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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

[告知] シューベルトツィクルス第18回「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」

シューベルトツィクルス第18回
2023年5月17日(水) 19時開演 東京文化会館小ホール  ゲスト:林悠介(ヴァイオリン)
♪ヴァイオリンとピアノのためのソナタ(ソナチネ) ニ長調 D384 作品137-1
♪ヴァイオリンとピアノのためのソナタ(ソナチネ) イ短調 D385 作品137-2
♪ヴァイオリンとピアノのためのソナタ(ソナチネ) ト短調 D408 作品137-3
♪ヴァイオリンとピアノのためのソナタ(デュオ) イ長調 D574 作品162
一般4,500円/学生2,500円 →チケット購入
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  1. 2023/05/17(水) 19:00:00|
  2. シューベルトツィクルス
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ヴァイオリン・ソナタ(デュオ) D574 概説

ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調 Sonate A-dur für Violine und Klavier D574
作曲:1817年8月 出版:1851年(「デュオ」作品162として)
楽譜・・・IMSLP


独自の世界を築きつつもどこか閉じられた印象の前3作(D384D385D408)と比べて、このソナタの開かれ方、確信に満ちた世界観の提示は一線を画している。この1年あまりの間に、シューベルトは少なくとも6曲のピアノ・ソナタに取り組んだ。その経験を通して、より大柄なソナタの骨格を獲得することに成功したのだろう。ピアノ・ソナタD459+D459Aの各楽章との類似については以前の記事を参照されたい
楽器法も格段の進化を遂げた。前3作では、一方が主旋律ならば他方が伴奏に回るという場面が多かったのに対し、本作ではその役割がより頻繁に交替し、また渾然一体となって音楽を進めていくことで、両楽器が主従関係ではなく分かちがたい有機体として機能している。演奏時間が特に長いわけではないのに「グラン・デュオ」(大二重奏曲)と呼び習わされているのは、その器の大きさを示しているのだろう。

第1楽章はのどかで歌謡的な第1主題で始まり、自由な展開を経て、ホ長調の第2主題では両楽器が華やかに技巧を競い合う。展開部ではそれまでほとんど登場しなかった3連符(3分割)リズムが現れ、第1主題に由来する付点リズムのシンコペーションと食い違いが発生することで緊張感が高まっていく。
第2楽章はホ長調のスケルツォ。4楽章構成のソナタで、第2楽章にスケルツォを置く(ベートーヴェンスタイル)のはシューベルトにしては非常に珍しい。両楽器とも幅広い音域を縦横無尽に飛び跳ねる。ハ長調のトリオは一転して鄙びた雰囲気。
そのトリオの調性を受け継いだハ長調の第3楽章では、11小節目にして早くも遠隔調への転調が始まり、煌めくような高音のトリルに伴われて変ニ長調、変ト長調、嬰ヘ短調という大周遊を繰り広げ、あっさりとハ長調に戻ってくる。中間部は甘美な変イ長調に長く留まり、その楽園での生活は終結近くでも短く回想される。
第4楽章はソナタ形式のフィナーレ。舞曲のリズムを基調とし、エネルギーを発散しながら精力的に前進していく。ホ長調の第2主題は、何とも言えないウィーン風の情緒に満ちている。展開部の終わりに置かれた謎めいた反行カノン風の転調のシークエンスも印象に残る。
  1. 2023/05/17(水) 05:21:13|
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ヴァイオリン・ソナタ(ソナチネ 第3番) D408 概説

ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ト短調 Sonate g-moll für Violine und Klavier D408
作曲:1816年4月 出版:1836年(「3つのソナチネ」作品137 第3曲として)
楽譜・・・IMSLP


前2作の翌月、1816年4月に書かれたト短調のソナタはより演劇的で、外向的な表現が随所にみられる。

第1楽章は付点のリズムが支配的で、晩年の歌曲『アトラス』D957-8にも似た、避けられない運命のようなものを感じさせる。やがてその緊張感は後景に退き、唐突なユニゾンで変ホ長調の第2主題が導かれるが、D384と同様に主題間のコントラストは明確ではない。
変ホ長調の第2楽章も、D384の第2楽章とよく似た三部形式の緩徐楽章。主部がモーツァルト風なところも似ているが、短い展開部の中でロ短調という遠隔調に転調し、異界の裂け目がぽっかりと口を開けているのはシューベルトの独壇場というほかない。
第3楽章は変ロ長調のメヌエット。どことなくスケルツォ風の他愛ない舞曲で、歌謡的な変ホ長調のトリオをもつ。
第4楽章はソナタ形式のフィナーレで、休符で明確に区切られたセクションごとに、互いにあまり関連のない主題が次々と登場する。結果的に、何か当てもなくさまよっているような、気ままに散歩しているような印象を与える。展開部と呼ぶにはあまりにも短く即興的なセクションを経て、この楽章でもD385の第1楽章と同様に下属調再現が試みられており、最後はト長調で元気よく終わる。
  1. 2023/05/16(火) 22:37:58|
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ヴァイオリン・ソナタ(ソナチネ 第2番) D385 概説

ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ短調 Sonate D-dur für Violine und Klavier D385
作曲:1816年3月 出版:1836年(「3つのソナチネ」作品137 第2曲として)
楽譜・・・IMSLP


前作と同じ1816年3月の日付があるが、その内容の落差には驚嘆を禁じ得ない。ここに聴かれる寂寞たる孤独、隠された狂気、異世界への誘いは、後期シューベルトが開拓していった地平に通じている。病魔に冒されながらそこに辿り着いたのではなく、シューベルトは早くも19歳にしてその扉を開けていたのだ。

第1楽章は不安げな弱音のピアノソロと、その静寂を打ち破る怒気を孕んだヴァイオリンが跳躍音程を提示する、緊張感の漂う第1主題から始まる。8分音符(2分割)のみだったリズムはハ長調の副次主題から3連符(3分割)が優勢となり、2分割と3分割の葛藤がヘ長調の第2主題で顕在化する。展開部は静寂に包まれ、ヴァイオリンは高音域をさまよい、ピアノが8分音符を刻みながら数度転調するのみ。しかしその凍てついたような寂寥感はただごとではない。再現部の大きな特徴はニ短調から始まっていること(下属調再現)で、この時期のシューベルトが何度か試みた構成である。コーダではついに刻みは4分音符(分割なし)にまで減退し、闇の中に沈んでいく。
第2楽章はヘ長調の緩徐楽章。コラール風の主題は温かみに満ち、慈悲深さをも感じさせる。推移部では16分音符のパッセージを繰り返しながら複雑な転調を経て変イ長調に到達、希望に満ちた調性で主題が再び奏でられるが、どこか落ち着きがない。推移部でまた幾度とない転調を重ねながら、元のヘ長調で主題が帰ってくる。此岸と彼岸を行き来するシューベルトの精神の本質が明示された楽章である。
第3楽章はニ短調のメヌエット。力強い6度跳躍で始まる主部に対して、変ロ長調のトリオでは少し気恥ずかしそうなそぶりを見せる。
ロンド=ソナタ形式の第4楽章は、同じ調性のピアノ・ソナタD784やD845のフィナーレにも通じる、彷徨する魂を描くような無窮動。スタティックな2分割とダイナミックな3分割のリズムの対比は第1楽章から受け継がれ、後年のシューベルトのドラマトゥルギーの源にも繋がっていった。
  1. 2023/05/15(月) 22:24:57|
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ヴァイオリン・ソナタ(ソナチネ 第1番) D384 概説

ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ニ長調 Sonate D-dur für Violine und Klavier D384
作曲:1816年3月 出版:1836年(「3つのソナチネ」作品137 第1曲として)
楽譜・・・IMSLP


1816年の3曲のソナタの中で最もウィーン古典派の様式に近く、シンプルで明朗な響きと規則的な楽節構造、冒頭の両楽器のユニゾンなど、モーツァルトの作品と言われれば納得する人も多いだろう。
一方で各楽章の調性や拍子など、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第1番(ニ長調Op.12-1)をモデルにしたと思われる点も多い。

第1楽章の冒頭を印象づける上行する分散和音音型は第1主題にも第2主題にも共通して現れ、結果的に両主題の卓立性は不明瞭となる。展開部ではこのモティーフを両楽器が交互に執拗に繰り返しながら、半音階的に転調を重ねていく。この反復による転調のシークエンスはシューベルトの展開部を特徴づける要素といえる。
イ長調の第2楽章の主部は5小節単位という不規則な楽節ながら、やはりモーツァルトのオペラの一場面を思わせるような清楚な主題が歌い交わされる。対照的に、イ短調の中間部での纏綿たる歌謡性と半音階的進行には濃厚なロマンが漂う。
第3楽章はロンド=ソナタ形式のフィナーレで、舞曲のリズムに乗って一点の曇りもない溌剌とした音楽が続いていく。
  1. 2023/05/14(日) 23:18:46|
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