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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
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6つの大行進曲 D819 概説

6つの大行進曲 Six Grandes Marches D819
作曲時期不明 出版:1825年5月(作品40)
楽譜・・・IMSLP

1825年、ザウアー&ライデスドルフ社から「作品40」として出版、医師のI.ベルンハルト氏に献呈された。6曲セット(初版時は2分冊)という規模は超級で、合計の演奏時間は60分に達する
注目すべきは、この曲集に冠された形容詞がGrandes(大きい)というだけで、「軍隊行進曲」や「英雄行進曲」のように性格を表したものではないということである。1曲1曲の規模は、他の行進曲より確かに大きく、場合によっては主部がソナタ形式ともいえる充実した内容になっている。そのこと以上に、ひとつの形容詞で括ることができない、多様なキャラクターの行進曲の集まりであるということもこの曲集の大きな特徴といえるだろう。また、4小節や8小節といった基本楽節で割り切れない変則的なフレーズのつくりも行進曲としては異例で、身体性に縛られない自由な音楽の飛翔が感じられる。

第1曲(変ホ長調)は泰然たる祝典行進曲の趣があり、勢いのある付点のモティーフや素速い3連符の同音連打は金管のファンファーレを連想させるが、ところどころに現れる短調のエピソードにシューベルトらしい柔らかな感受性が宿っている。トリオは変イ長調で、トレモロ+ピツィカートの伴奏型の上で息の長い旋律が歌われる。
第2曲(ト短調)は異色のデモーニッシュな行進曲で、容赦のない刻みに乗ってプリモとセコンドが激しく掛け合いをする。ト長調のトリオでは付点リズムを伴うスタッカートのメロディーに繊細なハーモニーがやさしく寄り添う。曲集中最も短い曲である。
第3曲(ロ短調)は2/4拍子、行進曲というよりも「エコセーズ」に近いリズミカルな舞曲風小品である。セコンドの4小節の前奏は確かにロ短調で、主部の終わりもロ短調だが、プリモのメロディーの始まりはニ長調、その後嬰ヘ短調・嬰ヘ長調・ト長調・変ロ長調など、さまざまな調性へどんどん転調してゆき落ち着きがない。ファンファーレ風の間奏が導くトリオはロ長調、ギター風の伴奏に乗って旋律が歌われ、時折借用ドミナントの和音がそれを彩る。
第4曲(ニ長調)は再びファンファーレで始まり、祝祭的な気分を放出しながら明るく進行していく。トリオはト長調で、コラール風の旋律とスタッカートのバスがどこかモーツァルトにも似た古典派的な印象を残す。
第5曲(変ホ短調)はアンダンテという遅いテンポ、そして陰鬱な曲調から、記されていないが「葬送行進曲」であることが明白である。全声部のユニゾンや音のぶつかりが不気味な雰囲気を演出する。トリオは変ホ長調で、張り詰めた緊張感がふっと和らぐが、異世界へのワープのような突飛な転調も待っていて油断できない。全曲の中で最も長い演奏時間を要する。
第6曲(ホ長調)は華麗な終曲。軽やかな付点リズムが支配的で、躁的なほどの明るさと勢いで突き進んでいく。繰り返し記号の外にコーダが設けられており、派手に主部を閉じる。セコンドのオクターヴのファンファーレに続いて始まるトリオはハ長調で、ロッシーニのオペラの二重唱を彷彿とさせる屈託のない旋律が続いていく。
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  1. 2021/11/30(火) 23:01:18|
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