fc2ブログ


シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

斎藤和志インタビュー(2) 4スタンス作曲家分類論 ―ヒンデミットが「頽廃芸術」と糾弾された理由

第1回はこちら

斎藤 ここからはだいぶ先走った話になって、怪しい占いとか、そのテのイっちゃった話に聞こえるので、話半分で聞いて欲しいぐらいの話ではあるんですが。
佐藤 はい。
斎藤 面白いのは、作曲家も演奏家と同じように、生まれつきのリズム感があって、それが音楽の違いに表れているんですよね。それを文化の違い、言葉の違いだって一般的になんとなくフワッて言うんですけど、じゃあドビュッシーとラヴェル、なんであんなにリズム感違うのかと。たとえば、チャイコフスキーとラフマニノフ。あるいは、バッハとテレマンでもいいんですけど。
佐藤 なるほど。
斎藤 たとえば一柳先生と武満先生。ポピュラーだと忌野清志郎さんと玉置浩二さんとか、フレディ・マーキュリーとマイケル・ジャクソンとか。たとえ同じ時代の同じ国の人の場合でも全然違う、これが説明できなくてなかなか不思議だったんですけど、この理論でたぶん一発で。むしろ、ジャンルや時代、言葉なんかあんまり関係ないかもってなるぐらいです。
佐藤 へえ。
斎藤 もともとの音楽がどこから来たのか、リズム感っていうのはどこから来たのかっていったら、きっと原始的、本能的なノリ、つまり身体の動きから来たんだろうと。この国だからこう、この時代だからこうっていうのが、実はあまり関係なくて、その人の骨の動きがどうだったのかっていう。
佐藤 身体性ということですか。
斎藤 それが音楽の根源にも通じているんです。面白いのは、演奏家は無意識に、この曲にはこっちの方がふさわしいリズム感っていうのをちゃんと分かってる。同じ「タンタカ」って譜面であっても、ベートーヴェンの7番4楽章は「たんたかたん、たんたかたん」ってイーブンにかっちりやるけど、「こうもり」序曲なら「タンータカタンータカ、タンータカタンータカ」っていうのが普通だってみんな割と普通に思っている。


ベートーヴェン:交響曲第7番第4楽章(イヴァン・フィッシャー指揮コンセルトヘボウ)とJ.シュトラウス:「こうもり」序曲(カルロス・クライバー指揮ウィーンフィル) いずれも該当箇所から再生されます

佐藤 なるほどね、スタイルとして。
斎藤 あの、ふわふわ、くにゃくにゃ動くのはA1のリズム感なんですけど、たとえばドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」【YouTube】みたいな、常にアッチェレランドとリタルダンドがかかっているような。
佐藤 はい、はい。
斎藤 あるいはプッチーニの「ムゼッタのワルツ」(『ラ・ボエーム』)【YouTube】とか。ドビュッシープッチーニ、あとドヴォルザークとかビゼーとかA1ですね。僕もA1なんですけど、僕らからするとあのリズム、実にしっくりくるというか普通なんですよね。あれがインテンポ。メトロノームに合わせたインテンポではなく、身体の動きに合わせたインテンポ。
佐藤 わかりますね。
斎藤 こういうのはラヴェルには絶対出てこないリズムですね。ラヴェルには揺らぎっぽいアゴーギクは無くて常にスクエアです。それは、ラヴェルはパラレルA2なんだって考えるとスッと納得できるんです。シューベルトもそう。あとプロコフィエフ、ストラヴィンスキーベートーヴェンマーラーも。
佐藤 ほう。
斎藤 でこのAタイプの人たちは、喜ぶときに「やったー」と上に身体が開く。だから1拍目が、せーの、「ふわん」とこう上に抜けるわけです。

Aタイプ

佐藤 うん。
斎藤 音があんまり「んーー」ってならない。ベートーヴェンもならない、メンデルスゾーンもならない、マーラーなんてあんなに分厚いけど、「らん」って。これが「らーー」ってなる人たちは、逆にBタイプ。肘と膝を使う人たちは、「ヨーシ」とガッツポーズをするんですね、無意識に。そうすると下方向に力が入るから、1拍目もせーの、「ぅううん」と下に。

