アントン・ディアベリのワルツによる変奏 ハ短調(『祖国芸術家協会』第2巻 第38変奏) Variation über einen Walzer von Anton Diabelli c-moll D718 (Var.38 aus "Vaterländischer Künstlerverein") 作曲:1821年3月 出版:1824年
ザルツブルク近郊の小村マットゼーで生まれた
アントン・ディアベリ (1781-1858)はハイドン兄弟に作曲を学び、1817年にウィーンで楽譜出版社を興して成功を収めた。起業の翌々年、一大プロジェクトとして立ち上げたのが、自らの主題による変奏を複数の作曲家に委嘱してオムニバス変奏曲集を作るという構想だった。当時オーストリアで活躍していた有名無名の作曲家たちに声をかけ、結果的に51人がその依頼に応じた。初めは1人1曲のはずだったが、唯一ベートーヴェンだけがその趣旨を理解したのかしていなかったのか、ひとりで33もの変奏を書き上げて、他とは別に出版するよう要求してきた。ディアベリは巨匠の無茶を受け入れ、普及の名作
「ディアベリ変奏曲」作品120 が
『祖国芸術家協会』 の第1巻として1823年に出版された。
他の50人の作曲家による50の変奏とコーダは第2巻としてまとめられ、翌1824年に刊行された。50曲は作曲者名のアルファベット順に並べられている。
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カール・チェルニー (第4変奏・コーダ)
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ヨハン・ネポムク・フンメル (第16変奏)
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フリードリヒ・カルクブレンナー (第18変奏)
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イグナーツ・モシェレス (第26変奏)
といったビッグネームから、変わったところでは
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フランツ・リスト (第24変奏)※出版時12歳
・フランツ・クサーヴァー・モーツァルト(第28変奏)※W.A.モーツァルトの末子
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ルドルフ大公 (第40変奏)
シューベルトの周囲の作曲家では
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イグナーツ・アスマイヤー (第1変奏)
・カール・マリア・フォン・ボクレット(第2変奏)※ピアニスト。「さすらい人幻想曲」の初演も務めた
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アンゼルム・ヒュッテンブレンナー (第17変奏)
・ジモン・ゼヒター(第39変奏)※対位法の大家。シューベルトは晩年に指導を仰ぐ
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ヴァーツラフ・ヤン・トマーシェク (第43変奏)
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ヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェク (第50変奏)
といった面々が並んでいるが、今では忘れ去られた作曲家も少なくない。
第38変奏 として収められたのが、我らがフランツ・シューベルトの作品である。
シューベルトの変奏には1821年3月の日付があり、チェルニーやベートーヴェンが作曲に着手した1819年より2年ほどあとのことになる。
シューベルトとディアベリが本格的に接触したのはおそらく1821年に入ってからで、この年の4月に『魔王』が記念すべき「Op.1」としてディアベリから出版されている。それに先立って、ディアベリがこの企画にシューベルトを巻き込んだということなのだろう。さらに年少のリストに関しては、1822年のウィーン進出以前に委嘱が行われたとは考えにくく、そうなるとこのプロジェクトは数年をかけて依頼が繰り返され、次第に拡大していったものと考えられる。
ディアベリによる
ハ長調の主題 は、ワルツというにはいささか風変わりではあるが、快活で新奇なアイディアに満ちた主題であり、ベートーヴェンが「靴の継ぎ革Schusterfleck」などと酷評したほどひどいものではないと筆者は思う。
シューベルトの変奏は
ハ短調 で、主題よりもワルツらしい仕上がりなのはさすが舞曲王である。しっとりした情感の中に和声進行の粋が尽くされており、前半の終わり、主題では属調のト長調へ向かうところを、VI度調の変イ長調に終止させるあたりは実に見事だ。一方で後半は技巧に走りすぎているきらいがあり、頻繁な転調に耳が追いつかない感じもする。
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2022/10/01(土) 00:06:32 |
楽曲について
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(
インタビュー第2回はこちら )
崎谷 でも、私らから見たら5つ上の世代ですけど、佐藤先輩といえば大スターですよ。
佐藤 とんでもない。
崎谷 音楽的にもですし、活動の内容とか、すべて含めて、理想的だなと。
佐藤 いいよ僕のこと褒めないで。
崎谷 そりゃご本人はいろいろ思うことはあるでしょうけど、本当に尊敬できるっていう言葉がすっと出てきますね。僕は、先輩のように演奏一本ではとてもやれないと思っているので、演奏ももちろん大事なんですけれども、基本的にはどこかで指導しながらっていうことを軸に。
佐藤 そうそう、指導するのに、やっぱりこれまでの留学の経験とかは役に立ってます?
崎谷 そうですね、経験、うーん…
佐藤 どんなことを教えてるの?
