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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

[告知] シューベルトツィクルス第17回「変奏曲 ―シューベルティアーデの仲間たち―」

シューベルトツィクルス第17回
2022年10月6日(木) 19時開演 東京文化会館小ホール  * ゲスト:斎藤和志(フルート)
♪トリオ D610 ♪ドイツ舞曲とエコセーズ D643 ♪アルバムの綴り D844
♪ヒュッテンブレンナーの主題による13の変奏曲 D576 ♪ディアベリのワルツによる変奏 D718
♪アレグロ・モデラート D347(未完・佐藤卓史による補筆完成版) ♪アンダンティーノ D348(未完・佐藤卓史による補筆完成版)
♪「しぼめる花」の主題による序奏と変奏曲 D802 *
一般4,500円/学生2,500円 →チケット購入
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  1. 2022/10/06(木) 19:00:00|
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「しぼめる花」の主題による変奏曲 D802 概説

「しぼめる花」の主題による序奏と変奏曲 ホ短調 Introduktion und Variationen über "Trockne Blumen" für Flöte und Klavier e-moll D802
作曲:1824年1月 出版:1850年(作品160)
楽譜・・・IMSLP


シューベルト作品中唯一の、フルートとピアノの二重奏という編成である。クライスレによれば、フレーリヒ家を通じて親交のあったフルートの名手、フェルディナント・ボークナー Ferdinand Bogner (1786-1846)のために作曲されたという。その超絶技巧をフィーチャーするためにシューベルトが採用したのは変奏曲の形式であり、主題として選ばれたのは自作歌曲『しぼめる花』だった。
『しぼめる花』は連作歌曲『美しき水車屋の娘』D795の第18曲で、恋に破れた若者が死を決意して力なく歌う、実にわびしい曲である。おそらくボークナー自身か、仲間たちの誰かがこの曲を気に入っていて、変奏曲の主題にとリクエストしたのだろう。

冒頭の序奏はホ短調の陰鬱な音楽だ。ピアノの提示するダクティルスのリズムに乗って、フルートが緩やかな長音のモティーフ(バッハが多用した「十字架音型」の一種)と、呼びかけるような複付点のモティーフが提示される。長音のモティーフはやがて対位法的に展開されてゆき、複付点のモティーフは反行形になると原曲歌曲の第3連の末尾、"Wovon so naß?"(なぜそんなに濡れているの?)と問いかけるフレーズが元であったことが判明する。極めて緊密に構成された序奏は、フルートのカデンツァ風のソロで半終止し、主題を迎え入れる。
主題は3つの部分に分かれており、A部16小節、B部8小節、C部8小節(反復あり)である。A部とB部は音楽的には反復を含んでいて、それぞれ前半でピアノがメロディーを提示し、後半はフルートがそれを繰り返す形になっているので、実質的にはA部は8小節、B部は4小節のメロディーということになる。C部はホ長調に転調し、セクション全体が反復される。つまりAABBCCとメロディーが2回ずつ提示される形になっており、原曲のABABCCコーダという構成がより単純に編集されている。前奏・間奏・後奏はカットされているが、それにしても反復を含めて延べ40小節というのは変奏曲の主題としては異例なほど長い。ホ短調からホ長調(同主長調)へというシューベルトが多用した調性配置が、このあとの変奏にも受け継がれていくことになる。
第1変奏はフルートの技巧の見せ場である。32分音符のうねるようなパッセージは、C部に至るとさらに細かい32分3連符に置き換えられていき、息継ぎやタンギングの至難なパッセージが続く。
第2変奏はピアノのターン。左手の32分音符のオクターヴ連打の上で、右手もまたオクターヴで主題のメロディーを提示するという豪壮な奏法だ。ピアノが音楽を主導しフルートは合いの手に回る。ちなみにC部分の7小節目にあたる1小節が欠落しているのだが、これは自筆譜に起因するもので、意図的なものかミスなのかは不明である。ただ楽節構造が不自然になるため、6小節目([114])をもう一度繰り返して補うことが多い。
第3変奏はホ長調。ピアノの緩やかな6連符の分散和音の上でフルートが慈愛に満ちた旋律を奏でる。時折現れる陰りのある和声が魅力的だ。
第4変奏はホ短調に戻り、再びピアノが技巧を見せる。右手には6連符の嵐のようなパッセージが駆け巡り、左手がオクターヴで力強く主題を奏する。和声的にも変奏が施され、微妙に表情が変化していく。
第5変奏は再びフルートが主役となる。超絶技巧の急速なパッセージで圧倒的な息づかいと指さばきを披露する、本作随一の聴きどころといっていい変奏だ。
第6変奏は嬰ハ短調・3/8拍子に転じ、ピアノの右手とフルートが対位法的に絡み合っていくという、バロックのトリオソナタ風の変奏。嬰ハ短調とホ短調を行き来する不穏さから、C部分でホ長調を確定した後、コデッタが挿入される。ピアノの左手にオクターヴ跳躍という無茶振りを課しながら転調を重ね、華やかなドミナントのアルペジオへ。
最終第7変奏はホ長調のフィナーレ。4/4の行進曲風の足取りとなり、付点と3分割(3連符)のリズムで楽しげに進んでいく。長大なコーダでは再び転調の応酬となり、リズムも途中から4分割に切り替わる。最後はフルートとピアノが交互に音階を駆け上がりながら勝ち誇ったように終止へ向かう。
  1. 2022/10/02(日) 18:20:08|
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ヒュッテンブレンナーの主題による13の変奏曲 D576 概説