Bタイプ

佐藤 なるほど。
斎藤 でそのBタイプの中にも2つあって、チャイコフスキーみたいなのがB1ってタイプだと理解してます。「くるみ割り」【YouTube】なんか華やかですけど、決してユラユラしたり先走ったり抜けたりはしない。伴奏の刻みもずっと均等で持続的に、いわゆるスコアが埋まってる状態。ワーグナーブルックナー、この人たちはB1です。それからバッハも、「だーだーだー」ってなる。それに対して「ぐわわーーん」といつもうねって動いてる人、ラフマニノフの「んららりらりー」(パガニーニ・ラプソディー~第18変奏)【YouTube】とか、あるじゃないですか。
佐藤 はい。
斎藤 あれがB2だと考えているんです。ラフマニノフ、リヒャルト・シュトラウス、あとブラームスも。
佐藤 なるほど。
斎藤 だからこれがチャイコフスキーとラフマニノフの違いですね。ブラームスとワーグナーの違いも同様で。同じ時代の同じ国の人でも違う。ただ、傾向として多い少ないというのはあって、フランス人はAタイプが多いのかもしれませんね。ドイツ風に対してフランス風っていわれてるのはおそらくそれなんですが、逆にドイツ人でA1だとヒンデミットとか。
佐藤 ヒンデミット、あそうなんですか。
斎藤 ドイツでは非常に珍しい。だから頽廃芸術家として演奏禁止になった。あれはフランス風と思われたんでしょう。
佐藤 (笑)そういうことなのかな。
斎藤 まあ本人たち死んじゃってるしいろいろ事情はあったんでしょうけど。フランス風序曲【YouTube/ヘンデル:「メサイア」序曲】のリズムってあるじゃないですか。
佐藤 はい。
斎藤 あれはまさにA1のリズムなんです。「たーーんたかたーーん」(複付点風)っていうやつ。実はヒンデミットもまったくあれです。だからそういう部分けっこう隠して書いてますよね。
佐藤 へえ。
斎藤 フランスでは逆にB2っていう、豪華絢爛だけどある意味クドいラフマニノフっぽい人がほとんどいない。あれがくどくてダサいと思われてる文化なのか人種的に少ないのか。
佐藤 ふむ。
斎藤 サン=サーンスは例外的にそうですよね。B2の人だと思います。特に協奏曲なんてブラームスみたいな音しますし、持続音が好きだからか「オルガン付き」【YouTube/第4楽章】なんて書いてる。まあ偶然だったらすみませんですが。
佐藤 ははあ。
斎藤 フランスでもフォーレとかブーレーズとか、あの人たちはB1、チャイコフスキーやバッハと同じリズム感。だから基本プラプラ跳ねない。でもフランスはたぶん基本的にAタイプの人が多い。「ふあん」っていう音楽が多いのはそれのせいだと思いますよ。基本的には上に行って引力によって落ちるってフレーズ感。それを「言語から来てる、ドイツ語はこうだから、フランス語はこうだから」って言う人もいますが、僕はそこからさらに一歩すすんで、「なんでフランス語があんな言語になったのか」っていうところから考えた方が面白いと思ってる。つまり、くにゃくにゃしてフワフワ動いて「むにゅむにゅ」とか言う人間が多かったんじゃないかなと。
佐藤 (笑)そうなのかな。
斎藤 まあこのへんは想像ですし、違ってたらスイマセンってことではあるんですが。


