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ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
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斎藤和志インタビュー(1) 指導者こそ知っておきたい4スタンス理論の話

佐藤卓史シューベルトツィクルス第17回ゲストの斎藤和志さんにお話を伺いました。
斎藤和志さんは東京藝大の大先輩であり、2001年の第70回日本音楽コンクールの「同期」優勝者として全国ツアーをともにした仲間でもあります。それもふた昔も前の話…
80分にわたるロングインタビューを4回にわけてお届けします!

佐藤 いや、大変お久しぶりです。
斎藤 ほんとですね。いつ以来ですか。まさかコンクール以来?
佐藤 いやそれはさすがにないと思いますけどね。コンクールがもう21年前で、翌年に受賞者コンサートであちこちご一緒して。
斎藤 確かコンチェルトで、東フィルに来てくれたのが・・・
佐藤 それにしてもたぶん2004年とかそのぐらいですね。
斎藤 そうですか。昨日の晩ご飯が何かも思い出せないぐらいだからあれなんですけど、もう本当にご無沙汰してます。
佐藤 前にリサイタルを聴きに伺ったんですけど、それももう十何年前に。
斎藤 ああ、僕の?
佐藤 はい。どこでしたっけあれ?
斎藤 それは津田ホールでやった。
佐藤 そうそう、津田ホールでなさったとき。
斎藤 それも20年前とかじゃないですかね。
佐藤 あ、そうですか。そのときのことはすごくよく覚えてますけど。
斎藤 それはそれは。リサイタルとか面倒くさくなってあまりやらないでいたのでね。
佐藤 その間はどんな感じの人生を送ってらっしゃいました?
斎藤 あくせくやってたっていうか。でも実はジストニアみたいな、指が動かなくなったり、口が動かなくなったり、頭が回らない、まあそれはいつも通りですけど(笑)それでもうちょっと調子良くなったら派手にリサイタルでもやろうかなと思って、しばらくオーケストラでだましだまし適当に吹いたりして。

斎藤和志インタビュー01

佐藤 (笑)いやいや。
斎藤 そしたらまあ、治ったんですよ。完全に治って。
佐藤 はい。
斎藤 それじゃリサイタルやろうかなと思ったらコロナ騒ぎで、延び延びになって。それでも去年オペラシティで、リサイタルを久々に。あとはもうちょっと小さいところ、ライヴハウスとかですね。
佐藤 ああそうなんですね。
斎藤 いろんなジャンルの音楽が好きで、ジャズとかの人とも会える、みたいなのをやったり。だいたい勤めてる東京フィルっていう会社じたい、いろんなジャンルを何でもやる会社なものでして。
佐藤 そうなんですか。
斎藤 ええ、すごいビッグなロックの人が来てくれたり、ジャズの人が来てくれたり。
佐藤 結構実験的な感じなんですね。
斎藤 あとはもちろん、映画音楽とか、アニソンとかゲーム音楽とか。
佐藤 そういうのはお客さん入りますからね。
斎藤 お金もあるし、アニソンとか馬鹿にしてる人もいますけど、中で曲書いたりアレンジしたりしてる人はプロ中のプロだから、すごい曲ができあがってくるので、そういうのは、演奏も各ジャンルのやっぱりプロ中のプロな人と一緒にやるので、楽しいですよね。
佐藤 ほうー、なるほど。
斎藤 面白い展開を見せてると思いますね、あっちの業界はアツいですね。昔のクラシックの人がやっつけで安い仕事としてやってるのとはちょっと違う。つい先日も挾間美帆さん、もうホント世界的なスターになりましたねえ!ジャズとクラシックの融合みたいな、毎年やってる演奏会があって、すごい盛り上がって。
佐藤 はー、素晴らしいですね。
斎藤 時代はまたどんどん先に動いてるなっていう感じはしますね。

