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シューベルティアーデ電子版

ピアノ曲全曲演奏会「シューベルトツィクルス」を展開中のピアニスト佐藤卓史がシューベルトについて語る
次回公演詳細

ドイツ舞曲とエコセーズ D643 概説

ドイツ舞曲 嬰ハ短調 と エコセーズ 変ニ長調 Deutscher cis-moll und Ecossaise Des-dur D643
作曲:1819年 出版:1889年(旧全集)
楽譜・・・IMSLP

ヨーゼフ・ヒュッテンブレンナー Josef Hüttenbrenner(1796-1888)はアンゼルム・ヒュッテンブレンナーの2歳下の弟で、兄と同様に故郷グラーツで音楽を学んだが、それを本職にすることはなかった。官吏の職を得るために22歳のときにウィーンに進出し、シューベルティアーデの仲間に加わった。
ヨーゼフの作曲能力はシューベルトもある程度認めていたようで、交響曲第1番やオペラ『魔法の竪琴』第1幕のピアノ編曲といった下仕事を任せたりしている。
この2つの舞曲はヨーゼフに献呈されている、という以上にヨーゼフと深い結びつきがある。ヨーゼフの作品の自筆譜の裏面に書きつけられているのだ。

ヨーゼフの作品は『怒りの踊り』というタイトルのピアノ曲で、♯4つ・♭3つという変わった調号のついた4分の3拍子の舞曲だ。この調号は、嬰ハ短調またはハ短調のどちらでも演奏可能、ということだろう。オクターヴを駆使した技巧的な小品だが、楽想は野暮ったくアマチュアの域を出ない。
五線紙にはくしゃくしゃに丸められたような跡があり、おそらくヨーゼフ自身が作曲後に破棄したものと考えられる。シューベルトがそれを拾ってきて、表裏と上下をひっくり返し、同じ嬰ハ短調の「ドイツ舞曲」(Teutscher)と、その下に同主長調(異名同音)の変ニ長調の「エコセーズ」を書いてヨーゼフに贈った、ということらしい。単なるプレゼントというよりは、作曲スキルの差を見せつけているような感じがしなくもない。
ヨーゼフはシューベルトの熱心な崇拝者だったが、少々度が過ぎるきらいがあり、シューベルトからは逆に疎まれていたようだ。

ドイツ舞曲で嬰ハ短調という珍しい調性をとったのは、ヨーゼフの原曲に寄せたからなのだろう。調性ともども、ショパンのワルツを彷彿とさせる繊細な音使いに驚かされる。後半ではイ長調、嬰ハ長調へと転調していき、そのまま次の変ニ長調のエコセーズに繋がる。
エコセーズは3度重音を駆使した技巧的な曲で、第5-7小節の右手の下降3度音階、それを左手で模倣する第13-15小節は特に演奏至難である。ピアノの名手だったアンゼルムが難しい嬰ハ長調のピアノ・ソナタ」(D567?)を弾きこなして献呈を受けたというエピソードを思い起こさせる。
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  1. 2022/09/28(水) 11:59:46|
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[告知] シューベルトツィクルス第16回「舞曲Ⅲ ―最後のワルツ―」

シューベルトツィクルス第16回
2022年4月14日(木) 19時開演 東京オペラシティリサイタルホール
♪ドイツ舞曲 D135 ♪ドイツ舞曲 D139 ♪20のワルツ D146(「最後のワルツ」)
♪エコセーズ D158 ♪ドイツ舞曲 D975 ♪16のドイツ舞曲と2つのエコセーズ D783
♪3つのドイツ舞曲 D971 ♪3つのドイツ舞曲 D973 ♪2つのドイツ舞曲 D974 ♪2つのレントラー D980B
♪2つのドイツ舞曲 D841 ♪ギャロップと8つのエコセーズ D735
一般4,500円/学生2,500円 →チケット購入
  1. 2022/04/14(木) 19:00:00|
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ギャロップと8つのエコセーズ D735 概説