斎藤 それで、今回ご一緒させていただくシューベルトっていうのはA2で、自分とは違うリズム感の人なので、気をつけないと「りーらりらりらりら」とやり過ぎちゃって、なんかシューベルトじゃないなっていうふうになる。
佐藤 はあはあ。
斎藤 でも、フルートにはクラシックの偉大な作曲家のレパートリーってあんまりないので、このシューベルトの「しぼめる花」の序奏とヴァリエーション、ヴァイオリンとかチェロの人からしたら、「ああ、よくある小品ね!」みたいなノリなのかもしれないんですけど(笑)、フルートにとっては、これは一大作品なんですよ。だからお声をかけていただいて、よしやってやると。一大チャレンジで、良い機会だからここでガチッと自分を鍛え直して、気合いの入った演奏をしようと思っているところなんですけどね。
佐藤 ちなみに、この「しぼめる花」はこれまで何回ぐらい演奏されたことがあるんですか?
斎藤 いやあ・・・
佐藤 学生時代にはもちろん勉強されて?
斎藤 もちろん、これ勉強しないやつはいないので。
佐藤 ああそういう曲なんですね。
斎藤 ただ僕の先生、パウル・マイゼン先生は、まさにシューベルトと同じリズム感のA2先生で、レッスン受けると「うわー、これはこの人にはかなわんな」と。自分のリサイタルってたまにしかやらないですからね、やっぱり一番得意な、自分が全開でできる曲からいこうかっていうふうにやってると、回数としてはそんなにやってないかなという感じです。それでももちろんシューベルトをって言われる機会もあって、何回かは演奏しているはずですけど、100回、200回はやってないですね。・・・いや嘘です。10回も吹いてません。
佐藤 そうですか。
斎藤 久しぶりです。何年も吹いてない。いざ久々にやってみるとすごくやっぱ難しいですね。これは単にリズム感の違いっていう以外に、シューベルトの曲はピアノもシンフォニーもそうだと思いますけど、演奏しやすくてヴィルトゥオーゾで、意外と簡単なんだけど格好よく聞こえるみたいなのとはまさに対極の。
佐藤 うん、確かにそうです。
斎藤 内容はすごくあるんだけど、弾きやすくはない。
佐藤 そうなんですよね(笑)。難しいわりには演奏効果が上がらないという曲は多い。
斎藤 ほんとそう。かといって無理に演奏効果を狙ってこれ見よがしにやるとものすごく安っぽーくなるじゃないですか(笑)。だから技術的にも音楽的にも直球でどーんと、小細工無しでやれる実力がある人が演奏すべき曲なんだなあというのは感じますね。
佐藤 はあ、なるほど。
斎藤 それこそオーケストラの世界でも、シューベルトのシンフォニーを定期演奏会で取り上げるなんていうことは今は滅多にないんじゃないですかね。
佐藤 ああほんとですか。
斎藤 やはりかなりの指揮者が、かなりがっちりリハーサルやって、オーケストラもかなり地力がないと、まあ、退屈に
佐藤 (笑)確かに。
斎藤 言い方は難しいんですけど、たとえば『ローマの祭り』なんかをやると、盛り上がるのはまあ間違いない。
佐藤 それはそうですね。
斎藤 チャイコフスキーの5番であったり、ベートーヴェンの7番やったりすれば、盛り上がる。曲自体がものすごく映えるというか。シューベルトも曲は素晴らしく良いんですけど(笑)、演奏がそれほどでもないと、なんかお客さんも「うーん、あ、終わったか?」みたいな演奏に。
佐藤 (笑)
斎藤 ですから、本当に感動的なシューベルトのシンフォニーの演奏会っていうのはそんなに機会がないんですよね。よく覚えてるのはチョン・ミョンフンとやった「グレート」。ああ、こんなにシューベルトっていうのは輝く音楽なんだ、なるほど、グレートっていうのはまさにそうだなって。あれは忘れられないです。でも、それも十何年前で。
佐藤 ああそうですか。
斎藤 それ以来、それほどの感銘を受ける演奏会は・・・いやわかんない、やってるかもしれないし、誰かやってる指揮者に、あの野郎って思われるかもしれないけど(笑)本当に力を持ったすごい作品だけど、それがちゃんと届くほどの演奏をするにはものすごい地力と頭、譜面をきっちり読み上げてて、それをこれ見よがしじゃなくて直球で演奏しないと、安っぽくなっちゃうっていう。そういう点で、今回は本当にビッグチャレンジなんです。
佐藤 ちなみにオケのメンバーの方々は、たとえば今度の定期のプログラムはシューベルトのシンフォニーだっていうと、どんな反応なんですか?
斎藤 それこそ、オーボエの連中なんかはものすごく張り詰めますよね。
佐藤 ああ、そうなんだ。
斎藤 簡単そうに美しく聞こえるじゃないですか。ものすごくシビアなんですよ。特に「未完成」とか。
佐藤 「未完成」のソロね。
斎藤 有名な曲ではあるんですけど、まずオーボエ奏者は普段よりさらに目を三角にしてリード調整してますね。
佐藤 (笑)
斎藤 そのくらい集中して、はじめて普通に聞こえるレヴェルになる、っていう感じなんじゃないですかね。ものすごい気を遣って、でも作り物みたいに作り上げるんじゃなくて、自然を壊さないように、だけど粗が見えないように。それでいて吹きやすいわけじゃないですからね。なんか不思議ですね、どの楽器に対してもそうなんです。
佐藤 そうなんですね(笑)それは何か楽器法が良くないということなのでは。
斎藤 いやそれとは違うんですよ。良い音はするんです。
佐藤 ああ、だけどやりやすくはないと。
斎藤 オーケストラやってると、それはすごく感じます。楽器法が下手で、変な音するアレンジャーの人と、すごく吹きづらいけど、すごく良い音する人っていうのは、厳然と差があります。
佐藤 そうなんだ。不思議ですね。
斎藤 だから一般にオーケストレーションが上手くないって言われている作曲家で、何言ってるんだ、そんなことないぞっていう人はいますね。
佐藤 へえ。
斎藤 オーケストレーションに問題あるって言われてて、その通りだ!っていう人ももちろんいます。
佐藤 あはははは。
斎藤 ちょっと話は脇道にそれますけど・・・