アンゼルム・ヒュッテンブレンナーの主題による13の変奏曲 イ短調 13 Variationen über ein Thema von Anselm Hüttenbrenner a-moll D576
作曲:1817年8月 出版:1867年
楽譜・・・IMSLP

独立した変奏曲以外にも、多楽章器楽曲の中間楽章にしばしば変奏曲形式を用いるシューベルトだが、その主題の多くは自作の歌曲である。他人の主題を借用することは非常に珍しく、連弾のための
フランスの歌による8つの変奏曲 D624(オルタンス妃の主題)
・エロルドのオペラ『マリー』の主題による8つの変奏曲 D908
と、独奏のための
ヒュッテンブレンナーの主題による13の変奏曲 D576
(・ディアベリのワルツによる変奏 D718(オムニバスに寄稿した単独変奏))
を数えるのみである。友人の主題を用いた変奏曲はD576が唯一ということになる。

イェンガー、ヒュッテンブレンナー、シューベルト
ヨーゼフ・エドゥアルト・テルチャーが描いた「3人の友人たち」。画面右からイェンガー、ヒュッテンブレンナー、シューベルトが並ぶ。イェンガーもヒュッテンブレンナーと同じシュタイアーマルク出身の作曲家だった。

アンゼルム・ヒュッテンブレンナー(1794-1868)はグラーツの裕福な地主の息子として生まれた。グラーツ大学で法律を学ぶが、その楽才に感心したモーリツ・フォン・フリース伯爵の援助を受けて1815年4月にウィーンに進出しサリエリの門を叩く。ベートーヴェンからも認められた若き作曲家は早々に頭角を現し、シュタイナー社から次々に作品が発表されていった。まさに注目の新進作曲家であり、この時点でシューベルトとは段違いのキャリアを築いていたといえる。
1817年に作曲されたこの「13の変奏曲」の主題は、前年に作曲されたヒュッテンブレンナーの最初の弦楽四重奏曲から採られている。第3楽章「アンダンテ・コン・ヴァリアツィオーニ」は、原曲そのものが変奏曲形式(主題と4つの変奏)になっている。シューベルトは同じ主題に新たに13もの変奏を書いて本人に見せたのだ。それは友情の証か、遥か先を行く朋友への憧れだったのか、それとも自負心の表れだったのだろうか。弦楽四重奏曲は翌1818年にOp.3として出版され、ヒュッテンブレンナーの出世作となった。
2年前に作曲されたピアノ独奏のためのもうひとつの変奏曲、創作主題による「10の変奏曲」D156に比べると、変奏の自由度は減り、厳格変奏の趣が強い。中には高度な演奏技術を要する場面もあり、技巧派ピアニストだったヒュッテンブレンナーの前作「6つの変奏曲」Op.2の影響も見てとれるが、同時にこの年にシューベルト自身がピアノ・ソナタの制作に打ち込んだ、その書法研究の成果が反映されているともいえるだろう。