崎谷 今教えている大阪教育大の学生は、理解力がある子が多いので、もう思ったことを言ってますけどね。基本的にどういう付き合い方をするのかが難しくて。
佐藤 ほう。
崎谷 要するに、
奏法 をいじるかいじらないかって話ですね。
佐藤 はいはい。
崎谷 月一で来る生徒はいじれないんですよ、奏法。
佐藤 そうですよね。
崎谷 普段の先生のやり方でやってもらって、補強するしかないんですけど。でも、じゃあ奏法をやろうとなったら…
前腕を、4つに分けて 、役割をあてて考えたりするんですよ。
佐藤 前腕を4つに分けるの?
崎谷 そう、前腕の最初のところ、手首側は、横に回転する。
佐藤 ほう。
崎谷 中央の、2番目のところは、上下に動かすと。3番目のところが、前後に。鍵盤の奥と手前です。
佐藤 なるほどね。
崎谷 で、肘に一番近いところは、横移動。というふうに分けて考えて、いろいろ論理を言うわけですよ。たとえば、
鍵盤の上にアナログ時計を置いて 、このフレーズは、5時方向から逆時計回りに…
佐藤 あ、それはすっごいわかりやすいね!
崎谷 そういう論理を教えるっていうのが私のやり方ですね。
佐藤 へえ! すごいねそれ。
崎谷 研究してるんですけど、もっとわかりやすい言い方はないのかなって。
佐藤 プロフェッショナルですね。
崎谷 そういう研究が結構好きなんですよ。まあ、似非研究者ですけど(笑)
佐藤 いやいや、それはすごい良い先生ですよ。
崎谷 ただ、体重が僕あるんで。
佐藤 うん。
崎谷 こう、学生はやっぱり軽いんでね、体重が。
佐藤 (笑)そうだね。
崎谷 正味言ったら僕の2分の1以下ですよ。
佐藤 (爆笑)やっぱり女の子が多いの?
崎谷 まあそうですね。だから体重はセクハラになるからもちろん聞いたらダメなんだけど(笑)、そうなると、ちょっと軽い人の気持ちがわかりたいなっていうのが最近ね。
佐藤 あっはっはっは…
崎谷 いや僕が軽くなりたいっていうのもあるけど、軽い人がどうやって音を出してるんだろうっていうのは、指導者としては研究しないといけないなって思ってるんです。
佐藤 なるほど。確かに体格とか骨格って変えられないから、自分に似てる骨格のピアニストを見つけて、その人がどうやってピアノ弾いてるのかなっていうのを見るとすごく勉強になるよね。
崎谷 そうですね。
佐藤 でもみんなそれぞれ違うのに、同じように弾けば良いとは教えられないし、気になるところですね。
崎谷 難しいです。
佐藤 ぜひ指導法の本を書いたらいいんじゃないかな?
崎谷 そうですね(笑)研究がしっかりできれば。
ピアノと友だちになる50の方法
チェルニー活用法 佐藤卓史・著 小原孝・監修
ヤマハミュージックメディア
定価¥1,600+税
佐藤 この間ヤマハさんのお仕事で、チェルニーの本を書いて欲しいって言われて。
崎谷 見ました。
佐藤 テクニックの分類をして、「音階を弾くときにはこういうことに気をつけましょう」みたいな簡単なことを書いたんだけど、とにかく言葉で説明するのがものすごく難しくて。
崎谷 難しいですよね。
佐藤 弾いてみせればこういうことだよって言えるんだけど、「手首をこの辺まで持ってきたらどう」とかいうことを、誤解しないように言葉にするってすごく難しいなあと思って。
崎谷 テキストと映像とを組み合わせてくれれば良いですよね。限定のYouTubeリンクを張って、とか。
佐藤 そうそう。まあそこまでしても違うメソッドの人はまた違うことを言うだろうし。
崎谷 違いますもんね。
佐藤 誰にでも当てはまるようなことを言うのは難しいよなあと。
佐藤 教鞭を執りつつ、
演奏活動 も意欲的に。
崎谷 年に2回は、違うプログラムを作って頑張ってリサイタルをしようと思ってるんですけど。
佐藤 それ大変だよね。
崎谷 今兵庫県に住んでいまして、兵庫県はすごく文化を応援してくれる県なんです。
佐藤 ほう。
崎谷 都道府県でいうと、1人あたりの予算が3番目なんです。
佐藤 へえ。
崎谷 東京がもちろん1番なんですけど。私ももちろんこうやって東京で録音させていただいたりとかもあるんですけど、地元を大事にしていきたいと思っていまして。リサイタルをしても、そんなにたくさんの人が来るわけじゃないんですけど、ただやはり小中高生に聴いてもらいたいと思って、神戸のリサイタルには無料で入っていただけるように、ということはやっているんです。
佐藤 へえ、素晴らしいね。
崎谷 じゃあそこにどう引っ張ってくるのかっていう課題ももちろんあるんですけど。
佐藤 見てると、崎谷君はだいたい
王道の曲 を弾いてるなっていうのがあって。
崎谷 あははは。
佐藤 なんかさ、変な曲を弾く人っているじゃないですか。誰も知らない、「何それ?」みたいな曲を。そういうのじゃなくて、いわゆるメインレパートリーを攻めてるなあって。
崎谷 自分はコンクールを結構長く受けてたので、そういったところをちゃんと勉強できてないと思っていて。
佐藤 え、そうなの?