第3回につづく
スポンサーサイト



  1. 2022/10/04(火) 14:39:52|
  2. シューベルトツィクルス
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

斎藤和志インタビュー(1) 指導者こそ知っておきたい4スタンス理論の話

佐藤卓史シューベルトツィクルス第17回ゲストの斎藤和志さんにお話を伺いました。
斎藤和志さんは東京藝大の大先輩であり、2001年の第70回日本音楽コンクールの「同期」優勝者として全国ツアーをともにした仲間でもあります。それもふた昔も前の話…
80分にわたるロングインタビューを4回にわけてお届けします!

佐藤 いや、大変お久しぶりです。
斎藤 ほんとですね。いつ以来ですか。まさかコンクール以来?
佐藤 いやそれはさすがにないと思いますけどね。コンクールがもう21年前で、翌年に受賞者コンサートであちこちご一緒して。
斎藤 確かコンチェルトで、東フィルに来てくれたのが・・・
佐藤 それにしてもたぶん2004年とかそのぐらいですね。
斎藤 そうですか。昨日の晩ご飯が何かも思い出せないぐらいだからあれなんですけど、もう本当にご無沙汰してます。
佐藤 前にリサイタルを聴きに伺ったんですけど、それももう十何年前に。
斎藤 ああ、僕の?
佐藤 はい。どこでしたっけあれ?
斎藤 それは津田ホールでやった。
佐藤 そうそう、津田ホールでなさったとき。
斎藤 それも20年前とかじゃないですかね。
佐藤 あ、そうですか。そのときのことはすごくよく覚えてますけど。
斎藤 それはそれは。リサイタルとか面倒くさくなってあまりやらないでいたのでね。
佐藤 その間はどんな感じの人生を送ってらっしゃいました?
斎藤 あくせくやってたっていうか。でも実はジストニアみたいな、指が動かなくなったり、口が動かなくなったり、頭が回らない、まあそれはいつも通りですけど(笑)それでもうちょっと調子良くなったら派手にリサイタルでもやろうかなと思って、しばらくオーケストラでだましだまし適当に吹いたりして。