佐藤 リハーサルの間も4スタンス理論のお話をされていましたけど、それはやはり身体の不調と関係して始められたんですか?
斎藤 そうですね、身体のことを勉強していって、そういうところに行き着いた。
佐藤 何年ぐらい前から?
斎藤 6~7年前ぐらいからかな、自分は。理論じたいは20年ぐらい前からあって、他のスポーツの世界ではもうわりかし普通になりつつあるみたい。
佐藤 ああそうなんですね。
斎藤 ゴルフとかダーツが流行りとしては一番最初だったみたいですね。
佐藤 ダーツ。
斎藤 ダーツやります?
佐藤 いや、ちゃんとやったことはないですけど。
斎藤 なんか、フォーム論争ってあるじゃないですか。ゴルフもそうですけど、動いてる中で即興的に何かやるんじゃなくて、ピタッとした静止した型があるやつは特に。
佐藤 なるほど。
斎藤 そのときに理想のフォームっていうのは何なのか、必ず論争になる。例えばダーツだと、手首で投げるのについていった方がいいという派と、手首は使わないで、肘を使って投げた方がいいという派の人がいると。
佐藤 うん。
斎藤 楽器もそうですよね、ピアノでも指の付け根を使うんだとか、手首を使うんだとか、フルートでも吹く姿勢とか指の形とか持ち方とか。
佐藤 ふふふ。
斎藤 なんでそんな論争になるのかというと、ああなるほどこういうことだったんだと。生まれつきの骨格が人によって違うから。
佐藤 え、それは骨格に関係していることなんですか?
斎藤 骨格と脳と両方でしょうね。なんでしょう、左利き、右利きみたいな話で。実は、これ分かれる理由ってまだはっきりはしてないんですよね。でも、それがあるのは経験で知ってる。
佐藤 ああ、脳ねえ。
斎藤 ただ基本的にはやっぱり骨格ですね、まっすぐ立ったときの姿勢も全然違うんですよね、人によって。
佐藤 そうですね。
斎藤 人によって違うっていうのはもちろんみんなわかってることなんですけど、それは骨がどういうふうに連動して動いているかっていうことなんですよね。階段を上り下りしたり、吊革につかまったり、携帯持ったり、コップで酒飲んだり、そういうひとつひとつの動きが人によって違うんですけど、みんなバラバラに違うのかと思ったら実は法則性があって、どちらかというと手首は固定して肘を動かして酒飲む人は、これはBタイプというんですけど、ピアノは指の付け根から弾くし、吊革もそうやってつかまるし、階段はかかとから割とドシドシと踏んで上り下りするイメージ。

Bタイプの酒の飲み方
こうやって肘を曲げて酒を飲む人はBタイプ

佐藤 はあはあ。
斎藤 逆につま先だけで階段をタタタッて駆け下りる人もいる。Aタイプ。なんか見た感じ佐藤君はそういうふうに見えるんですけれど。
佐藤 うん、僕はつま先派ですね。
斎藤 だからピアノも指をこうやって弾くし。
佐藤 そうですね。
斎藤 それが音色にも関係しているんですね。みんな繋がってて。

佐藤 4スタンスっていうのは4つあるっていうことなんですか?
斎藤 そうなんです。
佐藤 それが、AとBと?
斎藤 実は分け方は3つあるんですけど、全部重なってるので。1つは関節の使い方の順番ですね。関節というのはひとつ飛ばしで動かしてるという理論で。
佐藤 はあ。
斎藤 手首がぷらぷらしてて、肩が自由で、股関節で主に歩く人っていうのは、ヴァイオリンのヴィブラートも手首でかけるし、ボウイングも手首で。ダーツも、ピアノも手首を使ってこういう風に弾くっていう人たちはAタイプBタイプっていうのはその逆の関節を主に使ってる。手首は動かさないで、肘は自由に動いてて、肩は動かないで、みぞおちが自由に動く。股関節は動かないで、膝が自由に動く。これがA・B
佐藤 はい。
斎藤 もうひとつの、1・2っていうのは、人差し指中心に動かしてるか、薬指中心に動かしてるかっていう。
佐藤 ほう。
斎藤 椅子から立ち上がるときも、少し内側に立ち上がる人と、外側に身体を開いて立ちあがる人がいる。っていうのは前腕にもすねにも骨が2本ずつあるんです。橈骨と尺骨、脛骨と腓骨。人差し指側の骨中心の人が、1タイプ。それとは逆にグラスとかも親指と薬指で持つ人いますね、マイクとかも。
佐藤 ああわかりますね。
斎藤 そういう人は2タイプです。これが1・2の分け方なんですけど、これは実は音楽面から言えばさほどの大問題ではなくて、もうひとつクロス・パラレルっていうのが、これが音楽家にとって一番大事件なんです。体幹を斜めに連結して、「ひねって」動かしてる人と、まっすぐ連結して「平行に」動かしている人がいる。まっすぐなのがパラレルで、ひねってる人をクロスという。これがなんと、リズム感の違いになるんです。
佐藤 へえ!
斎藤 つまり、クロスの人って、細かい刻みがどんどん均等じゃなくなって、ドゥークドゥークドゥークドゥーク・・・と、3連符っぽくなっていく。これがイネガルとか、スイングっていわれてるもの、ああいう不均等なリズムっていうのは世界中にあるんですけど、それの起こりですね。なぜかというと、ひねりの動きってそれ自体そういうリズムを伴ってるんです。それに合わせて音を出せば、当然そういうリズムになる。
佐藤 なるほど。
斎藤 ところがパラレルの人は、どこまでいってもタカタカタカタカ・・・と均等なんです。だから日本でも、野球の応援で「かっとばせー」とか、童歌で「あんたがたどこさ」とかあるけど、パラレルの人はあれ付点の「カッ、トーォバ/セー」だと思ってる。クロスの人は3連符、「カッットーバ/セー」だと記憶してるんです。
かっとばせ
野球の応援、あなたはどちらに聞こえますか?