主題 イ短調 8+8の16小節からなるシンメトリカルな主題は、シューベルトが偏愛した長短短のダクティルスのリズムに支配されている。ベートーヴェンの交響曲第7番(1812)の第2楽章からの影響や、シューベルトの弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」D810 (1824)の第2楽章との類似が指摘されている。第8小節の空虚5度の響きは意表を突くが、ヒュッテンブレンナーの原曲を踏襲したもので、これも前出ベートーヴェン(第2楽章の第5小節、第3音を欠くドミナント和音)のオマージュという説もある。
第1変奏 イ短調 バスがスタッカートで細かく動き始める。そのモティーフも縮小されたダクティルスである。
第2変奏 イ短調 3度で重ねられた左手の主題の上で、右手が16分音符のオブリガートをなめらかに奏でる。減七の和音の多用がより濃厚な表情を生む。
第3変奏 イ短調 ダクティルスの逆行、すなわち短短長(アナペスト)のリズムによる和音連打が強調され、後半では音域を変えて毎小節登場する。
第4変奏 イ短調 左手に16分音符のパッセージが現れる。中央のラ(A4)から始まり、第6小節で3オクターヴ下のラ(A1)にまで降りていくという音域の広さは圧倒的だ。
第5変奏 イ長調 早くも長調の変奏が登場。右手は16分音符の3連符に装飾音がついた細やかなパッセージを優雅に奏でる。移旋による和音の表情の変化は驚くべきもので、楽園のような安らぎに包まれている。
第6変奏 嬰ヘ短調→イ長調 前変奏の平行調から始まる変則的な調性配置はシューベルトの真骨頂。コラール風の厳かさと温かさを湛えている。
第7変奏 イ短調 主調に戻り、右手は冒頭主題をそのまま再現するが、左手の3連符のパッセージは非常に技巧的で、もはやエチュードの域である。
第8変奏 イ短調 3声の対位法的なテクスチュア。両外声は主題と同型だが、中声部が16分音符で細かく動く。右手の伸張を要求するため、地味な曲調のわりに演奏は難しい。
第9変奏 イ長調 2度目の同主調へ。前変奏と同じく3声の書法で始まるが、動的な中声部(16分3連符)は分散和音音型で、「無言歌」に似たロマン派的な書法を見せる。左手は次第に和音に膨らんでいき、さらに甘い響きに満たされていく。
第10変奏 イ短調 一転して激しくデモーニッシュな変奏。オクターヴでダクティルスの主題を強奏する左手の上で、右手が32分音符のアルペジオの嵐を繰り広げる。
第11変奏 イ短調 左手の3度重音の主題を2小節遅れで右手が模倣し、しかしその後は和声的に展開される。後半に登場する付点リズムがだんだん全体を支配していくなど自由な発想に満ちている。
第12変奏 イ短調 第8変奏に似た3声の書法だが、左手がリズミカルな動きを見せる。弾むような短長リズムは即興曲D935-3(いわゆる「ロザムンデ変奏曲」)の第4変奏を想起させる。
第13変奏 イ長調 フィナーレで3度目の同主調へ。はじめて拍子が3/8に変わり、繰り返し時にオクターヴ高くなるため延べで書かれている、という特徴は前作D156のフィナーレと一致する。型どおりの変奏に続き、第241小節でイ短調に戻って付点リズムのモティーフに基づく自由なコーダが展開される。嬰ハ短調から突如ハ長調に転じ、しばらくハ長調のドミナントペダルが続いた後、再びイ長調(4度目)へ。高音域で変奏冒頭の8小節を反復し、突如怒り狂ったようにイ短調の和音を叩きつけて驚愕の幕切れとなる。

シューベルトが贈った清書譜をアンゼルム・ヒュッテンブレンナーは大事に保管していた。シューベルトの死から25年後の1853年、そこに「フランツ・シューベルトが作曲し、友人であり共に学んだアンゼルム・ヒュッテンブレンナー氏に献呈された」との注記を加筆した。しかしウィーン市立図書館に残るオリジナルの自筆譜にはそのような献辞はない。
ヒュッテンブレンナーが秘蔵していた「未完成交響曲」のスコアが発見されたのはそれからさらに12年後の1865年のことだった。
  1. 2022/09/30(金) 10:55:11|
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フランスの歌による8つの変奏曲 ホ短調 D624 概説

フランスの歌による8つの変奏曲 ホ短調 Acht Variationen über ein französisches Lied e-moll D624
作曲:1818年9月 出版:1822年(作品10)
楽譜・・・IMSLP