崎谷 やっぱり飛び道具的な、リストの「ドン・ジョヴァンニの回想」とか。
佐藤 まあでも「ドン・ジョヴァンニ」も別に変な曲ではないよね。
崎谷 変な曲ではないですけど、今はそういうのじゃない曲を勉強していきたいっていうことと、あとは
世の中の流れにちょっと逆らいたい っていう思いですよね(笑)
佐藤 ほう。
崎谷 裾野を広げるという意味で、わかりやすく、簡単に、短く、展示的にやっていくという流れは、それはもちろん誰かにやっていただかないといけないんですけど。でも私がやりたいことではないっていう気持ちが明確にあって。
佐藤 なるほど。
崎谷 この前のプログラムは1853年に作られた3曲を並べて。ブラームスのソナタ3番とリストソナタと、シューマンの「暁の歌」。
佐藤 うん。
崎谷 シューマンが全部絡んでるわけですよね、出会いの中に。
佐藤 そうだね。
崎谷 それを並べて、舞台上でどういう反応が起こるかっていうことを、自分は楽しみにしてるんですよね。ブラームス3番を弾いて、リストを弾いたあとに、シューマンに入る瞬間どんな思いがするんだろうと思って舞台に乗るという。
佐藤 素晴らしいね。
崎谷 そういう楽しみがないと、モチベーションが沸いてこないというかね。
佐藤 基本的にロマン派が好きなの?
崎谷 ロマン派の、
ブラームス がやっぱり好きなんじゃないですかね。自分に合っているような。
佐藤 そういえば、あの
「ドン・ジョヴァンニの回想」のYouTube は、自分で考えたの? 誰かこういうのやったら良いよっていう人がいたの?
崎谷 いやいや。それこそ兵庫県で、若手の支援のための動画を募集してると。それをさせていただくときに、やっぱり面白いものをやろうと。さっきの話とも繋がるんですけど、ただ見せるだけではダメだろうっていうのはあるんですよね、自分の中で。背景を理解してもらうとか、それに付随する楽しい話を…
知的好奇心をかき立てたい っていう思いがあるので。
佐藤 うん。
崎谷 たまたま前年にこぢんまりとですけど、
オペラで指揮 をする機会があったので。
佐藤 それもすごいよね、なんでオペラの指揮をしてるんだろうと思って。
崎谷 いや家内がね、オペラ伴奏の仕事をしてたりするんで。
佐藤 ああそうなんだ。
崎谷 そのご縁でというか、初めて振らせてもらって。
佐藤 初めて振ったのがドン・ジョヴァンニっていうのも、ものすごいオペラ指揮者デビューですね。
崎谷 ピアノトリオですよ、編成は。いきなりオケは無理ですから。
佐藤 にしたって歌い手はみんないるわけじゃない。
崎谷 いや、まあ、付き合っていただいたんですけど。たまたまそういう素材の写真もあったので、組み合わせてみたら面白いんじゃないかと。
佐藤 めっちゃ面白かったよ(笑)
崎谷 古い動画だけではダメだっていうレギュレーションがあって、新しいものを組み合わせてくれって言われたので、鍵盤を見せるという。あれはね、
アテレコ をしたんですよ。ワイヤレスのヘッドフォンで自分の演奏を聴いて。
佐藤 難しそうだよね!
崎谷 そう、大変だった。演奏はここ(ヤマハアーティストサービス)で録ったんですよ。
佐藤 うん、見た見た。
崎谷 で、それにアテレコで指を合わせるっていう。
佐藤 大変ですよねそれ。昔のカラヤンのミュージックビデオみたいな。
崎谷 そんなのあるんですね。
佐藤 ああ知らない? カラヤンのミュージックビデオってたくさんあるじゃない、あれは全部アテレコなんですって。だから音は音で別に録ったのを流しながら、指揮をしてるふりをして、みんな弾いてるふりをしてるっていうことらしい。
崎谷 なるほど、まあ映像で見せるならそうなりますね。
佐藤 いやあでもすごい労作だなって思って。ほんと多才だよねえ。
(つづく)
2021/11/26(金) 20:32:42 |
シューベルトツィクルス
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