4スタンス表

佐藤 ははあ。
斎藤 もともとのリズム感が違う。それで、A1とB2がクロスA2とB1がパラレルなので、4つのスタンスに収まるんです。いつもくにゃくにゃしてるA1の人とかは、「たん~たかたかたかたーかたかたかたか、んりらりらりん」(モーツァルト:フルート四重奏曲 K285【YouTube】~第1楽章 第3・4小節)っていう、こういう音楽になる。こういう人いるじゃない。
佐藤 はい。
斎藤 こうじゃなくて、最初からパキパキ動く人は、「たんたかたかたかたかたかたかたかたか、たかたかてぃん」、ってこういう音楽になる。それぞれ自分にとってはどちらかが自然で、そこから他の人のリズム感を「特徴あるリズムだなあ」って聴いている、眺めてるみたいな感じになるわけですね。
佐藤 なるほど。
斎藤 これは生まれつき決まっていて、左利きとか右利きみたいな話なんです。左利きと右利きがあるっていうのはみんな知ってるじゃないですか。
佐藤 はい。
斎藤 左利きの人に無理に右ピッチャーやれとは言わない、左ピッチャーやりますよね。でも成功したプレイヤーって、自分のやり方が一番弾きやすいし、音楽とはこういうものなんだって思ってるから、弟子に自分が良いと思ってる奏法を同じように教えちゃう人っているじゃないですか。
佐藤 ああ、いますねえ。
斎藤 「なんでそんな弾き方なんだ。もっと、舐めるように弾くんだ」とか。
佐藤 あっはっは。
斎藤 と思えば「もっとがっちり弾け」という人がいたり。で、最終的には好きにしていいけどその門下だからまず先生の言うことを聞いて基礎の型を学んで、卒業したら自分の自由なやり方で、という考え方の人が多かったんですけど、要するにそれは場合によっては左利きの人に、俺に習ってる間は右ピッチャーやれって言ってるようなことで。
佐藤 はい。
斎藤 そうしたら左で投げるより、もちろんやりにくいじゃないですか。だからコンクールや試験、オ-ディションなんかで成績出なくて、ああ私才能ないのかって思っちゃう。
佐藤 うーん。
斎藤 しかもそのまま無理にやると、身体壊しちゃうんですよ。自分の本能的な動きと合ってないことを、この楽器の奏法はこういうものなんだと思って無理にやると、ジストニアや腱鞘炎なんかになる。
佐藤 なるほど。
斎藤 もちろんジストニアにもいろんな複合的な原因があって、僕は医者じゃないし無責任なことは言えないですけど、僕は何百人か見て、ほとんどの人がそうなってる原因は、本来持ってる身体の自然な連動、毎日運動しているときや吊革につかまったり、コップ酒飲んで騒いでるとき、つまり無意識にリラックスして自然にやってるその人本来の動きと逆の動き、違う動きをこの楽器はこうやって弾くんだって、それにとらわれて、無理な練習を頑張ってやっちゃった人がなってますね。99%。
佐藤 それはわかりますね。
斎藤 だからならない人は、結構わがままな人なのかなって。
佐藤 (笑)
斎藤 自分の気持ちを譲らないというか。
佐藤 曲げない。
斎藤 逆に言うとそこに敏感なんだな。もちろんプロの人は、ちゃんと他人と合わせて、タイミングもリズムも人に合わせることができる。でもスーパースターのソリストや指揮者ほど、本来持ってるリズムのその特徴がはっきり出てますよね。
佐藤 ほう。
斎藤 それはつまり自分の自然に近い演奏。それを徹底してる指揮者とかソリストの方が、心を打つ。形だけ整えたモノマネみたいな音楽とは対極にある音楽です。
佐藤 ああ、わかりますね。
斎藤 そうすると、ジストニアにも当然ならない。不自然な身体の使い方をしてないから。だからこの話は、生徒側よりも、先生側に知っていて欲しいんです。ちょっとでも知っていれば、頭ごなしに「そんな弾き方、姿勢だからダメなんだ。俺の真似をしろ」っていうふうにならないで済む話かなって。それでちょっとずついま宣伝してるんですけど。でも世界的な先生だと、なんかこんな理屈を知らなくてもそれを見抜く力のある先生っていますね。
佐藤 はあ。
斎藤 「ここは直した方がいい」「ここはこいつの好きにやらせた方がいい」っていうのがわかってる先生っているじゃないですか。やっぱり世界レベルの人を何人も育てたことがある先生だと、「あれ? なんかああやると弾きにくいはずなのに、あいつあれでショパンコンクールで1位になりやがった」みたいな。
佐藤 そりゃすごい(笑)
斎藤 そういうことを経験していると、そこはいじらないでおこうってわかるんでしょうけど、普通はやっぱり親切で、「そんな猫背だから良い音出ないんだよ」「指の形はこう!」とか言っちゃうんですよね。
佐藤 はいはい。
斎藤 実は一見ちょっと猫背に見える姿勢の方が弾きやすい人がいるんだっていうことを、経験則じゃなくて、骨の連動性と動きから理論的に解き明かした、かなりわかりやすく説明できるようになったという、そんなお話で。
佐藤 興味深いですね。
斎藤 これはすごくいまアツい話です。

第2回につづく
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  1. 2022/10/04(火) 01:26:40|
  2. シューベルトツィクルス
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