斎藤和志インタビュー01

佐藤 (笑)いやいや。
斎藤 そしたらまあ、治ったんですよ。完全に治って。
佐藤 はい。
斎藤 それじゃリサイタルやろうかなと思ったらコロナ騒ぎで、延び延びになって。それでも去年オペラシティで、リサイタルを久々に。あとはもうちょっと小さいところ、ライヴハウスとかですね。
佐藤 ああそうなんですね。
斎藤 いろんなジャンルの音楽が好きで、ジャズとかの人とも会える、みたいなのをやったり。だいたい勤めてる東京フィルっていう会社じたい、いろんなジャンルを何でもやる会社なものでして。
佐藤 そうなんですか。
斎藤 ええ、すごいビッグなロックの人が来てくれたり、ジャズの人が来てくれたり。
佐藤 結構実験的な感じなんですね。
斎藤 あとはもちろん、映画音楽とか、アニソンとかゲーム音楽とか。
佐藤 そういうのはお客さん入りますからね。
斎藤 お金もあるし、アニソンとか馬鹿にしてる人もいますけど、中で曲書いたりアレンジしたりしてる人はプロ中のプロだから、すごい曲ができあがってくるので、そういうのは、演奏も各ジャンルのやっぱりプロ中のプロな人と一緒にやるので、楽しいですよね。
佐藤 ほうー、なるほど。
斎藤 面白い展開を見せてると思いますね、あっちの業界はアツいですね。昔のクラシックの人がやっつけで安い仕事としてやってるのとはちょっと違う。つい先日も挾間美帆さん、もうホント世界的なスターになりましたねえ!ジャズとクラシックの融合みたいな、毎年やってる演奏会があって、すごい盛り上がって。
佐藤 はー、素晴らしいですね。
斎藤 時代はまたどんどん先に動いてるなっていう感じはしますね。

佐藤 リハーサルの間も4スタンス理論のお話をされていましたけど、それはやはり身体の不調と関係して始められたんですか?
斎藤 そうですね、身体のことを勉強していって、そういうところに行き着いた。
佐藤 何年ぐらい前から?
斎藤 6~7年前ぐらいからかな、自分は。理論じたいは20年ぐらい前からあって、他のスポーツの世界ではもうわりかし普通になりつつあるみたい。
佐藤 ああそうなんですね。
斎藤 ゴルフとかダーツが流行りとしては一番最初だったみたいですね。
佐藤 ダーツ。
斎藤 ダーツやります?
佐藤 いや、ちゃんとやったことはないですけど。
斎藤 なんか、フォーム論争ってあるじゃないですか。ゴルフもそうですけど、動いてる中で即興的に何かやるんじゃなくて、ピタッとした静止した型があるやつは特に。
佐藤 なるほど。
斎藤 そのときに理想のフォームっていうのは何なのか、必ず論争になる。例えばダーツだと、手首で投げるのについていった方がいいという派と、手首は使わないで、肘を使って投げた方がいいという派の人がいると。
佐藤 うん。
斎藤 楽器もそうですよね、ピアノでも指の付け根を使うんだとか、手首を使うんだとか、フルートでも吹く姿勢とか指の形とか持ち方とか。
佐藤 ふふふ。
斎藤 なんでそんな論争になるのかというと、ああなるほどこういうことだったんだと。生まれつきの骨格が人によって違うから。
佐藤 え、それは骨格に関係していることなんですか?
斎藤 骨格と脳と両方でしょうね。なんでしょう、左利き、右利きみたいな話で。実は、これ分かれる理由ってまだはっきりはしてないんですよね。でも、それがあるのは経験で知ってる。
佐藤 ああ、脳ねえ。
斎藤 ただ基本的にはやっぱり骨格ですね、まっすぐ立ったときの姿勢も全然違うんですよね、人によって。
佐藤 そうですね。
斎藤 人によって違うっていうのはもちろんみんなわかってることなんですけど、それは骨がどういうふうに連動して動いているかっていうことなんですよね。階段を上り下りしたり、吊革につかまったり、携帯持ったり、コップで酒飲んだり、そういうひとつひとつの動きが人によって違うんですけど、みんなバラバラに違うのかと思ったら実は法則性があって、どちらかというと手首は固定して肘を動かして酒飲む人は、これはBタイプというんですけど、ピアノは指の付け根から弾くし、吊革もそうやってつかまるし、階段はかかとから割とドシドシと踏んで上り下りするイメージ。

Bタイプの酒の飲み方
こうやって肘を曲げて酒を飲む人はBタイプ

佐藤 はあはあ。
斎藤 逆につま先だけで階段をタタタッて駆け下りる人もいる。Aタイプ。なんか見た感じ佐藤君はそういうふうに見えるんですけれど。
佐藤 うん、僕はつま先派ですね。
斎藤 だからピアノも指をこうやって弾くし。
佐藤 そうですね。
斎藤 それが音色にも関係しているんですね。みんな繋がってて。

