・
[87] - [105] 新しい主題による展開 イ長調→変ロ長調
再現部
[106] - [121] 第1主題 変ロ長調
[122] - [134] 経過句 変ロ長調
[135] - [154] 第2主題 変ト長調→変ニ長調→嬰ヘ短調→・・・→変ロ長調
[155] - [170] 結尾 変ロ長調

3小節のプリモの独奏に導かれて、シューベルトならではの愛らしい第1主題が始まる。経過句はやや行進曲的なマッチョな表情を見せ、変ニ長調の第2主題に至る。バスのオクターヴロールが主音を保続する上で、生き生きした3連符のテーマが模倣されながら積み上がっていく。このテーマを繰り返しながら頻繁に転調していく第2主題部の後半は、後年のシューベルトのソナタ形式の定番である「提示部の中の展開」を先取りするものだ。提示部末尾の[68]には繰り返し記号が付けられているが、楽譜通り曲頭の序奏に戻るのは不自然だし、だからといって他に戻れそうな箇所も見当たらない。おそらくは慣習的な繰り返し記号であり、演奏においては無視して差し支えないと思われる。
展開部は意表を突いたニ長調で始まるが、安定せずにさまざまな調へ転がっていく。労作の主題は、冒頭の歌謡風の第1主題ではなく、経過句に登場した行進曲風のモティーフである。更に新たな主題がイ長調で登場したあと、手際よく主調が準備され、型通りの再現が行われる。各部のバランスの取れた、プロポーションのよいソナタ形式楽章となっている。

第2楽章 ニ短調→ニ長調 三部形式
[1] - [16] 主部(A) ニ短調
[17] - [68] 中間部(B) 変ロ長調→変ホ長調→変ト長調→イ長調
[69] - [100] 主部回帰(A') ニ長調
[101] - [112] コーダ ニ長調

典型的な三部形式の緩徐楽章。弦楽四重奏を思わせる4声の緊密なアンサンブルによって、ニ短調の孤独な主題が提示される。中間部は比較的大規模で、曲調はダイナミックに変化し、幻想的な世界の広がりすら感じさせる。主部は同主調のニ長調で回帰し、プリモの右手には細かいオブリガートのパッセージが追加される。

第3楽章 変ロ長調 ソナタ形式
提示部
[1] - [7] 第1主題 変ロ長調
[8] - [32] 経過句 変ロ長調→ヘ長調
[33] - [53] 第2主題 変ト長調→変ニ長調→ヘ長調
[54] - [73] 小結尾 変ロ長調
展開部
[74] - [85] A ニ短調 (繰り返しあり)
[86] - [98] B 変ロ長調
[99] - [111] A' ニ短調→変ロ長調
再現部
[112] - [118] 第1主題 変ロ長調
[119] - [141] 経過句 変ロ長調
[142] - [162] 第2主題 変ハ長調→変ト長調→変ロ長調
[163] - [191] 結尾 変ロ長調

冒頭の風変わりな和音で聴き手を驚かせるが、全体的には古典的でチャーミングなフィナーレである。第2主題は変ト長調で、第1主題のリズムパターンを受け継ぎながらも、アクセントがより強調されている。展開部はニ短調の突然の強奏で始まり、転調とともにさまざまな表情を見せる。変ハ長調(!)の第2主題を持つ再現部で再び軽やかな名人芸を披露した後、第1主題を回想して静かに曲を閉じる。

以上全3楽章の分析を一見して気づくのは、ニ長調・ニ短調や変ト長調といった「変ロ長調と長3度関係にある調性」が多用されていることである。これはシューベルトが特に好んだ調性関係だった。
アンドレアス・クラウゼ Andreas Krauseは、第1楽章展開部冒頭の「ニ長調」に対する第3楽章展開部の「ニ短調」、更に第2楽章前半の「ニ短調」に対する後半の「ニ長調」が対応関係にあり、第2楽章中間部を中心点としたシンメトリカルな構造となっていることを指摘している。
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  1. 2018/10/01(月) 20:12:13|
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