変奏曲の主題である「フランスの歌」とは、1813年にオルタンス王妃の作曲として発表された『忠実な騎士 Le bon chevalier』という題名のロマンス(歌曲)である。
オルタンス王妃ことオルタンス・ド・ボアルネ Hortense de Beauharnais (1783-1837)は、ナポレオン妃ジョゼフィーヌの前夫との間の娘で、ナポレオンの弟ルイ・ボナパルトの妻となった人物である。すなわちナポレオンの義娘であり、義妹でもある。ナポレオン皇帝即位後の1806年、ルイはオランダ王に就任し、オルタンスは王妃となった。しかし、この作曲者クレジットは多分に建前的なもので、実際には王室の音楽教師だったフランス人フルーティストのルイ・ドロエ Louis Drouet (1792-1873)の作曲と考えられている。作詞者は不明である。
数年後にはヨーロッパ中の愛唱歌となり、エステルハーツィ家でもよく歌われていたらしい。シューベルトは1818年夏のツェリス滞在時に初めてこの曲の譜面を目にし、その旋律を未完の4手のためのポロネーズ(D618A)の自筆譜の隅に書き留めた。そして、一家が好むこの曲を主題として変奏曲を書こうと思い立ったのだろう。9月には草稿が完成している。

曲は主題と8つの変奏からなり、最終変奏には長大なコーダがついている。
16小節の主題は8小節ずつの前半と後半に分かれ、それぞれに繰り返し記号がついている。歯切れの良いスタッカートや、バスの主音と属音の交代は、この主題に行進曲的な性格を纏わせている。それは当時の人々に、実父を処刑されたオルタンス王妃が象徴する「フランス革命」の記憶を呼び起こしたことだろう。
第1変奏ではプリモの右手にアラベスク状の3連符が登場し、主題旋律を優雅に装飾する。
第2変奏は8分音符で動くバスをセコンドの両手がオクターヴのスタッカートで奏する。冒頭に「(前半の繰り返しの)1回目はピアノ、2回目はフォルテで」と指示されているのも珍しい。軍隊風の性格が強調された、決然たる変奏である。
第3変奏はハ長調。ホルンの合奏を思わせるプリモの音型で始まり、セコンドが不気味な不協和音でそれに応える。前半は変ホ長調で終止するなど、不思議な雰囲気を漂わせる。
第4変奏はホ短調に戻り、一転快活な性格。セコンドの主題の上で、プリモの16分音符による音階風パッセージが駆け抜ける。
第5変奏はホ長調へ。3連符の安定した伴奏型が、ひとときの安らぎを感じさせる。主題の繰り返しの1回目と2回目は別々の変奏を施されており、延べで32小節となっている。
第6変奏はその平行調である嬰ハ短調に転ずる。セコンドの決然たるオクターヴユニゾンに呼応してプリモが音階やアルペジオのパッセージを華やかに披露する。このように、全曲を通してセコンドよりもプリモの技術的難易度が高めに設定されているのは、マリーとカロリーネの姉妹のいずれかにセコンドを弾かせ、シューベルト自身がプリモを担当することを念頭に作曲されたためと考えられている。
第7変奏はPiú lento(より遅く)と指示され、葬送行進曲の趣となる。繰り返しの2回目ではプリモに6連符のパッセージが現れ、秋風のような侘びしさが通り過ぎる。
一転してホ長調の第8変奏はTempo di Marcia, Piú mosso(行進曲のテンポで、より速く)と性格が明示されており、きびきびした付点のリズムに乗って勝利の凱歌が喜ばしく奏されていく。そのまま途切れなく続くコーダでは、シューベルトならではの遠隔調([223]で変イ長調、[241]で変ロ長調)への巧みな転調によって新しい世界の扉が開く。

作曲の4年後、1822年にカッピ&ディアベリ社から「作品10」として出版された。初版譜の表紙には「崇拝者であるフランツ・シューベルトより、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン氏へ献呈される」と大書されている。