佐藤 4スタンスっていうのは4つあるっていうことなんですか?
斎藤 そうなんです。
佐藤 それが、AとBと?
斎藤 実は分け方は3つあるんですけど、全部重なってるので。1つは関節の使い方の順番ですね。関節というのはひとつ飛ばしで動かしてるという理論で。
佐藤 はあ。
斎藤 手首がぷらぷらしてて、肩が自由で、股関節で主に歩く人っていうのは、ヴァイオリンのヴィブラートも手首でかけるし、ボウイングも手首で。ダーツも、ピアノも手首を使ってこういう風に弾くっていう人たちはAタイプBタイプっていうのはその逆の関節を主に使ってる。手首は動かさないで、肘は自由に動いてて、肩は動かないで、みぞおちが自由に動く。股関節は動かないで、膝が自由に動く。これがA・B
佐藤 はい。
斎藤 もうひとつの、1・2っていうのは、人差し指中心に動かしてるか、薬指中心に動かしてるかっていう。
佐藤 ほう。
斎藤 椅子から立ち上がるときも、少し内側に立ち上がる人と、外側に身体を開いて立ちあがる人がいる。っていうのは前腕にもすねにも骨が2本ずつあるんです。橈骨と尺骨、脛骨と腓骨。人差し指側の骨中心の人が、1タイプ。それとは逆にグラスとかも親指と薬指で持つ人いますね、マイクとかも。
佐藤 ああわかりますね。
斎藤 そういう人は2タイプです。これが1・2の分け方なんですけど、これは実は音楽面から言えばさほどの大問題ではなくて、もうひとつクロス・パラレルっていうのが、これが音楽家にとって一番大事件なんです。体幹を斜めに連結して、「ひねって」動かしてる人と、まっすぐ連結して「平行に」動かしている人がいる。まっすぐなのがパラレルで、ひねってる人をクロスという。これがなんと、リズム感の違いになるんです。
佐藤 へえ!
斎藤 つまり、クロスの人って、細かい刻みがどんどん均等じゃなくなって、ドゥークドゥークドゥークドゥーク・・・と、3連符っぽくなっていく。これがイネガルとか、スイングっていわれてるもの、ああいう不均等なリズムっていうのは世界中にあるんですけど、それの起こりですね。なぜかというと、ひねりの動きってそれ自体そういうリズムを伴ってるんです。それに合わせて音を出せば、当然そういうリズムになる。
佐藤 なるほど。
斎藤 ところがパラレルの人は、どこまでいってもタカタカタカタカ・・・と均等なんです。だから日本でも、野球の応援で「かっとばせー」とか、童歌で「あんたがたどこさ」とかあるけど、パラレルの人はあれ付点の「カッ、トーォバ/セー」だと思ってる。クロスの人は3連符、「カッットーバ/セー」だと記憶してるんです。
かっとばせ
野球の応援、あなたはどちらに聞こえますか?