ギャロップと8つのエコセーズ Galopp und acht Ecossaisen D735
作曲時期不明 出版:1825年(作品49)
楽譜・・・IMSLP

1825年11月に「34の感傷的なワルツ」D779とともにディアベリから出版されたが、早くも1年後に再版され、その表紙には「1826年の謝肉祭に、ペストの七選帝侯ホールでの舞踏会で演奏された」と記されている。
なぜこの作品が遠くペスト(現在のブダペスト)で演奏されることになったのか、それがどういう意味を持つのかはよくわからないが、かなり長い期間にわたって、しかもオーケストラ版で演奏されたようで、大人気を博したものと思われる。同年ペストのミュラー社からも刊行されたこともそれを裏付けている。
最初にダ・カーポ形式のギャロップが置かれ、その後8曲のエコセーズが続く。いずれも自筆譜は現存しないが、第6エコセーズはD977-1(変ニ長調)とほとんど同一であり、かなり早い時期(1815年前後)に成立した作品と推測されている。

ギャロップ ト長調/ハ長調
2拍目にアクセントのある陽気なギャロップ。ハ長調のトリオではさらに疾走感が高まる。

エコセーズ
1. ト長調
ファンファーレ風の和音連打で始まる。後半ではロ長調に接近する。
2. ホ短調
ホ短調とト長調の間を揺れ動くが、曲頭と曲尾はホ短調。おなじみのダクティルスのリズムが主要モティーフとなっている。
3. ニ長調
こちらは逆に短短長リズムの連打が特徴的なエコセーズらしい楽曲。3度重音が技巧的。
4. 変ロ長調
右手は2声で重ねている。後半では剽軽な表情を見せる。
5. 変ホ長調
3度重音が続く技巧的なエコセーズ。後半のトレモロ音型が面白い。
6. 変ホ長調
3連符で始まる軽快なエコセーズ。最終2小節はD977-1よりも1オクターヴ高く指示されている。
7. 変ホ長調
全編にわたりオクターヴ+スタッカートの、シャンパンの泡のような軽やかなエコセーズ。前半は延べで記譜されている。
8. 変イ長調
分散和音の跳躍の多いメロディーに細かなアーティキュレーションが指定されている。後半の突然のハ長調(ヘ短調?)への転調が意表を突く。
  1. 2022/04/13(水) 10:53:33|
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エコセーズ D782 概説

エコセーズ ニ長調 Ecossaise D-dur D782
作曲:不明 出版:1824年
楽譜・・・IMSLP


1824年2月にザウアー&ライデスドルフ社から出版された「Fr.シューベルトとM.J.ライデスドルフによる人気の新ギャロップとエコセーズ」にはシューベルトの手になる3曲のエコセーズが収録されている。さまざまな作曲家の作品を集めたオムニバス舞曲集にシューベルトが曲を寄せることはたびたびあったが、シューベルトと他の単一の作曲家との「2人集」というべき出版物はこれが唯一のものだ。
相手の作曲家マクシミリアン・ヨーゼフ・ライデスドルフ Maximilian Joseph Leidesdorf (1787-1840)はウィーン生まれで、1822年にイグナーツ・ザウアーと組んで出版社を興し、ベートーヴェンやシューベルトの作品を刊行した。作曲家としても活動したが、成功したとは言い難い。自社から舞曲集を出版するにあたって、シューベルトの知名度に頼ったということなのだろう。はじめにライデスドルフのギャロップが6曲、その後にシューベルトのエコセーズが3曲収められているが、表紙ではシューベルトの名前の方が先に記されている。
この3つのエコセーズのうちの第2曲が本作である。前後にはD781-4とD781-7が、それぞれ♯1のト長調/ホ短調(原曲は♭6の変ト長調/変ホ短調)で置かれている。