D624初版譜表紙

シューベルトの全作品中、公式にベートーヴェンに献呈された曲は他にないことから、この作品はベートーヴェンとシューベルトの直接の接点として語られることが多い。しかし実際のところ、このとき彼らが既に知り合っていたのか、あるいはこの献呈がきっかけで知り合うことになったのか、その詳細については確証がない。
「シューベルトはベートーヴェン宅を訪れ、おずおずと変奏曲の自筆譜を差し出した。ベートーヴェンは一見するや、いくつかの間違いを指摘し助言を与えた。シューベルトは恐れ入って、逃げるようにベートーヴェン宅を後にした」という有名なエピソードは、おそらくはアントン・シントラーの例の作り話であろうし、「ベートーヴェンはこの献呈を喜び、甥のカールと一緒にこの曲を連弾して楽しんだ」ともいわれるが、この頃のベートーヴェンは既に聴力を完全に失っていたはずなので、疑問も残る。出版社が仲介して、ベートーヴェンを名義上の被献呈者とした可能性もある。
いずれにせよ確実に言えることは、1822年時点のシューベルトが4年前に作曲したこの作品の仕上がりに強い自信を持っていたということだ。そうでなければ、限りなく尊敬する先達であり、まして変奏曲の大家でもあるこの巨匠に本作を捧げようとは思わなかったはずである。献呈相手ともなれば、必ず本人の目に触れるし、隅々まで点検される可能性も高いからだ。
さらに踏み込んでいえば、フランス革命の自由主義精神に共感し、ナポレオンに交響曲を捧げようとまでしたベートーヴェンに、オルタンス妃の主題によるこの変奏曲を献呈したということに、特別な意味を見出すこともできるだろう。
  1. 2018/10/02(火) 22:29:05|
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序奏、創作主題による4つの変奏曲とフィナーレ 変ロ長調 D968A 概説

序奏、創作主題による4つの変奏曲とフィナーレ 変ロ長調 Introduktion, vier Variationen über ein Originalthema und Finale B-dur D968A(旧603)
作曲:不明 出版:1860年(作品82-2)
楽譜・・・IMSLP

1860年、ハンブルクのユリウス・シューベルト社(フランツ・シューベルトとは違う綴りで無関係)から出版されたが、来歴は全くわかっていない。このとき同じ「作品82」にまとめられたのは「エロルドの歌劇『マリー』の主題に基づく8つの変奏曲」D908で、D908が作品82-1、D968Aが作品82-2とされている。
そもそもD908は、作曲者生前の1827年にトビアス・ハスリンガー社から作品82として既に出版されていて、シューベルト社はハスリンガーからその権利を買い取ったようだ。クライスレは、D968Aの自筆譜も元々ハスリンガーが所有していて、シューベルト社にD908と抱き合わせで売りつけたのではと推測している。その原資料も出版後に散逸してしまったので、この作品に関する一次資料は何も残っていない。
モーリス・ブラウンは本作について、エステルハージ家のマリーとカロリーネの姉妹にピアノを教え、数多くの連弾曲が生み出された1818年のツェリス滞在時、あるいはそれに続く冬にウィーンで作曲された可能性を示唆しているが、推測の域を出ず、ノッテボームの目録では「偽作または疑わしい作品」にリストアップされてしまっている。

とはいえ、華麗な演奏技巧を駆使した才気走る作品であり、シューベルトの真作というにふさわしい名作といえる。
タイトルの通り、「序奏」、「主題」と4つの「変奏」、「フィナーレ」から構成されている。

序奏 モデラート([1]-[34])
フォルティシモの強奏で和音が打ち鳴らされ、華やかに幕を開ける。序奏では付点のリズムが支配的で、そのぶん[26]-[29]で付点のないメロディーが歌われる部分が新鮮に聞こえる。ドミナントの和音上でプリモが短いカデンツァを披露し主題へ移る。
創作主題 モデラート([35]-[50])
それぞれに繰り返し記号のついたA+Bの二部形式。半小節のアウフタクトを持つ、モーツァルト風のチャーミングな主題である。
第1変奏 ([51]-[66])
3連の16分音符を用いて旋律を装飾する。
第2変奏 ([67]-[82])
32分音符による装飾。B部分での分散和音のやりとりがダイナミックである。
第3変奏 ブリランテ([83]-[98])
更に細かい6連の32分音符のパッセージで半音階的に装飾していく。プリモ・セコンドとも高度な技巧を要する、本作で一番の見せ場。
第4変奏 ピウ・レント([99]-[134])
テンポがぐっと落ち、シューベルトらしい自由なハーモニーの飛翔がみられる。[124]からは主音の保続を伴うコーダとなり、突然の強奏でフィナーレを導く。
フィナーレ ヴィヴァーチェ([135]-[334])
小節数的には全曲の半分以上を占めるフィナーレ。急速なワルツのリズムに乗って、主題の自由な変奏が繰り広げられる。最後はだんだん遠ざかっていき、テンポも落ちたところで突如プレストに。7小節で華麗に曲を閉じる。
  1. 2017/06/14(水) 14:16:26|
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