4スタンス表

佐藤 ははあ。
斎藤 もともとのリズム感が違う。それで、A1とB2がクロスA2とB1がパラレルなので、4つのスタンスに収まるんです。いつもくにゃくにゃしてるA1の人とかは、「たん~たかたかたかたーかたかたかたか、んりらりらりん」(モーツァルト:フルート四重奏曲 K285【YouTube】~第1楽章 第3・4小節)っていう、こういう音楽になる。こういう人いるじゃない。
佐藤 はい。
斎藤 こうじゃなくて、最初からパキパキ動く人は、「たんたかたかたかたかたかたかたかたか、たかたかてぃん」、ってこういう音楽になる。それぞれ自分にとってはどちらかが自然で、そこから他の人のリズム感を「特徴あるリズムだなあ」って聴いている、眺めてるみたいな感じになるわけですね。
佐藤 なるほど。
斎藤 これは生まれつき決まっていて、左利きとか右利きみたいな話なんです。左利きと右利きがあるっていうのはみんな知ってるじゃないですか。
佐藤 はい。
斎藤 左利きの人に無理に右ピッチャーやれとは言わない、左ピッチャーやりますよね。でも成功したプレイヤーって、自分のやり方が一番弾きやすいし、音楽とはこういうものなんだって思ってるから、弟子に自分が良いと思ってる奏法を同じように教えちゃう人っているじゃないですか。
佐藤 ああ、いますねえ。
斎藤 「なんでそんな弾き方なんだ。もっと、舐めるように弾くんだ」とか。
佐藤 あっはっは。
斎藤 と思えば「もっとがっちり弾け」という人がいたり。で、最終的には好きにしていいけどその門下だからまず先生の言うことを聞いて基礎の型を学んで、卒業したら自分の自由なやり方で、という考え方の人が多かったんですけど、要するにそれは場合によっては左利きの人に、俺に習ってる間は右ピッチャーやれって言ってるようなことで。
佐藤 はい。
斎藤 そうしたら左で投げるより、もちろんやりにくいじゃないですか。だからコンクールや試験、オ-ディションなんかで成績出なくて、ああ私才能ないのかって思っちゃう。
佐藤 うーん。
斎藤 しかもそのまま無理にやると、身体壊しちゃうんですよ。自分の本能的な動きと合ってないことを、この楽器の奏法はこういうものなんだと思って無理にやると、ジストニアや腱鞘炎なんかになる。
佐藤 なるほど。
斎藤 もちろんジストニアにもいろんな複合的な原因があって、僕は医者じゃないし無責任なことは言えないですけど、僕は何百人か見て、ほとんどの人がそうなってる原因は、本来持ってる身体の自然な連動、毎日運動しているときや吊革につかまったり、コップ酒飲んで騒いでるとき、つまり無意識にリラックスして自然にやってるその人本来の動きと逆の動き、違う動きをこの楽器はこうやって弾くんだって、それにとらわれて、無理な練習を頑張ってやっちゃった人がなってますね。99%。
佐藤 それはわかりますね。
斎藤 だからならない人は、結構わがままな人なのかなって。
佐藤 (笑)
斎藤 自分の気持ちを譲らないというか。
佐藤 曲げない。
斎藤 逆に言うとそこに敏感なんだな。もちろんプロの人は、ちゃんと他人と合わせて、タイミングもリズムも人に合わせることができる。でもスーパースターのソリストや指揮者ほど、本来持ってるリズムのその特徴がはっきり出てますよね。
佐藤 ほう。
斎藤 それはつまり自分の自然に近い演奏。それを徹底してる指揮者とかソリストの方が、心を打つ。形だけ整えたモノマネみたいな音楽とは対極にある音楽です。
佐藤 ああ、わかりますね。
斎藤 そうすると、ジストニアにも当然ならない。不自然な身体の使い方をしてないから。だからこの話は、生徒側よりも、先生側に知っていて欲しいんです。ちょっとでも知っていれば、頭ごなしに「そんな弾き方、姿勢だからダメなんだ。俺の真似をしろ」っていうふうにならないで済む話かなって。それでちょっとずついま宣伝してるんですけど。でも世界的な先生だと、なんかこんな理屈を知らなくてもそれを見抜く力のある先生っていますね。
佐藤 はあ。
斎藤 「ここは直した方がいい」「ここはこいつの好きにやらせた方がいい」っていうのがわかってる先生っているじゃないですか。やっぱり世界レベルの人を何人も育てたことがある先生だと、「あれ? なんかああやると弾きにくいはずなのに、あいつあれでショパンコンクールで1位になりやがった」みたいな。
佐藤 そりゃすごい(笑)
斎藤 そういうことを経験していると、そこはいじらないでおこうってわかるんでしょうけど、普通はやっぱり親切で、「そんな猫背だから良い音出ないんだよ」「指の形はこう!」とか言っちゃうんですよね。
佐藤 はいはい。
斎藤 実は一見ちょっと猫背に見える姿勢の方が弾きやすい人がいるんだっていうことを、経験則じゃなくて、骨の連動性と動きから理論的に解き明かした、かなりわかりやすく説明できるようになったという、そんなお話で。
佐藤 興味深いですね。
斎藤 これはすごくいまアツい話です。

第2回につづく
  1. 2022/10/04(火) 01:26:40|
  2. シューベルトツィクルス
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0