D782のドイチュ番号を与えられたこのエコセーズは民謡風の親しみやすい作品で、後半のIII度の和音が意表を突いている。自筆譜は発見されていない。
  1. 2022/04/10(日) 14:41:05|
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12のエコセーズ D781 概説

Brown, Ms. 44  12のエコセーズ  12 Ecossaisen
タイトル:12 Eccossaisses
日付:1823年1月
所蔵:ウィーン楽友協会資料室(資料番号 A261)

12のエコセーズ 12 Ecossaisen D781
作曲:1823年1月 出版:1825年(第1曲)・1824年(第4・7曲)・1889年(その他)
楽譜・・・IMSLP

1823年1月の日付を持つBrown, Ms.44の「12のエコセーズ」のうち、第1曲は「16のドイツ舞曲と2つのエコセーズ」D783の第2エコセーズとして収録されたため、旧全集ではこれ以外の11曲をまとめて曲集とした。これを踏襲してD781を「11のエコセーズ」とする資料や楽譜も多く、中にはD782のエコセーズと合わせて12曲という解釈をしている資料もある。
今回はドイチュ目録に従い、D783-E2を含む12曲を自筆譜と同じ曲順で演奏する。

1. ロ短調→ニ長調 (=D783-E2)
理論的にはニ長調のVIの和音から始まっていると解釈することもできるが、ロ短調で始まり途中で平行調のニ長調に転調するとみる方が自然だろう。このように曲頭と曲尾の調性が異なり、とりわけ平行調への転調が多いのがこのエコセーズ集の特徴で、シンプルで短いエコセーズに変化とドラマを持たせようという工夫が感じられる。

2. 変ト長調
突如としてフラット系の世界へ入る。前曲のニ長調から見るとずいぶんな遠隔調だが、ロ短調から見ればドミナント調(嬰ヘ長調)の異名同音と考えられる。後半ではやはり平行調(変ホ短調)への接近が見られる。

3. ニ長調
モティーフは第1曲とよく似ている。後半のバスの半音下行が印象的。

4. 変ト長調
再び♭6個、そして前半の終わりは平行調の変ホ短調で終止する。後半は単純な反復ではなく、最終2小節に2番括弧が設定されている。
この曲と第7曲、そしてD782のエコセーズは1824年にライデスドルフ社から選集として発表されているが、そこではト長調に移調されている。詳しくはD782の解説で述べよう。

5. 変ホ長調
前曲の平行調(変ホ短調)の同主調。前半ではメロディーがどんどん上昇していく。

6. 変イ長調
第4曲同様に平行調(ヘ短調)で前半を終える。後半ではII度調の変ロ短調も経過する。

7. 変ホ短調→変ト長調
両手で短い和音を連打する面白い舞曲。[4]の1拍目の不協和音も興味深い。後半では平行調の変ト長調へ転調しそのまま終止する。

8. ロ短調→ロ長調
[1]のH音から[2]のEis音というユニゾンの増4度跳躍はまさにデモーニッシュ。後半ではD音に臨時記号の♯がついてロ長調で終止する。全曲の中で最も落ち着かないエコセーズである。

9. ニ長調
アウフタクトにドミナントの和音という意表を突いた開始。伸びやかな旋律線が魅力的だ。後半でのバスの半音上行は第3曲と対応する。

10. ロ長調
右手がメロディーとともに属音の保続をオクターヴで重ねる。前半の終わりでは平行調の嬰ト短調で半終止する。[11]のFisisとFisの二重倚音はいかにもロマン派的。

11. 嬰ト短調→ロ長調
高音域での逆付点のリズムがクリスタルな響きを生む。後半では平行調のロ長調に転調し、[12]のIV度ドミナントの強奏が衝撃を与える。

12. ロ短調→ニ長調
第1曲と同じ調性関係の終曲。シューベルトの偏愛したダクティルスのリズムに支配されている。
  1. 2022/04/10(日) 09:23:31|
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